4条1項11号の審査基準を実務で役立つところだけまとめたよ~Part3~
4条1項11号の審査基準の第3回目です。
前回までは、結合商標の類否判断についてでした。
今回は1音相違などの音声上の類否を見ていきましょう。
8.商標の称呼の類否を称呼に内在する音声上の判断要素及び判断方法のみによって判断するときには、例えば、次の( I )及び( II )のようにするものとする。
( I )では、類否判断するときの考え方を示しています。
( II )では、具体的な商標を例示して解説しています。
音声上の類否判断の考え方
( I )商標の称呼類否判断にあたっては、比較される両称呼の音質、音量及び音調並 びに音節に関する判断要素(〔注1〕ないし〔注4〕)のそれぞれにおいて、共 通し、近似するところがあるか否かを比較するとともに両商標が特定の観念のない造語であるか否か(例えば、明らかな観念の違いによってその音調を異にしたり、その称呼に対する注意力が異なることがある。)を考慮し、時と所を異にし て、両商標が称呼され、聴覚されるときに聴者に与える称呼の全体的印象(音感) から、互いに相紛れるおそれがあるか否かによって判断するものとする。
両商標が下記(II)の(1)ないし(8)の基準〔注5〕のいずれかに該当〔注6〕するときは、原則として、〔注7〕称呼上類似するものとする。
ここで、「音」がつく単語がたくさん出てきました・・・これらは何を意味しているのでしょう。下記にまとめました。
- 音質:母音、子音の質的きまりから生じる音の性質
- 音量:音の長短
- 音調:音の強弱及びアクセントの位置
- 音節:語の切れ方、分かれ方
- 音感:称呼の全体的印象
称呼の音声上の類否判断をざっくりいうと
この項目を端的にいえば、下記のことになります。
相違する1音が
母音が共通している
子音が共通している
長音(ー)の有無である
長音(ー)と促音(ッ)の違いである
弱音(「ん」など)の違いである
中間音又は語尾音の違いである
ということであれば、類似に近くなります。
また、全体の称呼が少数音(3音以下など)であれば非類似に近くなります。
意見書などで非類似であることを主張する場合は、
- 少数音であること (3音以下など)
- 相違する1音が語頭であること
が特に有効です。
あとは、併存登録や審決例などの証拠をとにかく多くを持ってきて、説得することが多いです。
それでは、一つずつ詳しく見てみましょう。
母音・子音が共通しているか(音質)
〔注1〕 音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素としては、
(イ) 相違する音の母音を共通にしているか、母音が近似していか・・・・
(ロ) 相違する音の子音を共通にしているか、子音が近似していか・・・・
等が挙げられる。
・・・(ii)相違す る音が濁音(ガ、ザ、ダ、バ行音)の半濁音(パ行音)、清音(カ、サ、 タ、ハ行音)の違いにすぎないとき等においては、全体の音感が近似して 聴覚されることが多い。 ・・・・
ここは脱字あります
(誤)
「〔注1〕 音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素としては、」
(正)
「〔注1〕音質(母音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素としては、」
ここは脱字がありますので注意してください!特許庁に連絡しておきます!
相違する1音が母音または子音が共通している場合は類似に近くなります。
特に、相違音が、中間音または語尾音であれば類似と判定されやすいです。語頭音は音の印象に大きな影響を与えますので、母音、子音が共通していても非類似となりやすいです。
しかし、濁点、半濁点、清音の違いであれば音の印象はかなり近くなってきますので、語頭音でも類似と判定されやすいです。
※濁点(ガ、ザ、バなど)、半濁点(パピプペポ)、清音(カ、サ、ハなど)
下記の具体例は全て類似と判断されます。
母音が共通
「スチッパー」 「SKiPPER」(スキッパーの称呼)
「VANCOCIN 」 「BUNCOMIN
バンコシン」 バンコミン」
「ミギオン」 「ミチオン」
子音が共通
「アスパ」 「アスペ」
「アトミン 「ATAMIN
A tomin」 アタミン」
「VULKENE」 「VALCAN」
(バルケンの称呼) (バルカンの称呼)
濁点、半濁点、清音の違い
「HETRON」 「PETRON
(ヘトロンの称呼) ペトロン 」
「KUREKA 「GLECA
クレカ」 グレカ」
「サンシール」 「SANZEEL
サンジール」
長音・促音の違いか(音量)
〔注2〕 音量(音の長短)に関する判断要素としては、
(イ) 相違する音がその前母音の長音であるか(長音の有無にすぎないか)
(ロ) 相違する音がその後子音の長音であるか(促音の有無にすぎないか) 等が挙げられる。
長音(ー)、促音(ッ)の違いだけであれば、その部分は比較的弱く聞こえますので、類似する可能性が上がります。
「レーマン」 「Léman
レ マ ン」
「コロネート」 「CORONET」
(コロネットの称呼)
「たからはと」 「タカラート」
弱音の違いか(音調)
〔注3〕 音調(音の強弱及びアクセントの位置)に関する判断要素としては、
・・・・
(イ) 相違する音がともに弱音(聴覚上、ひびきの弱い音)であるか、弱音の 有無にすぎないか、長音と促音の差にすぎないか(弱音は通常、前音に吸収されて聴覚されにくい。)
(ロ) 相違する音がともに中間又は語尾に位置しているか(中間音、語尾音は比較的弱く聴覚されることが多い。)
(ハ) 語頭若しくは語尾において、共通する音が同一の強音(聴覚上、ひびきの強い音)であるか(これが強音であるときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。)
・・・
「弱音」とは、聴覚上響きの弱い音をいいます。
具体的には「イ」「ウ」「ム」「ン」「フ」「ス」をいいます。
特に語尾の「ス」はかなり弱く発音するので、これだけの有無であれば類似する可能性が高くなります。
また、相違する1音が語頭音の場合は、音の印象の影響が大きいので類似になりにくく、中間音又は語尾音の場合は、影響が小さいので類似になりやすいです。
「DANNEL」 「DYNEL」
(ダンネルの称呼) (ダイネルの称呼)「山清 「ヤマセ」
やませい」
「VINYLA」 「Binilus」
(ビニラの称呼) (ビニラスの称呼)
音数が比較的少ないか(音節)
〔注4〕 音節に関する判断要素としては、
(イ) 音節数(音数。仮名文字1字が1音節をなし、拗音は2文字で1音節をなす。長音(符)、促音、撥音もそれぞれ1音節をなす。)の比較において、ともに多数音であるか(1音の相違があっても、音数が比較的多いときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。)・・・・
音数が全体で3音のときは、1音が相違していれば単純に計算すると33%の違いがありますが、音数が10音のときは、1音相違していても10%の違いしかなく影響は小さいといえます。
少数音の場合は、非類似になりやすく、多数音の場合は類似になりやすいです。
ここで、多数音とは、だいたい6〜8音のことをいいます。
実務上では自分の都合の良いように主張しますので、6音でも音数が多いと言ったり、少ないと言ったりそのときの立場によってコロコロ変わることがあります。
このあたりは、多少矛盾を含みますが、クライアントの要望にあわせてなんとかする仕事の弁理士である限り仕方のないことだと思います。
商品・役務の類否について
11.商品の類否を判断するに際しては、次の基準を総合的に考慮するものとする。この場合には、原則として、類似商品・役務審査基準によるものとする。
商品・役務の類否は、原則「類似商品・役務審査基準」に書かれている「類似群コード」によります。審査段階ではこれを覆すのはほぼ不可能です。
ただし、類似群コードは商品・役務の類否を推定するものですので、訴訟などではちょくちょく覆されています。
そうは言っても、類似群コードを常に検証しつつ実務をすることはかなり難しいですので、ある程度信用するしかありません。
審判や訴訟などの裏技として、類似群コードを覆す主張をしましょう。
まとめ
音声上の類否
相違する1音が
母音が共通しているか
子音が共通しているか
長音(ー)の有無か
長音(ー)と促音(ッ)の違いであるか
弱音(「ん」など)の違いか
中間音又は語尾音の違いか
全体の称呼が少数音か(3音以下など)
商品・役務の類否
「類似群コード」で決まる
やっと終わった〜〜!!長かった。お疲れ様です。