商標実務のブログ

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区分を飛び越える!?「他類間類似」「備考類似」を使いこなそう!

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商品・役務の類否判断をするとき、通常、商品・役務の区分が異なれば、非類似になることがほとんどです。しかし、区分を飛び越えて、商品・役務が類似することがあります

 

類似群コードは同じだが、区分が異なる場合を「他類間類似」といいます。

類似群コードが異なるが、個別的に商品・役務が類似するとした場合を「備考類似」といいます。

この記事では、「他類間類似」「備考類似」が実務上どのように役に立つのかを見ていきます。

 

事例

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クライアント「今度、バスケットボールチームのTーシャツを発売することになったんで、そのチームのロゴで商標取りたいと思ってるんですよ〜」

 

クライアント「 そして、将来的には、チームロゴがついたバスケットボールも販売したいなと思っているんですよ〜」

 

僕「じゃあ、25類「ティーシャツ」と28類「バスケットボール」の2区分が必要ですね!」

 

クライアント「いやいや、今回は予算なくて1区分しか無理なんですよ〜。25類を優先してください。でも28類を他社に取られるのも嫌なんですよ〜。なんとかいい感じにお願いしますよ〜。」

 

僕「・・・・」


と、いうようなワガママを言われることは結構あります。

このような場合は、「無理っス!」と突っぱねることもできますが、

「他類間類似」というテクニックを知っていれば、クライアントの要望を少し汲み取れることができます。

 

他類間類似とは

商標法2条6項

この法律において、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする。

商標法6条3項

前項の商品及び役務の区分は、商品又は役務の類似の範囲を定めるものではない。

 「他類間類似」とは、商品・役務の類否において、区分が異なるにもかかわらず商品・役務が類似することをいいます。

区分は異なるが、類似群コードが同じときに「これは他類間類似だね〜」と言ったりします。

 

例えば、以下のようなものがあります。

類似群コード 19B33 

上記の商品は全て類似群コード19B33が付されています

ペットの服やペットのおもちゃなどはそれぞれ異なる区分ですが、どれも愛玩動物用(ペット製品)の商品ということで類似と推定されています。

上記の商品はいずれも他類間類似の関係にあるといえます。

 

そのため、第18類「愛玩動物用被服類」(19B33)を指定すれば、もれなく、

第20類 愛玩動物用ベッド 犬小屋 小鳥用巣箱←19B33
第21類 愛玩動物用食器 愛玩動物用ブラシ 小鳥かご 小鳥用水盤←19B33
第28類 愛玩動物用おもちゃ←19B33

まで、先願を確保することができます!

(厳密にいうと、後願の他社が類似商標を出願したときに、商標類似&商品類似としてその出願は拒絶される)

 

この他類間類似を使えば、ある区分の1つの商品しか指定していないのに、他の区分の重要な商品まで権利範囲に含むことができるのです!

 

なお、その他の他類間類似の関係は、「類似商品・役務審査基準」の「他類間類似商品・役務一覧表 」で見ることができます。

【参考URL】他類間類似商品・役務一覧表

https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/ruiji_kijun10-2016/all.pdf#page=255

 

先ほどの事例

クライアント「今回は予算なくて25類の1区分しか無理なんですよ〜。でも28類「バスケットボール」を他社に取られるのも嫌なんですよ〜。なんとかいい感じにお願いしますよ〜。」

 

僕「では25類「運動用特殊衣服」(類似群コード:24C01・24C04 )もあわせて指定しておきますので、これが登録されれば28類「バスケットボール」(類似群コード:24C01)が他社に取られることはないはずです。

しかし、不使用取消審判がありますので3年以内には28類「バスケットボール」の出願をしておいた方がいいですよ!

 

クライアント「了解で〜っす!」

 

 

上記のように25類「運動用特殊衣服」を指定することにより類似群コード24C01の先願を確保することができました。そのため、28類「バスケットボール」(類似群コード:24C01)が他社に取られるというリスクがなくなりました。

 

こうして、25類の1区分しか指定しないのに、将来権利が欲しくなるであろう28類「バスケットボール」を他社に取られないようにしたいというクライアントの要望を汲み取ることができました。

 

ただし、注意事項は、そうして指定した商品(事例では「運動用特殊衣服」)は使用しない場合がほとんどのため、不使用取消審判で取り消される可能性があります。そのため、必ず何年か後には本当に欲しい商品(事例では「バスケットボール」)を出願するようにクライアントに言っておきましょう。

最初は予算が取れなくても、事業が拡大してきたらポンポン予算が出ることがありますので、その時はこちらから積極的に提案していきましょう。

 

また、他類間類似と似たようなものに、備考類似というようなものがあります

 

備考類似とは

「備考類似」とは、「類似商品・役務審査基準」において、(備考)という項目で他の類似商品・役務を掲げ「〇〇は△△と類似と推定する」と表記されたものをいいます。

 

例えば、「電子出版物」と「電子出版物の提供」の関係があります。

  • 9類「電子出版物」(類似群コード:26A01・26D01 )
  • 41類「電子出版物の提供」(類似群コード:41C02)

これらは類似群コードが共通していないため、通常は非類似であると思われます。

しかし、「類似商品・役務審査基準」の(備考)の欄には、

(備考)「電子出版物」は、第41類「電子出版物の提供」に類似と推定する。

と、ありますので、例外的に 「電子出版物」と「電子出版物の提供」は類似と推定されます。

 

備考類似の弱点

備考類似は他類間類似と同じような使い方ができると思われますが、実は、「備考類似」は、審査では原則考慮されません

そのため、備考類似でもって、他類間類似のように審査段階で他社の登録を排除することは難しいのが現状です。 

しかし、「情報提供 」「異議申立」「無効審判」において、奥の手として他社の出願を拒絶、登録を取消・無効にすることができるメリットがあります!

 

例えば、9類「電子出版物」を指定しておけば、他社が41類「電子出版物の提供」を指定して出願したときには、情報提供などで拒絶にさせることができます。

情報提供や無効審判などは費用がかかるので、あまり多くは依頼されませんが、万が一本当にやばい出願があった場合は、このように備考類似が役に立つときがあります。

 

僕は、このように備考類似は何かあった時のお守り的な使い方をしています。

 

なお、備考類似が審査で考慮されない理由ですが、指定商品・役務をキーに検索することは現状の特許庁のデータベースでは大変なため、審査の正確性よりも審査効率を優先し、特許庁が「文句あるんなら言うてきたったら(情報提供で)考慮してもええで」というスタンスを取っているからだと思います。

ある意味仕方のないことだと思いますが、今後特許庁システムが改善されれば備考類似も考慮されるようになるかもしれません。

 

 

まとめ

  • 他類間類似は、ある区分の商品を指定することで他の区分の商品まで権利範囲に含むことができる
  • 備考類似は、審査では考慮されないが、情報提供などで使うことができる 

「他類間類似」と「備考類似」を使いこなしてさらに、レベルの高い商品・役務の指定の仕方を覚えましょう!