「審判で通ってるから、審査も通る」の落とし穴
はじめに
今回は商標の調査報告書を書く時の落とし穴の話です。僕の失敗談を交えながら、「登録可能性が高い」「拒絶される可能性がある」などと報告するときに気をつけるべきことを解説しています。
僕の失敗談
商標調査のときに、ちょっと判断に迷った案件があれば審決を調べにいきますよね。
そのときに、過去の審決で全て登録になっていたらクライアントに何て伝えるでしょうか?
「過去の審決でこれだけ通っているから、今回の審査も通りますよ!!」
僕は当初そう言っていました。だって、審決で通っているんですよ?審判官が過去に登録と判断したんだから、もちろん審査官も同じように判断しますよね。
しますよね・・・?
・・・・
しかし、どうゆうことでしょう。
審判でかなり通りやすい案件なのに、拒絶理由がどんどんきます!!
これが、「審判で通ってるから、審査も通る」の落とし穴です。
この落とし穴の原因を知らなければ、
「審決とは、過去に特許庁が判断した結果であるのに、審査では何で違う判断するんだ!」
「審査官は、もっと審決のこと勉強しろよ!」
と理不尽さを感じることになります。
「審判で通ってるから、審査も通る」の何が間違っているのでしょうか。
そもそも、審決とは何かということから、審査、審判の関係を下記の図で見ていきましょう。
審決の正体
上記の図は、審査のパターンを4つに分けて示しています。
- 一発登録査定
- 拒絶理由が通知される
- 拒絶査定になったあと、登録審決
- 拒絶査定になったあと、拒絶審決
上記の図を見てもらえば、一発でわかると思いますが、審決例はあくまでも「審判官」がOK・NGと判断したものです。
審判官がOK・NGと判断したということは、「審査官」は全てNG(拒絶査定)と判断したということともいえます。
つまり、審決例の案件は全て拒絶査定になっていたんです!
審判で争われている案件は、審査官にとっては、パッと見た瞬間「拒絶してぇなー・・・」と思われがちな案件であるということです。
拒絶査定にならなくても、少なくとも拒絶理由は通知される可能性があると判断すべきです。
そのため、似たような審決例が多数見つかった案件については、調査報告書では、
- 拒絶理由が通知される可能性がある。
- その際、意見書にて反論できる可能性はある。
- また、反論できない場合は、審判では認められる可能性がある。
などと、拒絶理由が通知される可能性があると報告しましょう。
決して「登録可能性が高い」と報告してはいけません。
「登録可能性が高い」と報告すると、通常「(拒絶理由が通知されずに一発で)登録査定になる」と認識されることがあるからです。
審決例を勉強するとはどういうことか
「審決例」を勉強するということは、「審判の傾向」を知るということです。
「審査の傾向」を知るということではありません。
「審査の傾向」を知りたければ、「審査例」を勉強する必要があります。
つまり、どういう商標に対して拒絶理由が通知されたかを調べなければなりません。
審査例の勉強の仕方
審査例を調べることは、通常大変です。
商標の場合、特許と違ってJ-PlatPatから拒絶理由通知などの包袋は見る事はできません。
見る事はできるのは、拒絶理由の条文番号だけです(4条1項11号など)。
また、拒絶査定が確定したものは検索対象から外されますので、過去に拒絶査定が確定した案件は有料のデータベース等を使わないと見る事ができません。
そういった状況で、審査例を勉強する方法は下記のものが考えられます。
- たくさん商標案件をこなす
- 包袋を取得して、拒絶理由通知をひたすら見る
- 審決例を見て、全て拒絶査定の案件として勉強する
この中では、商標案件をたくさんこなすことが一番の勉強方法だと思います。実践に勝る勉強方法は今のところない気がします。
まとめ
審決例の案件は全て拒絶査定!!
なので、過去に審判で通っても審査で通るとは限らない!
■番外編 ~審査例を勉強するためのチャレンジ~
商標案件をたくさんこなすことが、審査傾向をつかむ上で最も有効だと思いますが、最初のうちは案件をたくさんまわしてもらえなかったり、依頼が思ったよりこなかったりで経験を積むことが難しい場合もあると思います。
そこで、こんな企画をやってみようかと思っています!
「審査結果を予想しよう!審査100本ノック!!」
今出願されている商標を100コ選んでFA(登録査定か拒絶理由通知か)を当てるゲームです。
【ルール1】商標100件の審査をする
【ルール2】登録査定or拒絶理由通知を当てる
【ルール3】拒絶理由通知の場合は、条文番号も当てる
【ルール4】制限時間は3時間とする
【ルール5】類似群コードが全部で20を超えるものは除外してもOK(J-PlatPatで一度に検索できないので)
【ルール6】図形商標は除外する
正答率は7~8割いけたらいいですね~。
もし、この方法が商標調査の能力を上げる方法として有効であれば、今後もガンガンやっていきたいですね。
あと、事前に簡単なシステム作っておいて、極力調査を自動化していきます。
1件当たり約2分で判断しなければなりませんので、識別力調査で1分、類否判断で1分で頑張ります。