「商品の一般名称」は、本当に識別力ないのか?
通常、商品の一般名称は識別力がないといわれています。
しかし、近年そうとも限らない審決がちらほら出てきており、一概に判断できなくなってきています。
今回は、結合商標の中での、商品の一般名称について、4条1項11号での取り扱いを中心に見ていきましょう。
原則を見てみよう「4条1項11号の審査基準」
4条1項11号の審査基準には下記の通り記載されています。
6.結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、例えば、次のように判断するものとする。ただし、著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかなときは、この限りでない。
(1)形容詞的文字(商品の品質、原材料等を表示する文字、又は役務の提供の場所、 質等を表示する文字)を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されてい ない商標と類似する。
ざっくり要約
つまり、商品の品質等は原則、そこを省略して類否判断しようねって記載されています。
疑問
では、「小僧」と「小僧寿し」は類似でOK?
「寿し」って思いっきり商品「寿司」の一般名称ですよね。
「小僧」と「小僧寿し」は非類似
最高裁平成 6年 (オ) 1102号
被上告人標章については、一般需要者が「小僧寿し」なる文字を見、あるいは「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」なる称呼を聞いたときには、本件商品の製造販売業者としての小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンを直ちに想起するものというべきである。そして、「小僧寿し」は、一般需要者によって一連のものとして称呼されるのが通常であるというのであるから、右によれば、遅くとも昭和五三年以降においては、「小僧寿し」「KOZOSUSHI」「KOZOSUSI」「KOZO ZUSHI」の各標章は、全体が不可分一体のものとして、「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」の称呼を生じ・・・・
ざっくり要約
持ち帰り寿司で有名な「小僧寿し」は、普通、一般需要者は「小僧寿し」って読むよね。だから、そういう取引事情を考慮すれば、「小僧」「小僧寿し」は非類似だよね。
という判決が出ました。
取引事情を考慮すれば、著名商標は識別力弱い部分があっても一連一体に判断することもあるようです。
疑問
じゃあ、「おつかれサワー」と「おつかれ」はどちらも有名でない場合は、類似ですよね?
「おつかれサワー」と「おつかれ」は非類似
不服2012-24640
・・・この「サワー」を含む低アルコールリキュールを扱う団体(日本洋酒酒造組合)においては、・・・誤飲防止や、一般消費者の適正な商品選択を保護し不当な顧客の誘引を防止し、公正な競争を確保することを目的とした自主基準を設けている。
その基準によれば、「商品名」について、「清涼飲料等との誤飲を防止するため、『果汁』の用語を使用するときは、例えば、『○○果汁のお酒』、『○○果汁のチューハイ』等のように酒類であることがめいりょうに分かる商品名に果汁の用語を使用する場合に限り行うことができる。この場合、当該商品名の表示は分離することなく一体になっていなければならない・・・」と規定するなど、本願指定商品を取り扱う業界において、商品名の表示方法について、一定の基準が作成され、注意が払われていることが見受けられる。
そのような実情を踏まえると、名称(商標)の一部に「サワー」等の酒類を表す語が含まれている場合においても、他の部分を含めた全体で「○○サワー」のように一体で使用されるのが通常であるといえる。
そうすると、本願商標は、その構成中の「サワー」の文字部分が、本願指定商品の普通名称を表すものであるとしても、上記の実情よりして、常に全体をもって一体不可分のものと認識し、把握されるものとみるのが相当であるから、その構成文字全体に相応して、「オツカレサワー」の称呼のみを生じ、特定の観念は生じないものと判断するのが相当である。
ざっくり要約
酒業界の場合、名称の一部にサワー含まれる商品名は、「○○サワー」と使用することが普通ですよね。
なので、「サワー」つくものは一連一体で読みましょう。
そのため、「おつかれサワー」と「おつかれ」は非類似です。
という、審決例です。
疑問
では、業界内に、商品名の規則ない場合の
「ゲンコツコロッケ」と「ゲンコツ」は類似ですよね?
「ゲンコツコロッケ」と「ゲンコツ」は非類似
不服2014-24087
そして、本願商標の構成中の「ゲンコツ」の文字は、「げんこつのような形(又は大きさ)」として、形状を暗示させる場合があることは否定できないことから、「ゲンコツ」の文字部分は、識別力がないとまではいえないが、自他商品の識別標識として強力に機能するともいえないものである。
そうすると、本願商標は、「ゲンコツ」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能するというよりも、その構成文字全体をもって、取引に資するものというのが相当である。
したがって、本願商標は、その構成文字全体で、一種の造語を表したものと認識、把握されるとみるのが自然であるから、その構成文字に相応して、「ゲンコツコロッケ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものといえる。
ざっくり要約
商品「コロッケ」において、商標「ゲンコツ」は、
識別力がないとまではいえないが、自他商品の識別標識として強力に機能するともいえないものである。
のようです。
この表現は逸品です。
図にすると下記のような感じです。
識別力ない
↑
この間(識別力ないとも言えないが、強力でもない)
↓
識別力強力に機能する
「識別力ない」というと、そもそも3条じゃない?引用商標も否定するの?となってしまうし、
「識別力強力にある」というと、「ゲンコツ」だけ抜き出して判断することになるから、4条1項11号該当になります。
そこで、3条でもないんだけど、「ゲンコツ」のみは抜き出して判断しない表現としての、
「識別力がないとまではいえないが、自他商品の識別標識として強力に機能するともいえないものである」
です。
この表現は、他の審決にもあります。
「radiant fluid foundation」と「RADIANT」
不服2014-10997
本願商標の構成中、「radiant」の文字部分は、「輝く、明るい、光り輝く」等の意味を有する英語であって、その指定商品中の化粧品の分野においては、肌について「輝きのある肌」、「輝くように明るい肌」のように表示する場合があることから、「radiant」の文字部分は、前記のような意味合いを想起させる場合があるものといえ、該文字部分は、自他商品の識別力がないとまではいえないとしても、自他商品の識別標識としての機能を強力に発揮するとはいえないものである。
まとめ
原則
商品の一般名称が入っていれば、その部分は識別力なし。
例外
取引事情を考慮。商品名入ってても一連一体に読む場合もある。
(例)
- 著名商標で需要者が既に一連一体に読んでいる場合
- 業界では商品名も一連一体に読むことが普通な場合
- 識別力がないとまではいえないが、自他商品の識別標識として強力に機能するともいえない場合
この他にも理由が色々出てくると思いますので、審決をチェックしていきたいと思います。