商標実務のブログ

日々の商標実務で気付いたことを中心に

一瞬で図形商標を検索しよう!WIPOの「Global Brand Database」基本的な使い方

図形商標の検索には、ウィーン図形分類を使って、J-PlatPatなどで検索することが一般的だと思います。

しかし、「とりあえずざっくり見たいんだけどなぁ」とか、「この図形商標のウィーン図形分類の取っ掛かりすらわからん!」といったときには、WIPOの『Global Brand Database』が便利です。

 (下記の各画像は「Global Brand Database」http://www.wipo.int/branddb/en/を引用しています。)

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この記事では、Global Brand Database」の図形商標検索の基本的な使い方を説明します。

 

はじめに

Global Brand Databaseは「類似画像検索」という技術が使用されています。

「類似画像検索」とは、画像で画像を検索する方法です。これまでに様々な手法が提案されており、形状に着目する手法や、色に着目する手法などがあります。

最近では、意匠の類似画像検索もリリースされたり、ウェブではGoogleが画像検索を提供しています。 


「Global Brand Database」を使う目的

「Global Brand Database」は試してみるとわかりますが、類似の商標を全て拾ってくることはできず、これで図形商標の調査を完結させることはできません。

しかし、そうであっても、ワンクリックで類似っぽい商標を検索できるというメリットはとても大きく、これまでの調査の方法を変えます。

このシステムを使う目的は大きく3つあります。

 

【目的1】同一の商標を見つけるために使う

ウィーン図形分類で検索する場合は、類似順に並べてくれていませんので、検索結果の途中にポンっと同一の商標があったりします。

同一の商標は決して見逃せませんが、例えば1万件の図形商標を調査していれば、見逃しが発生することも考えられます。

「Global Brand Database」は同一の商標であれば、かなりの確率で見つけ出してくれますので、同一の商標の見逃しを事前に防ぐことができます

実際に、僕はこのシステムのおかげで同一の商標を見つけたことが3〜4回あり、助かりました・・・

 

【目的2】ウィーン図形分類の候補を得るために使う

「Global Brand Database」が出した検索結果を200〜300件程見れば、1つくらいは似たような商標を見つけてくれますので、その商標のウィーン図形分類を調べます。

そうすると、その商標から調査予定の商標のウィーン図形分類の候補を得ることができます

馬や子供など、キャラクターを描いている画像商標であれば、まだウィーン図形分類は見つけやすいですが、抽象的な図形、幾何学的な図形などはウィーン図形分類を探し出すことは難しいです。

そんなときは、このシステムを使うことでウィーン図形分類を見つける時間が短縮できるという大きなメリットがあります。

 

【目的3】ざっと見るために使う

商標をウィーン図形分類でいきなり調査する前に、とりあえずどんな感じかな〜と見ることできます。

しかし、似ている商標を見つけることができる場合もありますが、99%は似ていません。

あまり結果を期待せずに、100件中1件あればラッキーくらいの気持ちで検索するとよいと思います。 

 

「Global Brand Database」の使い方

下記の4つのステップで検索することができます。

(1)国を指定する

(2)検索画像を入力する 

(3)どの特徴に着目して検索するか決める

(4)文字商標・図形商標の種類を選ぶ

 

 

(1)国を指定する(Source)

Global Brand Databaseは、世界の商標を検索することができますが、今回は日本の商標について調べてみましょう。

Source」タブから「JP TM」を選択しましょう。

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(2)検索画像を入力する(Pick an image)

次に「Image」タブをクリックします。

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Pick an image」の場所に検索したい画像のファイルの場所を指定するか、画像をドラッグして入力します。

 今回は、この犬のイラストで検索してみます。

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そうすると、このように反映されます。

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(3)どの特徴に着目して検索するか決める(Pick a strategy)

画像のどの特徴に着目して検索するかを選びます。着目する特徴によって、検索結果が大きく異なります

以下の4種類から選ぶことができます。

  • Shape:形状の特徴
  • Color:色の特徴
  • Texture:線のタイプ(the types of lines)の特徴
  • Composite:形状と色の組み合わせの特徴

 この中ではShapeが最もオススメで、検索結果が一番良好です。(体感的に)

Textureはよくわからないですが、Shapeと似ているようです。詳しくはヘルプで確認してください。

今回は、Shapeを選択します。

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(4)文字商標・図形商標の種類を選ぶ(Pick an image type)

 最後に文字商標か図形商標かを下記4つのタイプから選びます。

  • Verbal:文字商標
  • Nonverbal:図形商標(文字部分なし)
  • Combined:文字+図形の結合商標
  • Unknown:不明

 

今回は、Nonverbalを選択します。ウィーン図形分類を探すだけなら、Nonverbalだけでもよいかもしれません。

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この後に、検索(filter)ボタンを押します。

 

検索結果

1ページ目

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2ページ目

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3ページ目

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ご覧の通り、全然似てない商標ばかりです。

 

しかし、3ページ目の中ごろにこんな商標がありました。

 

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この商標のウィーン図形分類を見てみると・・・

 

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下記のウィーン図形分類の候補を取得できました!

  • 3.1.8 イヌ、オオカミ、キツネ
  • A3.1.17 立っているシリーズⅠの動物

「立っているシリーズⅠの動物」という分類があることを知れたおかげで、J-PlatPatで「3.1.19 座っているシリーズⅠの動物 」という分類も見つけることができました。この方法ならウィーン図形分類の候補がすぐに見つけることができます。

 

この後は、J-PlatPatの図形検索でいつも通り検索しましょう。

 

まとめ

いかがでしょうか。これまでは、いきなりウィーン図形分類のみの検索しかできなかったのですが、Global Brand Databaseを使うことによって、ウィーン図形分類の候補や同一の商標を検索できたりと、ぐっと調査の方法が広がります。ぜひ、一度試してみてください。

 

J-PlatPatをブックマークするときは、「サイトマップ」ページが超オススメ

今回はJ-PlatPatを利用するときのちょっとしたテクニックです。

 

J-PlatPatをブックマークするとき

J-PlatPatは弁理士であれば、かなり使いますよね。

ってことは当然にお気に入り(ブックマーク)に入れていると思うんですが、

そのお気に入りのURLはトップページですか

 

【J-PlatPatのトップページ 】

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実は、トップページをお気に入りにしていると非常にモッタイナーイ!!です。

 

 

なぜなら、この初心者用のトップページをプロである弁理士が使うことは非常に少ないからです!!

絶対どこかのページに移動します!

商標弁理士であれば、「商標出願・登録情報」ページとか「称呼検索」ページとか「商品・役務名検索」ページとかに移動します。

 

 

そうすると、トップページであれば、まずページ上部にある青色の「商標」というところにマウスを上に乗せて、

 

J-PlatPatのナビゲーション 】

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にょろにょろとページ一覧を出してから、そのリンク先をクリックして移動しますよね。

 

J-PlatPatのにょろにょろ 】 

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このにょろにょろ待つ間、約1秒!!

 

これが無駄です!!

 

なぜ、にょろにょろさせるのに、1秒も待たなくてはいけないのか!

 

 

安心してください。

そんなときは、サイトマップ」ページがありますよ。

 

サイトマップページ】

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ここであれば、既に全てのページが表示されているので、にょろにょろの1秒間を節約できます

 

いきなり好きなページに飛んでください!

 

小さいことですが、1秒の積み重ねが効率化には非常に大事です。

 

まとめ

では、下記から早速「サイトマップ」ページをお気に入りにどうぞ。

サイトマップ|J-PlatPat

 

商標調査のヒアリングで重要な5つのポイント

商標調査前にヒアリングを行いますが、このヒアリングが正確にできていないと、商標や商品・役務を正確に特定することができません。

そうすると、その後の出願にも影響が出て、全く意味のない権利になったり抜けや漏れがある権利になる可能性があります。

 

そのため、ヒアリングは商標業務の中で最重要な業務といえます。 

この記事では、ヒアリングで重要な5つのポイントをまとめています。

 

(1)商標を口頭だけで聞かない

商標調査の依頼を受けるときには、事前に、書面やメールなど、文字や図形がわかる形で教えてもらいましょう。

もし口頭だけで商標調査の依頼を受けると、クライアントと自分で思っている商標が異なり調査結果が変わってしまうこともあり、調査をやり直しする場合もあります。

例えば、「アマゾンという商標で調査して」と言われた場合は、下記のように様々な態様が考えられます。

  • Amazon
  • アマゾン
  • アマ・ゾン
  • ロゴのアマゾン

 どの商標を望んでいるのかを明確にするためにも、できるだけ紙かメールの形でもらいましょう。

 

 

(2)他に使用している者がいるかを聞く 

他社が商標を使用しているかどうかの情報は重要です。それによって、3つの判断が大きく変わります。

  • 商標出願を急ぐかどうかの判断
  • 識別力の判断
  • 早期審査時に商品を減縮せずに済むかの判断

以下に説明していきます。

 

(2−1)商標出願を急ぐかどうかの判断が変わる

クライアントによって調査報告などの納期をバラバラにするべきではないですが、唯一他社が使用している場合は、超特急で調査・出願すべきです。  

 

僕は実際に1日違いの出願を経験しました。クライアントはタッチの差で負けました。

「たった1日頑張って早く調査していれば・・・出願していれば・・・」と後悔があります。

 

他社が使用している場合は、その会社も商標出願を検討している可能性が高いです。

そのため、1日の違いが商標登録ができるかを分ける重要な違いになり得ます。

後悔しないためにも、他社が使用していれば、超特急で調査・出願しましょう

 

(2−2)識別力の判断が変わる

他社が使用していれば、その商標は識別力を失います。

例えば、飲食店で商標「わっしょい」は識別力はあると思うでしょうか?

普通は識別力あるように感じますが、審決例では「わっしょい」は皆が使っているから識別力なしと判断されています。

識別力を適切に判断するためにも、他社が商標を使用しているかどうかの情報を得ることは重要です。

 

【参考審決例】不服2014-25553 

・・・・飲食物の提供に係る分野においては、店舗の名称に多数用いられているから、本願商標の構成中の「わっしょい」の文字部分は、その指定役務との関係において、自他役務を識別する機能を果たし得ないか、又は弱いものというべきである

引用:不服2014-25553 

shohyo.shinketsu.jp

 

(2−3)早期審査時に「商品を減縮せずに済むか」の判断が変わる

早期審査の条件としては、通常は現在使用している商品のみで出願する必要がありますが、第三者が使用している場合は、使用している商品のみに限らなくてよいとされています。(「権利化について緊急性を要する出願」と言います)

そうすると、早期審査で審査期間が短くなるのに、通常の出願と同様に権利範囲を広く取得することができ、とても有利になります。

 

www.jpo.go.jp

 

 

このように他に使用している者がいるかどうかによって、様々な判断が変わります。

 

 

(3)主力商品・サービスを聞く

販売している商品が多岐にわたる場合は、どの商品・サービスを優先して権利を確保するのか検討する必要があります。

主力商品の権利が既に他社に取得されている場合は、不使用取消審判や商標変更が必要になりますが、あまり重要ではない商品であれば、その部分を削って出願することによって一定の権利を得ることができます。

他社に先に取られた商品は販売しないようにすれば、基本的には問題になりません。

 

主力商品・サービスが何であるかによって、調査後のアドバイスが変わるため、主力商品・サービスを聞いておくことは重要です。

 

 

(4)他にこういう商品・サービスやってませんか?と聞く

ここは商標弁理士腕の見せ所です。

クライアントが気付いていないが、実は取得しておくべき商品・サービスがあります。

例えば、クライアントが次のように説明してきた場合は、どの区分が最適でしょうか?

 

「アプリ作ってます!」

 

この場合は、9類「電子計算機用プログラム」、42類「電子計算機用プログラムの提供」などが想定されます。

 

「カレーの飲食店しています!」

 

この場合は、43類「飲食物の提供」が想定されます。

 

しかし、本当にこの区分だけで、クライアントのビジネスが十分に守れるでしょうか?

 

不安な場合は、そのビジネスと関連が深い商品・サービスの権利が必要かをヒアリングしましょう。

  

「アプリ作ってます!」

→広告収入も目指しますか?

 

広告収入もあれば、35類「インターネット上の広告スペースの貸与」など

 

「カレーの飲食店しています!」

→カレーのテイクアウトもありますか?

 

テイクアウトがあれば、30類「調理済カレーライス」など

  

商標の場合は、ビジネスモデルに興味を持つことが非常に重要です。このビジネスはどういう風に儲けてるのかな〜と考えることにより商品・サービスの提案力が変わってきます。

 

 

(5)何か疑問点はありませんか?と聞く

積極的なクライアントであれば、ヒアリング中に質問をガンガンしてきますが、そこまで積極的でないクライアントの場合はまだ不明な点が残っていることがあります。

そんなときは、

 

「何か疑問点はありませんか?」

 

と聞いてあげましょう。

 

もしかしたら、何か引っかかっていることがあり、それが重要なことかもしれません。また、疑問点を解消することで顧客満足度を上げることにもつながります

 

 

まとめ

商標調査のヒアリングでは下記の5つのポイントが重要です。

  • 商標を口頭だけで聞かない
  • 他に使用している者がいるかを聞く
  • 主力商品・サービスを聞く
  • 他にこういう商品・サービスやってませんか?と聞く
  • 何か疑問点はありませんか?と聞く

全て網羅できなくても、このうちの少しでも意識することにより、よりレベルの高いヒアリングをすることができます。

ヒアリングをもっと有意義にするための下準備5つのポイント

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商標調査をする前には商標と商品・役務を確定させる必要があります。

その際に、どのような権利を確保したいのか「ヒアリング」が非常に重要になります。

この記事ではヒアリングする際の注意事項をまとめています。

 

 

ヒアリング前の下準備

いきなり、電話や面談などであれこれ聞くと無駄に話が長くなってしまったり、重要なところを聞き漏らしてしまう可能性があります。

 

特に商品・役務と区分の関係が全て頭に入っていればいいですが、事前に下調べしないと区分数を少なめに伝えてしまうこともあり、後々の不満にも繋がります。

 

ヒアリングの前にメールなどで、希望の商標と商品をざっくり聞いておきましょう。

そして、その情報を基に下記の5つのポイントを調べることが重要です。

 

(1)商標の使用態様を調べる

実際にホームページなどで商標を使用している場合は必ず見ておきましょう。

それによって、文字、図形、それらの結合と商標のパターンを把握します。

 

(2)商標の読み方・意味を調べる

文字商標の場合は、事前に読み方と意味を把握します。

英語やフランス語の場合は、発音記号やJ-PlatPatなどで一般的な読み方も調べておきます。ヒアリング時には、希望する読み方も聞きましょう。もしかすると、造語的に読ませることを希望するかもしれません。その際は、二段並記がよい場合もあります。

 

(3)区分を把握する

事前にもらった情報で、できる限り想定される区分を把握しておきます。

 

例えば、「アクセサリーを製造・販売しています。」とメールなどで情報をもらっていえば、

 

14類 身飾品(指輪、ネックレスなど)

26類 頭飾品(かんざしなど)

 

などを想定しておいて、ヒアリングでは、頭につけるアクセサリー類があるかどうか聞きます。

なければ、14類のみでOKですが、「かんざし」も中心に販売している場合は2区分の提案になるので、必ずその旨もヒアリング時に伝えておきましょう。

 

もし、事前に区分を把握しておかなければ、ヒアリングのあとにさらにメールなどで聞くことになり二度手間になります。

 

(4)J-PlatPatの「称呼検索」でざっと先行登録を調べる

「称呼検索」で区分指定や類似群コード指定なしで、ざっと先行登録商標を調べておきます。あまりにも一般的な用語ですと、競合がすぐに見つかる可能性があります。

その場合は、ヒアリング時に、不使用取消審判などの方法もあることを伝えておきましょう。

 

(5)クライアント企業のビジネスモデル・登録商標を調べる

新しく付き合う企業であれば、これまでどういう商品を販売していたか、どういう商標を出願していたかを確認します。

途中で社名変更などしていれば、もしかすると自社の登録によって4条1項11号に該当してしまうかもしれません。これまでの商標登録について表示変更を勧めることも必要になります。

また、商標の出願経験がないクライアントの場合は、極力専門用語を使わずに平易な言葉で伝えるように心掛けます。ある程度知識があるクライアントであれば、掘り下げて深いところまで細かく聞くことに徹します。知識のあるクライアントに対して平易な言葉で対応すると、もやもやされますし、少しなめられます。 

ビジネスモデルを調べておけば、顧客が希望する区分と、本当に取得すべき区分が異なる場合などにすぐに対応することができます。

 

なお、慣れてくるとこれらの作業が大体10分〜15分くらいでできます。 

 

まとめ

ヒアリングの際には下準備が結構重要です。これによりポイントを押さえたヒアリングができ、クライアントも自分も効率よく業務が行えます。

 

次回 「ヒアリングの方法」に続く

3条2項が無理なら、3条1項3号で克服!

 

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弁理士のくせにタイトル間違ってるわ!こいつ!』

『3条1項3号が無理なら、3条2項で克服だろ!』

 

 

という声が聞こえそうですが、実は実務では逆のことが起きています

 

今回のブログ記事の内容は、弁理士になりたてのときに一番びっくりしたことです。

 

弁理士試験と実務との違い

 

3条2項はざっくりいうと、

「商標が品質表示などで識別力ないけど、この商標は有名だから登録してくださいよ〜」

というものです。

 

弁理士試験では「3条1項3号で無理なら3条2項で克服しよう!」と教えられました。

 

しかし、3条2項を認めてもらおうと思えば、めちゃくちゃ大変で、大企業のそこそこ知られている商品であっても認められないこともあります。

 

そんなときは、

 

『この商標は3条2項までは有名ではないんだけど、そこそこ有名だから需要者がその商標見たときには品質表示ではなくて、うちの会社の商標って思うからこれって結果的に識別力あるってことだよね。ってことは、3条1項3号該当しないよね!だから登録査定ください!』

 

と主張します。

 

つまり、実務では3条2項が無理なら、3条1項3号で克服を狙います!

 

でも審査段階ではこの主張は中々通りません。

なぜなら、この判断はかなり例外的なので、画一的に審査したい審査官的には認めにくいのです。

審判までいくと、結構実際の使用状況みてくれますので、識別力ありとして、主張を認めてくれます。

 

ただし、誰がどう見ても識別力ないものは無理です。

実際の意見書などには、「一種の造語だ!」+「使用していて有名だ!」と2つセットで主張することが多いですね。

 

審決例

 

(1)リラックスワゴン(不服2011-15746)

 

また、当審において職権をもって調査するも、「リラックスワゴン」の文字が、本願の指定商品中の「ワゴン型自動車」の分野において、商品の品質を表示するものとして、取引上普通に使用されている事実を発見することはできなかったのに対し、別掲によれば、請求人は、自己の生産、販売する「キャンピングカー」の名称として、本願商標と同一の構成からなる「リラックスワゴン」の文字を使用し、当該商品を全国各地のキャンピングカーを対象とする展示会に出展している事実が認められること、また、それらの展示会は、テレビ局、新聞社及び車専門誌などのマスコミ各社、日本自動車工業会及び一般社団法人日本RV協会などが後援や特別協賛として参加していることからすれば、「リラックスワゴン」の文字は、請求人の業務に係る商品に使用する商標として、その主たる需要者であるキャンピングカーの愛好家にとって、一定程度認知されているものと窺い知れるところである
してみれば、本願商標をその指定商品に使用した場合、単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示してなるものとはいえず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであり、また、その指定商品中のいずれの商品に使用しても、商品の品質の誤認を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本願商標が、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。 その他、政令で定める期間内に本願についての拒絶の理由を発見しない。

引用:不服2011-15746 

shohyo.shinketsu.jp

 

 

(2)ダチョウ抗体マスク(不服2010-24330 )

 

上記で認定した事実によれば、「ダチョウ抗体マスク」の文字は、請求人の業務に係る商品に使用する商標として、その取引者及び需要者に、一定程度認知されているものと認められる。

・・・・

そうとすれば、「ダチョウ抗体マスク」の文字は、補正後の本願指定商品との関係において、原審説示のように「ダチョウ由来の抗体を用いたマスク」を表す商品の品質表示であるというよりは、上記衛生用マスク及び医療用マスクを表す名称として請求人が創作した造語からなる商標とみるのが相当であるから、本願商標は、これをその指定商品について使用しても、自他商品の識別標識としての機能を十分に果たし得るものであり、かつ、商品の品質について誤認を生ずるおそれもないというべきである。
したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当でなく、取消しを免れない

 引用:不服2010-24330

shohyo.shinketsu.jp

 

 

 

意見書・審判請求書の書き方

3条2項の書き方と一緒です。

使用商標の証拠たくさん集めて、主張します。

書き方は下記を参照。

 

【参考】特許庁における商標法第3条第2項の運用 

https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/t_mark09/paper04.pdf

 

まとめ

弁理士試験と実務って差がありますよね〜。

使用状況の主張は3条1項3号で拒絶理由克服のネタにオススメです!

 

 

 

重要なのにあまり知られてなさそうな「称呼検索」の「種別」について

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商標検索するときにとても役に立つJ-PlatPatの「称呼検索」があります。

これはどのような順番で並べられているのでしょうか?

 

なんとなくいい感じに並べてくれているんだろうなぁという気がしますが、実際は誰も教えてくれないのでよくわかりませんよね。

また、称呼検索のときに「種別」という項目がありますが、これは何なんでしょうか。

 

謎ですね。

 

実はこれらの謎は、J-PlatPatのヘルプに全て書かれていまして、この「類似種別」を理解することが、調査をする上でとても重要だったんです!

 

と、いうことで早速見ていきましょう。

 


そもそも「類似種別」とは何か

「類似種別」とは、特許庁がシステム上の検索条件を15種類決めて、その15種類の条件のことです。

称呼検索のときの、「種別」とはその条件のうち、どの条件が合致したものかを表しているものなんですね!

 

例えば、種別「01」の条件は

照会した称呼とヒットした称呼とが同一音であるとき(長音の有無等を含みます。)

です。

 

長音の有無を含みますので、

「タフ」で検索した場合は、「タフ」も「ターフ」も「タフー」も種別「01」として結果が出てきます。

 

【参考】称呼検索のヘルプ

https://www2.j-platpat.inpit.go.jp/TM0/TM2/shoko_subwin_notice.html


類似種別の番号が低ければ、審査では類似と判断する傾向が強くなります。実際は、この称呼検索で出てこないものは、ほとんど類似とされません。
(もちろん例外はありますが)

 

なぜ類似種別を理解することが重要か

類似種別を理解することがなぜ重要でしょうか?
検索して出てきた商標の中から怪しい商標をピックアップするときに(これを僕は「選定」と呼んでいます)、検索結果の商標を全て均等の力で見ていくことは効率が悪いからです。

選定する際は、怪しい確率が高いところは気合い入れて見て、怪しい確率が低いところはそれなりに見ることで、メリハリをつけた調査ができます。

そうすると、精度が高く、スピードの速い調査が可能となります。


例えば、間違え探しのゲームをするときは、左上から順にローラー作戦で見るより、出題者はこの部分を変えてきそうだな〜とアタリをつけてから探すと早く見つけることができるのと同じ感覚です。

類似種別を知ることで、そのアタリをつける感覚が磨かれるのです!!

 


称呼(参考情報)について

称呼検索は、特許庁のデータベースにある「称呼(参考情報)」(以下、参考称呼といいます)という項目を基に検索しています。

 

商標「Amazonプライム」(登録5143448)であれば、下記のような参考称呼がついています。

  • 「アマゾンプライム」
  • 「アマゾン」
  • 「プライム」


人の目で見れば、この中で最も重要な称呼は、最初の称呼「アマゾンプライム」です (これを僕は「第一称呼」と呼んでいます)。しかし、J-PlatPatは参考称呼の中で重要度などつけていませんので、全て区別なく検索します。

 

その結果、「プライム」と検索すると
「01」(称呼同一)の商標として「プライム」が続く中、突如「Amazonプライム」が出てきたりします。


参考称呼のうち、どの称呼に反応して、検索してきたかを見ることが重要です。

類似種別「01」は気合いMAXで見る必要がある類似種別ですが、その中でも、商標全体の称呼と同一と、一部の称呼と同一が混在しています。

このことを意識すると商標の選定もしやすくなります。

 

 

まとめ

称呼検索の仕組みを知るとJ-PlatPatに対して「なんでこんな商標出してきてんだ?」ってこともなくなり、検索がもっと楽になります!

 

【参考】称呼検索のヘルプ

https://www2.j-platpat.inpit.go.jp/TM0/TM2/shoko_subwin_notice.html

 

あやふやな知識ではもったいない!類似群コードを正確に数えよう

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 1つの区分に商品・役務をできるだけたくさん指定したいですが、

一定の基準を超すと3条1項柱書によって、特許庁から「本当にそんなにたくさん使うんですか〜?」と疑われて使用の証明を求められます。

 

3条1項柱書の拒絶理由は、ホームページ見せたり、簡単な事業計画書(本当に簡単で大丈夫です!)を提出することにより、克服することができます。

しかし、そうすると、費用が無駄にかかっちゃうし、できるだけギリギリのラインを狙って商品を指定したいですよね。

 

では、どうすれば拒絶理由を通知されずに、できるだけ多くの商品を指定することができるのでしょうか。

特許庁の商標審査便覧などに公開されているものから、一つずつ検証していきましょう。

 

第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げ る商標を除き、商標登録を受けることができる。

 

まずは、商標審査便覧41.100.03を開きましょう。 

 

【大原則】類似群コードは7つまで

商品・役務に付されている類似群コードを数えましょう。

原則は、類似群コードが7つまでOKです。8つを超えると3条1項柱書違反となります。

 

原則として、1区分内において、8以上の類似群コード(以下「類似群」という。)にわたる商品又は役務を指定している場合には、商品又は役務の指定が広範な範囲に及んでいるものとして、商標の使用又は使用の意思の確認を行う。

引用:商標審査便覧41.100.03

 

【ルール1】多数の類似群コードがついている商品または役務は、1つとしてカウント

9類の電子出版物は「26A01,26D01」の2つ付されているので、類似群コードは2つになりそうです。

しかし、一つの商品に多数の類似群コードがついている場合は、1つの類似群コードとしてカウントします。

 

ただし、一の商品又は役務で多数の類似群が付与されている商品又は役務であって、他に適当な表示が認められない場合には、その商品又は役務の類似群が2以上であっても、1の類似群として取り扱うものとする。(例:第9類「電子出版物」(26A01,26D01)等)

引用:商標審査便覧41.100.03 

  

【ルール2】包括的概念表示の商品または役務は、1つとしてカウント

25類には、「被服」といういわゆる包括的概念表示(色々な商品・役務が含まれている概念)の商品があります。

被服の類似群コードは、なんと5つ!!!

これでは、一気に5つも類似群コードなくなってしまうのか~!?と思われます。

 

しかし、先ほどの例と同じく、包括概念表示は1つの類似群コードとして扱ってよいため、1つとカウントします!

 

類似群コードがたくさんあるにもかかわらず、1つでいいなんてお得ですね〜!

 

また、「類似商品・役務審査基準」において例示された、いわゆる包括概念表示(例:第25類「被服」(17A01,17A02,17A03,17A04 ,17A07)等)の商品又は役務は、個々の類似群単位に分割して表示することが困難となる場合が多いため、包括概念表示の商品又は役務が2以上の類似群が付与されている商品又は役務であっても、1の類似群として取り扱うものとする。

引用:商標審査便覧41.100.03 

 

25類は下記のような商品が含まれています。

 

被服(17A01・17A02・17A03・17A04・17A07)←1個

ベルト(21A01 )←1個

履物(22A01・22A02・22A03)←1個

仮装用衣服 (24A03)←1個

運動用特殊衣服 (24C01・24C04)

運動用特殊靴 (24C01・24C02・24C04)←1個

 

上記の商品を全て指定すれば、類似群コードは15個あるが、被服、履物、運動用特殊衣服・運動用特殊靴はそれぞれ1つとしてカウントするため、実際には5個としてカウントされます。

 

25類の場合、被服1つしか指定しなかったら、かなりもったいないですねー!ギリギリを狙いましょう!

 

【ルール3】小売等役務は「35K○○」が1つまで

 35類の小売等役務を指定する場合の類似群コードの数え方は特殊です。

小売等役務とは、例えば「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」のようなものですね。

 

この小売等役務は、通常、権利範囲がかなり広いですので、2種類以上の「35K○○」がつく類似群コードを持つ役務を指定した場合に、3条1項柱書きに該当します。

 

なお、小売等役務は必ず小売部分と対応する類似群コード「35K○○」と、その商品と対応する類似群コードがついています。

 

(例1)

被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

35K02・17A01・17A02・17A03・17A04・17A07

35K02が小売部分と対応する類似群コード、17A01・17A02・17A03・17A04・17A07がその商品部分と対応する類似群コードです。

 

(例2)

自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

35K04・12A05

35K04が小売部分と対応する類似群コード、12A05がその商品部分と対応する類似群コードです。

 

「35K○○」が2種類以上あれば、3条1項柱書に該当する、と覚えておきましょう!

 

・・・類似する小売等役務の分野を超えて複数の類似群に属する小売等役務を指定してきた場合は、合理的疑義があるともいえるから、その指定役務に係る業務の確認を 行うこととしたものである。・・・・

<例1> 指定された小売等役務が複数の類似群に属する場合

「自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供35K04(12A05)」と「二輪自動車の小売又は卸売の業務において 行われる顧客に対する便益の提供 35K05(12A06)」とを同時に指定したとき

 引用:商標審査便覧41.100.03

 

 【ルール4】35K99は個別判断!

どの類似群コードをつけたらよくわからない場合は、「○○○99」という類似群コードがつけられます。

小売等役務の場合は35K99となります。

 

35K99の類似群コードは適当なコードが見つからないために、付与されたコードであるので、指定した小売等役務が類似関係にあるか否かを個別判断する必要があります。

商品部分の類似群コードを見て、商品部分の類似群コードが同一であれば、3条1項柱書に該当しませんが、商品部分の類似群コードが異なっていれば3条1項柱書に該当します

 

なお、類似商品・役務審査基準に例示された小売等役務以外の小売等役務 (35K99)の指定が複数なされた場合においては、類似するものと非類 似のものとが混在する場合が考えられるが、小売等役務に係る小売業等の業務を考慮した上で、相互に類似しない小売等役務群が複数以上あるときは、 上記「(c)類似の関係にない複数の小売等役務を指定してきた場合。」に含まれるものとして取り扱うものとする。

引用:商標審査便覧41.100.03 

 

これは、審査便覧に示されている例がわかりやすいですね。

 

<例3>
上記(c)に該当する場合

「ヨットの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 35K99(12A01)」と

「グライダーの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 35K99(12A02)」とを同時に指定したとき

 

<例4>
上記(c)に該当しない場合

「治療用機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益 の提供 35K99(10D01)」と

「手術用機械器具の小売又は卸売の 業務において行われる顧客に対する便益の提供 35K99(10D01)」 とを同時に指定したとき

 

引用:商標審査便覧41.100.03

 

ヨットの小売:35K99(12A01)

グライダーの小売:35K99(12A02)

→商品部分に対応する類似群コードが12A01と12A02が異なるため、3条1項柱書に該当する

 

治療用機械器具の小売:35K99(10D01)

手術用機械器具の小売:35K99(10D01)

→商品部分に対応する類似群コードが10D01と10D01が同じため、3条1項柱書に該当しない

 

 

まとめ

【大原則】類似群コードは7つまで

【ルール1】多数の類似群コードがついている商品または役務は、1つとしてカウント

【ルール2】包括的概念表示の商品または役務は、1つとしてカウント

【ルール3】小売等役務は「35K○○」が1つまで

【ルール4】35K99は個別判断!

 

3条1項柱書に該当しても、使用の意思を証明することや、実際の使用を証明すれば拒絶理由は解消されることがほとんどです。

しかし、むやみに指定商品・指定役務の範囲を広くしすぎて3条1項柱書に該当させることは、対応費用が発生することや、登録までの審査期間が長くなることから得策とは言えません。

そのため、実務上では類似群コードの数を数えることは意外と重要だったりします。

この機会に是非類似群コードを正確に数えてみてください。

 

おまけ

なお、VBAなどのシステムにあらかじめ指定商品と類似群コードの関係を登録しておき、自動判定させれば、さらに正確に類似群コードを数えることができます。(システム作るのに結構手間はかかりますが・・・)