商標実務のブログ

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4条1項11号の審査基準を実務で役立つところだけまとめたよ~Part1~

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はじめに

【4条1項11号】

当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する 商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十 八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。 以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

 

4条1項11号は、商標の拒絶理由通知の中で頻出する最重要の条文です。

この記事では、類否判断をするにあたって、審査基準4条1項11号の実務上役に立つところだけをピックアップして解説しています。

感覚ではなく、できるだけ審査基準の根拠をもって判断できるようになれば、審査官との意見の相違が少なくなり、より精度の高い判断ができるようになります。

 

資料

  • 商標審査基準
  • 実例で見る商標審査基準の解説 第8版

「実例で見る商標審査基準の解説 第8版」(2015年9月発売)を参考にして解説していきます。

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商標の審査基準を勉強するにはこの本が最もオススメです。

新しいタイプの商標については、まだまだ事例や資料が少ないため今回は割愛します。


4条1項11号の審査基準の全体的の流れ

まずは、4条1項11号の審査基準のざっくりした流れを確認しましょう。


はじめに類否判断の基本的な考え方を学びます。その後、結合商標の類否、一音相違など音声上の類否について触れており、後半は、商品・役務の類否について触れています。

  • 類否判断の基本的な考え方
  • 称呼の発生の判断(AとA+Bの類否など)
  • 音声上の相違する場合の類否判断(1音相違など)
  • 商品・役務の類否判断
  • 新しいタイプの商標の類否判断(今回は割愛)

それでは一つずつ見ていきましょう。

 

類否判断の基本的な考え

まずは、類否判断についての基本的な考えを見ていきます。

 

外観・称呼・観念を総合的に観察する

1.商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない。

引用:商標審査基準


商標の類否判断は、原則、外観・称呼・観念で総合的に観察します。
「総合的に」とありますので、外観・称呼・観念の中から一つだけを見て類似かどうかは判断してはいけません。あくまでも全ての要素を検討した後に「総合的に」結論を出すことが必要です。

しかし、現在の審査ではこれは建前になりつつあります。つまり、称呼を最重視しており、外観と觀念がどれだけ非類似であっても、称呼が類似なら商標全体で類似と判断されがちです。称呼だけであれば、より簡単な判断基準で済むので審査官もぱっぱと処理しやすいのでしょうか。

審判になると商標全体を総合的に観察して判断されます。そのため、審判では、称呼同一のものであっても非類似と判断される場合があります。

 

【参考判例

この考えで有名な判例氷山印事件です。

【昭和43年2月27日最高裁昭和39年(行ツ)第110号】

商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標 がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。  

 

実務上のポイント

審査では・・・称呼重視。外観と觀念がどれだけ非類似でも、称呼が類似なら商標全体で類似と判断されがち。
審判では・・・総合的に観察。称呼同一のものであっても非類似と判断される場合がある。

 

需要者の立場で考える

2.商標の類否の判断は、商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層(例えば、 専門家、老人、子供、婦人等の違い)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。

 

次に、類否判断するときには誰の立場になって判断するのかを考えます。
類否判断は「需要者の立場」で考えます。


商品又は役務の主たる需要者層を考慮する

商標法には「需要者の利益を保護する」という趣旨があります。そのため、必ずその「需要者は誰か」という基本に立ち戻って考えることが重要です。
「需要者は誰か」とは、ある特定の業界の需要者はどのような性質があり、どのような考え方をするのかを検討する必要があるということです。

 

例えば、アパレル業界の人は、英語以外にもフランス語も日常的に触れています。フランス語は日本人にとってオシャレに感じますし、アパレルブランドの名前によくフランス語が使われていますよね。

そのため、アパレル業界の人はローマ字を見たときは英語以外にもフランス語読みもしやすいと思われます。
そうすると、25類「被服」を指定したときは、商標が「VENT VERT」であれば、フランス語読みである「バンベール」の称呼が発生します(平成11年6月1日 東京高平成10年(行ケ)第163号 )。なお、英語読みの「ベントバート」も発生する可能性はあります。

同じように、商標「BARREAUX」はフランス語読み「バロー」と読めると認定されます。(平成 8 年1月30日 東京高平成7年(行ケ)第128号 )

 

化粧品業界もフランス語に親しんでいますので、ローマ字を『英語読みorフランス語読み』し、薬品業界では、ドイツ語に親しんでいますので、ローマ字を『英語読みorドイツ語読み』されます。

このように「需要者は誰か?」と考えることで、称呼の発生パターンが変わるため、需要者を意識することは類否判断には超重要です。

 

実務上のポイント

審査・審判では・・・需要者はどのような性質があるか考えよう。それにより、称呼等の認定結果が変わる。

 

引用商標の商標権の存続期間切れた場合

4.引用商標の商標権の存続期間経過後であっても、第20条第3項又は第21条第1項の 規定に基づく更新登録の申請があったとき又は国際登録に基づく商標権の場合は、議 定書第7条(4)の規定に基づく国際登録の存続期間の更新があったときは、引用商 標の商標権の存続期間が更新されることに十分留意して、本号を適用するものとする。
ただし、引用商標の商標権者が引用商標の商標権の存続期間の更新申請をしない旨 の意思表示をし、存続期間の更新がないことが明らかになった場合は、この限りでな い。

 

 こちらの記事の「(1)先行登録の存続期間が切れてるよ!」を参照してください。

 

結合商標の称呼の発生の判断

結合商標の類否判断をするときは、結合商標のどの部分から称呼が発生するのか要部はどこか)を認定する必要があります。


この項目では、主に2つ以上の単語の組み合わせによる結合商標の称呼発生の判断方法について見ていきます。

 

二段併記の商標の称呼

5.振り仮名を付した文字商標の称呼については、次の例によるものとする。
(イ) 例えば、「紅梅」のような文字については、「ベニウメ」と振り仮名した場合で
あっても、なお「コウバイ」の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ロ) 例えば、「白梅」における「ハクバイ」及び「シラウメ」のように2以上の自然 の称呼を有する文字商標は、その一方を振り仮名として付した場合であっても、他の一方の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ハ) 例えば、商標「竜田川」に「タツタガワ」のような自然の称呼を振り仮名として
付したときは、「リュウデンセン」のような不自然な称呼は、生じないものとする。

 

 

二段併記にする目的の一つに「称呼を固定すること」があげられます。
様々な読み方ができる造語の商標であれば、ある読み方のとき先行登録の商標と類似になってしまう場合があり、その際に「漢字+フリガナ」や「英語+フリガナ」などの表記にして先行登録の商標と類似になることを避けるテクニックがあります。

この項目では、二段併記の商標からどういう称呼が発生するのかを説明しています。

なお、自然に読める読み方のことを「自然称呼」といいます。

 

【パターン1】漢字の部分に自然称呼がある場合、その自然称呼は発生する


 ベ ニ ウ メ
   紅 梅

 

という商標の場合は、称呼はどうなるでしょうか。

「紅梅」はもともと「コウバイ」と読めますので、そのことを知っていたら、パッと見たときはどうしても最初に「コウバイ」と読んでしまいます。
そうすると、「紅梅」にフリガナ「ベニウメ」をつけたからといって、「コウバイ」の読み方が消えてしまうことはありません。

そのため上記の商標の称呼は「ベニウメ」及び「コウバイ」になります。

 

【パターン2】漢字の部分に自然称呼が二つある場合は、その二つの称呼が発生する


 シ ラ ウ メ
   白 梅

 

 ハ ク バ イ
   白 梅

 

「白梅」はもともと「シラウメ」とも「ハクバイ」とも読めますので、そのことを知っていたら、パと見たときは最初に「シラウメ」及び「ハクバイ」と読んでしまいます。
そうすると、「白梅」にフリガナ「シラウメ」をつけたからといって、「ハクバイ」の読み方が消えてしまうことはありません。
同様に、「白梅」にフリガナ「ハクバイ」をつけたからといって、「シラウメ」の読み方が消えてしまうこともありません。

そのため上記二つの商標の称呼はどちらも「シラウメ」及び「ハクバイ」になります。

 

【パターン3】漢字部分から、不自然な称呼は発生しない

 

 タツタガワ
 竜 田 川

 


竜田川」の自然な称呼は「タツタガワ」です。上記の商標のように自然な称呼のフリガナを付した場合は、不自然な称呼「リュウデンセン」の読み方は発生しません。

なお、「タツタガワ」とフリガナを振らない「竜田川」のみの商標であっても、不自然な読みの「リュウデンセン」は生じません。

そのため、上記の商標の称呼は「タツタガワ」のみになります。

 

 

【参考判決】

この考えは、「一葉事件」が参考になります。

 

【平成 19年5月31日 知財高平成19年(行ケ)第10560号】

原告は、本願商標中に「KAZUHA」の文字が併記されていることから、「一葉」の文字 の称呼は「カズハ」と特定され、「イチヨウ」の称呼は生じない旨主張する。確かに、一枚の 葉の図形及び「一葉」の文字に着目するとともに、「KAZUHA」の文字にも着目すること がないとまではいえず、したがって、本願商標から、「KAZUHA」の文字の構成に相応し て「カズハ」の称呼が生じることも否定し得ないが、当該「KAZUHA」の文字は、一枚の 葉の図形の下端部に小さく白抜きの細線により描かれたものであり、その文字の長さも、「一 葉」の文字よりはるかに短く、前後の端部が「一葉」の文字と揃えられているものでもないか ら、「KAZUHA」の文字が「一葉」の文字の読みを示していると理解することは、必ずしも容易であるとはいえず、そうとすると、たとえ、需要者、取引者が、本願商標から「カズハ」 の称呼を得た場合であっても、併せて「イチヨウ」の称呼が生ずることを妨げるものではない。

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ここまでのまとめ

  • 商標は外観・称呼・観念を総合的に観察する
  • 商標は需要者の立場で考える
  • 二段併記の商標の場合は、自然に読める称呼は発生する

 

 

Part2に続きます。