商標実務のブログ

日々の商標実務で気付いたことを中心に

商標大量出願の対策について(裏話あり)

大量に商標出願している人(A氏)、会社(B社)はご存知でしょうか。

この商標大量出願の対策を公開します。

本当は3月に下書きしていた記事なんですが、公開すると大量出願者に手の内を明かすことになるので、よくないかなと思って下書きのままにしていました。

しかし、大量出願について昨日(2016年5月17日)、特許庁からは異例の通達があったため、僕もこの機に記事を公開することにしました。

 

特許庁からの異例の通達 

昨日(2016年5月17日)特許庁からの通知で、商標大量出願についての異例の通達がされました。

 

自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)

 

最近、一部の出願人の方から他人の商標の先取りとなるような出願などの商標登録出願が大量に行われています。しかも、これらのほとんどが出願手数料の支払いのない手続上の瑕疵のある出願となっています。

特許庁では、このような出願については、出願の日から一定の期間は要するものの、出願の却下処分※1を行っています。

また、仮に出願手数料の支払いがあった場合でも、出願された商標が、出願人の業務に係る商品・役務について使用するものでない場合(商標法第3条第1項柱書)※2や、他人の著名な商標の先取りとなるような出願や第三者の公益的なマークの出願である等の場合(同法第4条第1項各号)※3には、商標登録されることはありません。

したがいまして、仮にご自身の商標について、このような出願が他人からなされていたとしても、ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください。

なお、これらの出願についても、出願公開公報やJ-PlatPat※4にて公表されますが、当該情報はあくまでも商標登録出願がなされたという情報の提供であり、これらの出願に係る商標が商標登録されたことを示すものではありません。

 

引用:https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/tanin_shutsugan.htm

 

特許庁の通達の要約

商標の大量出願者(以下、A氏)は、出願しているにもかかわらず、お金(印紙代)を払ってないですよ。

そのため、ほとんどは出願却下になってますよ。

また、仮にお金払っても、3条1項柱書きや4条などで拒絶できますので、心配しないでください。

だから、その商標大量出願のせいで自分の出願を諦めるなんてことしないでください!

 

 

 

審査官との余談話

 

実は僕は、3月にA氏の出願により拒絶理由を受けていて、そのことで審査官とごにょごにょ話していました。

今回の通達に関係があったかはわかりませんが、文言がそっくりだったので紹介します。

 

2016年3月頃

 

時系列

・A氏出願X

 

・僕のクライアント出願

 

・A氏出願Y(出願Xの分割出願)

 

・僕のクライアント拒絶理由通知(A氏出願Xが引用例

 

・僕、ちょっと審査官に電話←ココの話

 

 

僕「この拒絶理由の引用例の出願XはA氏のものなんだけど、分割出願の方(出願Y)は適法に行われてないから出願日は遡求してないんですよね?」

審査官「そうですよ!」

僕「ってことは、引用例は出願Xだけでいいってことですか?」

審査官「はい。しかもその出願は料金未納でもうすぐ出願却下になりそうなんで、それが却下になれば登録できますよ!」

僕「お、まじっすかーよかったー。」

審査官「そのことは拒絶理由にも書きましたよ。」

 

拒絶理由通知には、かなり珍しく、A氏の出願が登録にならなければ本願商標は登録できる旨をアンダーライン付きで記載されていました。

通常は4条1項11号は出願番号しか書いていない質素なものなんですが、めちゃくちゃ例外的にA氏の出願却下を匂わすような文言がありました。

一目見ただけでは気づかなかったです。

 

 

僕「ここから一般論の話なんですけど、A氏の分割出願が適法に行われていないことってよくあるんですか?」

 

審査官「めちゃくちゃありますよ!今のところ、A氏の出願はほとんどが却下になっていますよ!」

 

僕「まじっすかー知らなかったー。調査時に結構出てくるから、その時は拒絶される可能性があるとクライアントに伝えていたんですよねー。」

 

審査官「ここからは私も一般論としてお聞かせ願いたいんですが、A氏の出願でクライアントが出願を断念することってよくありますか?」

 

僕「え、結構、ありますよ。」

 

審査官「本当ですか??A氏を理由に出願を断念するなんて非常にもったいないですよ!ほとんど出願却下になるのに!」

 

僕「いや〜そうはいっても、A氏にお金払われたら登録される可能性あるので、代理人の立場からは中々「登録できますよ」とは言えませんよ〜」 

 

審査官「そうですか〜。もったいない〜。」

 

僕「今日は良い情報をありがとうございました。」

 

審査官「こちらこそありがとうございました。」

 

そうして電話を切りました。

審査官が「もったいない」と繰り返し言っていたことが非常に印象的でした。

 

 

商標大量出願の対策について

A氏の戦略は出願料(印紙代)を払わずに出願して、とりあえず出願日を確保して、印紙代を払わないとして出願却下になりそうならば、分割出願を繰り返すというものと思われていました。

 

最初に出願した指定商品を多く書けば、分割出願は半永久的に行えるので、一見無敵に見えるこの戦法ですが、弱点がありました。

 

その弱点とは、原出願を適切に補正ができていなくて、分割出願が遡及できていない案件があることです。

 

分割出願が適法にできていなければ、何も怖いことはありません。

あとは、原出願が出願料未納による却下処分になるときを待つだけです。

 

そのため、僕の現在の対策としては、A氏の出願の経過情報を注意深く見て、分割出願が適法に行われているかを見るようにしています。

 

また、仮に出願料を払われた場合は、特許庁の最終兵器「公序良俗違反」(4条1項7号)を基に反論しようかと思っていました。

 

特許庁の通達についての感想

今回は、「あきらめずに出願しちゃえよ!」という趣旨の通達です。

知識がない素人の人が見れば、A氏と関係ない引用例が発見されても、特許庁が「あきらめるな」って言っているから出願した!という方が出てきてもおかしくありません。そのため、多少なりのクレームが入るかもしれません。

 

それにもかかわらず、中小企業や個人のために特許庁の運用状況を開示してくれました。

 

この通達は、A氏の出願で困っている中小企業、個人に向けての特許庁からの愛のあるメッセージであり、代理人の僕にとってもめちゃくちゃ有難い通達です。

 

これにより、クライアントも説得しやすくなりますし、商標業務も円滑になります。

 

ただ、A氏がこの件を見て色々対策してくる可能性がありますので、安心はまだまだできません。今後も逐一行動を監視していく必要はあります。