商標実務のブログ

日々の商標実務で気付いたことを中心に

ヒアリングをもっと有意義にするための下準備5つのポイント

f:id:toreru:20160220180152j:plain

 

商標調査をする前には商標と商品・役務を確定させる必要があります。

その際に、どのような権利を確保したいのか「ヒアリング」が非常に重要になります。

この記事ではヒアリングする際の注意事項をまとめています。

 

 

ヒアリング前の下準備

いきなり、電話や面談などであれこれ聞くと無駄に話が長くなってしまったり、重要なところを聞き漏らしてしまう可能性があります。

 

特に商品・役務と区分の関係が全て頭に入っていればいいですが、事前に下調べしないと区分数を少なめに伝えてしまうこともあり、後々の不満にも繋がります。

 

ヒアリングの前にメールなどで、希望の商標と商品をざっくり聞いておきましょう。

そして、その情報を基に下記の5つのポイントを調べることが重要です。

 

(1)商標の使用態様を調べる

実際にホームページなどで商標を使用している場合は必ず見ておきましょう。

それによって、文字、図形、それらの結合と商標のパターンを把握します。

 

(2)商標の読み方・意味を調べる

文字商標の場合は、事前に読み方と意味を把握します。

英語やフランス語の場合は、発音記号やJ-PlatPatなどで一般的な読み方も調べておきます。ヒアリング時には、希望する読み方も聞きましょう。もしかすると、造語的に読ませることを希望するかもしれません。その際は、二段並記がよい場合もあります。

 

(3)区分を把握する

事前にもらった情報で、できる限り想定される区分を把握しておきます。

 

例えば、「アクセサリーを製造・販売しています。」とメールなどで情報をもらっていえば、

 

14類 身飾品(指輪、ネックレスなど)

26類 頭飾品(かんざしなど)

 

などを想定しておいて、ヒアリングでは、頭につけるアクセサリー類があるかどうか聞きます。

なければ、14類のみでOKですが、「かんざし」も中心に販売している場合は2区分の提案になるので、必ずその旨もヒアリング時に伝えておきましょう。

 

もし、事前に区分を把握しておかなければ、ヒアリングのあとにさらにメールなどで聞くことになり二度手間になります。

 

(4)J-PlatPatの「称呼検索」でざっと先行登録を調べる

「称呼検索」で区分指定や類似群コード指定なしで、ざっと先行登録商標を調べておきます。あまりにも一般的な用語ですと、競合がすぐに見つかる可能性があります。

その場合は、ヒアリング時に、不使用取消審判などの方法もあることを伝えておきましょう。

 

(5)クライアント企業のビジネスモデル・登録商標を調べる

新しく付き合う企業であれば、これまでどういう商品を販売していたか、どういう商標を出願していたかを確認します。

途中で社名変更などしていれば、もしかすると自社の登録によって4条1項11号に該当してしまうかもしれません。これまでの商標登録について表示変更を勧めることも必要になります。

また、商標の出願経験がないクライアントの場合は、極力専門用語を使わずに平易な言葉で伝えるように心掛けます。ある程度知識があるクライアントであれば、掘り下げて深いところまで細かく聞くことに徹します。知識のあるクライアントに対して平易な言葉で対応すると、もやもやされますし、少しなめられます。 

ビジネスモデルを調べておけば、顧客が希望する区分と、本当に取得すべき区分が異なる場合などにすぐに対応することができます。

 

なお、慣れてくるとこれらの作業が大体10分〜15分くらいでできます。 

 

まとめ

ヒアリングの際には下準備が結構重要です。これによりポイントを押さえたヒアリングができ、クライアントも自分も効率よく業務が行えます。

 

次回 「ヒアリングの方法」に続く

3条2項が無理なら、3条1項3号で克服!

 

f:id:toreru:20160219231831j:plain

 

弁理士のくせにタイトル間違ってるわ!こいつ!』

『3条1項3号が無理なら、3条2項で克服だろ!』

 

 

という声が聞こえそうですが、実は実務では逆のことが起きています

 

今回のブログ記事の内容は、弁理士になりたてのときに一番びっくりしたことです。

 

弁理士試験と実務との違い

 

3条2項はざっくりいうと、

「商標が品質表示などで識別力ないけど、この商標は有名だから登録してくださいよ〜」

というものです。

 

弁理士試験では「3条1項3号で無理なら3条2項で克服しよう!」と教えられました。

 

しかし、3条2項を認めてもらおうと思えば、めちゃくちゃ大変で、大企業のそこそこ知られている商品であっても認められないこともあります。

 

そんなときは、

 

『この商標は3条2項までは有名ではないんだけど、そこそこ有名だから需要者がその商標見たときには品質表示ではなくて、うちの会社の商標って思うからこれって結果的に識別力あるってことだよね。ってことは、3条1項3号該当しないよね!だから登録査定ください!』

 

と主張します。

 

つまり、実務では3条2項が無理なら、3条1項3号で克服を狙います!

 

でも審査段階ではこの主張は中々通りません。

なぜなら、この判断はかなり例外的なので、画一的に審査したい審査官的には認めにくいのです。

審判までいくと、結構実際の使用状況みてくれますので、識別力ありとして、主張を認めてくれます。

 

ただし、誰がどう見ても識別力ないものは無理です。

実際の意見書などには、「一種の造語だ!」+「使用していて有名だ!」と2つセットで主張することが多いですね。

 

審決例

 

(1)リラックスワゴン(不服2011-15746)

 

また、当審において職権をもって調査するも、「リラックスワゴン」の文字が、本願の指定商品中の「ワゴン型自動車」の分野において、商品の品質を表示するものとして、取引上普通に使用されている事実を発見することはできなかったのに対し、別掲によれば、請求人は、自己の生産、販売する「キャンピングカー」の名称として、本願商標と同一の構成からなる「リラックスワゴン」の文字を使用し、当該商品を全国各地のキャンピングカーを対象とする展示会に出展している事実が認められること、また、それらの展示会は、テレビ局、新聞社及び車専門誌などのマスコミ各社、日本自動車工業会及び一般社団法人日本RV協会などが後援や特別協賛として参加していることからすれば、「リラックスワゴン」の文字は、請求人の業務に係る商品に使用する商標として、その主たる需要者であるキャンピングカーの愛好家にとって、一定程度認知されているものと窺い知れるところである
してみれば、本願商標をその指定商品に使用した場合、単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示してなるものとはいえず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであり、また、その指定商品中のいずれの商品に使用しても、商品の品質の誤認を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本願商標が、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。 その他、政令で定める期間内に本願についての拒絶の理由を発見しない。

引用:不服2011-15746 

shohyo.shinketsu.jp

 

 

(2)ダチョウ抗体マスク(不服2010-24330 )

 

上記で認定した事実によれば、「ダチョウ抗体マスク」の文字は、請求人の業務に係る商品に使用する商標として、その取引者及び需要者に、一定程度認知されているものと認められる。

・・・・

そうとすれば、「ダチョウ抗体マスク」の文字は、補正後の本願指定商品との関係において、原審説示のように「ダチョウ由来の抗体を用いたマスク」を表す商品の品質表示であるというよりは、上記衛生用マスク及び医療用マスクを表す名称として請求人が創作した造語からなる商標とみるのが相当であるから、本願商標は、これをその指定商品について使用しても、自他商品の識別標識としての機能を十分に果たし得るものであり、かつ、商品の品質について誤認を生ずるおそれもないというべきである。
したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当でなく、取消しを免れない

 引用:不服2010-24330

shohyo.shinketsu.jp

 

 

 

意見書・審判請求書の書き方

3条2項の書き方と一緒です。

使用商標の証拠たくさん集めて、主張します。

書き方は下記を参照。

 

【参考】特許庁における商標法第3条第2項の運用 

https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/t_mark09/paper04.pdf

 

まとめ

弁理士試験と実務って差がありますよね〜。

使用状況の主張は3条1項3号で拒絶理由克服のネタにオススメです!

 

 

 

重要なのにあまり知られてなさそうな「称呼検索」の「種別」について

f:id:toreru:20160217201409p:plain

商標検索するときにとても役に立つJ-PlatPatの「称呼検索」があります。

これはどのような順番で並べられているのでしょうか?

 

なんとなくいい感じに並べてくれているんだろうなぁという気がしますが、実際は誰も教えてくれないのでよくわかりませんよね。

また、称呼検索のときに「種別」という項目がありますが、これは何なんでしょうか。

 

謎ですね。

 

実はこれらの謎は、J-PlatPatのヘルプに全て書かれていまして、この「類似種別」を理解することが、調査をする上でとても重要だったんです!

 

と、いうことで早速見ていきましょう。

 


そもそも「類似種別」とは何か

「類似種別」とは、特許庁がシステム上の検索条件を15種類決めて、その15種類の条件のことです。

称呼検索のときの、「種別」とはその条件のうち、どの条件が合致したものかを表しているものなんですね!

 

例えば、種別「01」の条件は

照会した称呼とヒットした称呼とが同一音であるとき(長音の有無等を含みます。)

です。

 

長音の有無を含みますので、

「タフ」で検索した場合は、「タフ」も「ターフ」も「タフー」も種別「01」として結果が出てきます。

 

【参考】称呼検索のヘルプ

https://www2.j-platpat.inpit.go.jp/TM0/TM2/shoko_subwin_notice.html


類似種別の番号が低ければ、審査では類似と判断する傾向が強くなります。実際は、この称呼検索で出てこないものは、ほとんど類似とされません。
(もちろん例外はありますが)

 

なぜ類似種別を理解することが重要か

類似種別を理解することがなぜ重要でしょうか?
検索して出てきた商標の中から怪しい商標をピックアップするときに(これを僕は「選定」と呼んでいます)、検索結果の商標を全て均等の力で見ていくことは効率が悪いからです。

選定する際は、怪しい確率が高いところは気合い入れて見て、怪しい確率が低いところはそれなりに見ることで、メリハリをつけた調査ができます。

そうすると、精度が高く、スピードの速い調査が可能となります。


例えば、間違え探しのゲームをするときは、左上から順にローラー作戦で見るより、出題者はこの部分を変えてきそうだな〜とアタリをつけてから探すと早く見つけることができるのと同じ感覚です。

類似種別を知ることで、そのアタリをつける感覚が磨かれるのです!!

 


称呼(参考情報)について

称呼検索は、特許庁のデータベースにある「称呼(参考情報)」(以下、参考称呼といいます)という項目を基に検索しています。

 

商標「Amazonプライム」(登録5143448)であれば、下記のような参考称呼がついています。

  • 「アマゾンプライム」
  • 「アマゾン」
  • 「プライム」


人の目で見れば、この中で最も重要な称呼は、最初の称呼「アマゾンプライム」です (これを僕は「第一称呼」と呼んでいます)。しかし、J-PlatPatは参考称呼の中で重要度などつけていませんので、全て区別なく検索します。

 

その結果、「プライム」と検索すると
「01」(称呼同一)の商標として「プライム」が続く中、突如「Amazonプライム」が出てきたりします。


参考称呼のうち、どの称呼に反応して、検索してきたかを見ることが重要です。

類似種別「01」は気合いMAXで見る必要がある類似種別ですが、その中でも、商標全体の称呼と同一と、一部の称呼と同一が混在しています。

このことを意識すると商標の選定もしやすくなります。

 

 

まとめ

称呼検索の仕組みを知るとJ-PlatPatに対して「なんでこんな商標出してきてんだ?」ってこともなくなり、検索がもっと楽になります!

 

【参考】称呼検索のヘルプ

https://www2.j-platpat.inpit.go.jp/TM0/TM2/shoko_subwin_notice.html

 

あやふやな知識ではもったいない!類似群コードを正確に数えよう

f:id:toreru:20160216000551j:plain

 1つの区分に商品・役務をできるだけたくさん指定したいですが、

一定の基準を超すと3条1項柱書によって、特許庁から「本当にそんなにたくさん使うんですか〜?」と疑われて使用の証明を求められます。

 

3条1項柱書の拒絶理由は、ホームページ見せたり、簡単な事業計画書(本当に簡単で大丈夫です!)を提出することにより、克服することができます。

しかし、そうすると、費用が無駄にかかっちゃうし、できるだけギリギリのラインを狙って商品を指定したいですよね。

 

では、どうすれば拒絶理由を通知されずに、できるだけ多くの商品を指定することができるのでしょうか。

特許庁の商標審査便覧などに公開されているものから、一つずつ検証していきましょう。

 

第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げ る商標を除き、商標登録を受けることができる。

 

まずは、商標審査便覧41.100.03を開きましょう。 

 

【大原則】類似群コードは7つまで

商品・役務に付されている類似群コードを数えましょう。

原則は、類似群コードが7つまでOKです。8つを超えると3条1項柱書違反となります。

 

原則として、1区分内において、8以上の類似群コード(以下「類似群」という。)にわたる商品又は役務を指定している場合には、商品又は役務の指定が広範な範囲に及んでいるものとして、商標の使用又は使用の意思の確認を行う。

引用:商標審査便覧41.100.03

 

【ルール1】多数の類似群コードがついている商品または役務は、1つとしてカウント

9類の電子出版物は「26A01,26D01」の2つ付されているので、類似群コードは2つになりそうです。

しかし、一つの商品に多数の類似群コードがついている場合は、1つの類似群コードとしてカウントします。

 

ただし、一の商品又は役務で多数の類似群が付与されている商品又は役務であって、他に適当な表示が認められない場合には、その商品又は役務の類似群が2以上であっても、1の類似群として取り扱うものとする。(例:第9類「電子出版物」(26A01,26D01)等)

引用:商標審査便覧41.100.03 

  

【ルール2】包括的概念表示の商品または役務は、1つとしてカウント

25類には、「被服」といういわゆる包括的概念表示(色々な商品・役務が含まれている概念)の商品があります。

被服の類似群コードは、なんと5つ!!!

これでは、一気に5つも類似群コードなくなってしまうのか~!?と思われます。

 

しかし、先ほどの例と同じく、包括概念表示は1つの類似群コードとして扱ってよいため、1つとカウントします!

 

類似群コードがたくさんあるにもかかわらず、1つでいいなんてお得ですね〜!

 

また、「類似商品・役務審査基準」において例示された、いわゆる包括概念表示(例:第25類「被服」(17A01,17A02,17A03,17A04 ,17A07)等)の商品又は役務は、個々の類似群単位に分割して表示することが困難となる場合が多いため、包括概念表示の商品又は役務が2以上の類似群が付与されている商品又は役務であっても、1の類似群として取り扱うものとする。

引用:商標審査便覧41.100.03 

 

25類は下記のような商品が含まれています。

 

被服(17A01・17A02・17A03・17A04・17A07)←1個

ベルト(21A01 )←1個

履物(22A01・22A02・22A03)←1個

仮装用衣服 (24A03)←1個

運動用特殊衣服 (24C01・24C04)

運動用特殊靴 (24C01・24C02・24C04)←1個

 

上記の商品を全て指定すれば、類似群コードは15個あるが、被服、履物、運動用特殊衣服・運動用特殊靴はそれぞれ1つとしてカウントするため、実際には5個としてカウントされます。

 

25類の場合、被服1つしか指定しなかったら、かなりもったいないですねー!ギリギリを狙いましょう!

 

【ルール3】小売等役務は「35K○○」が1つまで

 35類の小売等役務を指定する場合の類似群コードの数え方は特殊です。

小売等役務とは、例えば「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」のようなものですね。

 

この小売等役務は、通常、権利範囲がかなり広いですので、2種類以上の「35K○○」がつく類似群コードを持つ役務を指定した場合に、3条1項柱書きに該当します。

 

なお、小売等役務は必ず小売部分と対応する類似群コード「35K○○」と、その商品と対応する類似群コードがついています。

 

(例1)

被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

35K02・17A01・17A02・17A03・17A04・17A07

35K02が小売部分と対応する類似群コード、17A01・17A02・17A03・17A04・17A07がその商品部分と対応する類似群コードです。

 

(例2)

自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

35K04・12A05

35K04が小売部分と対応する類似群コード、12A05がその商品部分と対応する類似群コードです。

 

「35K○○」が2種類以上あれば、3条1項柱書に該当する、と覚えておきましょう!

 

・・・類似する小売等役務の分野を超えて複数の類似群に属する小売等役務を指定してきた場合は、合理的疑義があるともいえるから、その指定役務に係る業務の確認を 行うこととしたものである。・・・・

<例1> 指定された小売等役務が複数の類似群に属する場合

「自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供35K04(12A05)」と「二輪自動車の小売又は卸売の業務において 行われる顧客に対する便益の提供 35K05(12A06)」とを同時に指定したとき

 引用:商標審査便覧41.100.03

 

 【ルール4】35K99は個別判断!

どの類似群コードをつけたらよくわからない場合は、「○○○99」という類似群コードがつけられます。

小売等役務の場合は35K99となります。

 

35K99の類似群コードは適当なコードが見つからないために、付与されたコードであるので、指定した小売等役務が類似関係にあるか否かを個別判断する必要があります。

商品部分の類似群コードを見て、商品部分の類似群コードが同一であれば、3条1項柱書に該当しませんが、商品部分の類似群コードが異なっていれば3条1項柱書に該当します

 

なお、類似商品・役務審査基準に例示された小売等役務以外の小売等役務 (35K99)の指定が複数なされた場合においては、類似するものと非類 似のものとが混在する場合が考えられるが、小売等役務に係る小売業等の業務を考慮した上で、相互に類似しない小売等役務群が複数以上あるときは、 上記「(c)類似の関係にない複数の小売等役務を指定してきた場合。」に含まれるものとして取り扱うものとする。

引用:商標審査便覧41.100.03 

 

これは、審査便覧に示されている例がわかりやすいですね。

 

<例3>
上記(c)に該当する場合

「ヨットの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 35K99(12A01)」と

「グライダーの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 35K99(12A02)」とを同時に指定したとき

 

<例4>
上記(c)に該当しない場合

「治療用機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益 の提供 35K99(10D01)」と

「手術用機械器具の小売又は卸売の 業務において行われる顧客に対する便益の提供 35K99(10D01)」 とを同時に指定したとき

 

引用:商標審査便覧41.100.03

 

ヨットの小売:35K99(12A01)

グライダーの小売:35K99(12A02)

→商品部分に対応する類似群コードが12A01と12A02が異なるため、3条1項柱書に該当する

 

治療用機械器具の小売:35K99(10D01)

手術用機械器具の小売:35K99(10D01)

→商品部分に対応する類似群コードが10D01と10D01が同じため、3条1項柱書に該当しない

 

 

まとめ

【大原則】類似群コードは7つまで

【ルール1】多数の類似群コードがついている商品または役務は、1つとしてカウント

【ルール2】包括的概念表示の商品または役務は、1つとしてカウント

【ルール3】小売等役務は「35K○○」が1つまで

【ルール4】35K99は個別判断!

 

3条1項柱書に該当しても、使用の意思を証明することや、実際の使用を証明すれば拒絶理由は解消されることがほとんどです。

しかし、むやみに指定商品・指定役務の範囲を広くしすぎて3条1項柱書に該当させることは、対応費用が発生することや、登録までの審査期間が長くなることから得策とは言えません。

そのため、実務上では類似群コードの数を数えることは意外と重要だったりします。

この機会に是非類似群コードを正確に数えてみてください。

 

おまけ

なお、VBAなどのシステムにあらかじめ指定商品と類似群コードの関係を登録しておき、自動判定させれば、さらに正確に類似群コードを数えることができます。(システム作るのに結構手間はかかりますが・・・)

 

 

 

 

4条1項11号を意見書だけで頑張る

f:id:toreru:20160215211617j:plain

商標法4条1項11号はかなり頻度の高い拒絶理由です。

この拒絶理由はJ-PlatPatで調べるとほとんどの場合は事前に予想は可能ですが、微妙な案件を出願した場合などに通知されます。

微妙な案件は「審判までいけばいいじゃ~ん」と思われますが、クライアントが中小企業の場合は、そこまでの予算が確保できないため、なんとか意見書だけで頑張らなければならないことが多いです。

 

一口に4条1項11号の拒絶理由と言っても、対応方法は様々です。

多くは、外観、称呼、観念が非類似だよ!って反論になると思いますが、それが厳しいときはあの手この手を使って、切り抜けなければなりません。

 

外観、称呼、観念を「直球パターン」とすると、今から紹介する方法は「変化球パターン」です。

 

なお、直球パターンはこの本で網羅されていますので、こちらを参考に。

www.amazon.co.jp

 

変化球パターンの基本的な考え方は、審査官が気付いていない別の証拠をぶつけることで、拒絶理由を克服するという考え方です。下記が3つの手法です。

 

(1)先行登録の存続期間が切れてるよ!

(2)権利者が倒産しているよ!

(3)その先行登録商標、今は識別力ないよ!

 

 

(1)先行登録の存続期間が切れてるよ!

先行登録の存続期間が既に切れている場合や、拒絶理由の応答期限内に切れる場合は、これを理由に『審査をちょっと待って!』とお願いできます。

ただし、先行登録の存続期間が切れても、追納ができるので、途中でやっぱり拒絶になることはありますが。

 

私の経験では、こんな商標は更新しにくい傾向にあります。

(1−1)個人は更新しにくい

個人名義の商標は、その事業の本気度が低い傾向にありますので、登録から5年or10年経っても事業が存続している可能性が低く、更新しにくいです。

ただし、企業の社長名義だと、実質法人と変わりませんので要注意!本気度高し!

その個人をググって社長かどうか判断。

 

(1−2)代理人なしは期限落としやすい 

 代理人ない場合は、個人であっても企業であっても期限落としやすいです。大企業でない限り商標の期限管理を普段の業務に落とし込むなんて、中々できないですからね。

J-PlatPatから、出願時に代理人いるかどうか、確認。

 

(1−3)ネットで商標を使ってなければ更新しにくい

現在ホームページなどで商標を使ってなければその商標は必要ない可能性あり。

商標をググる


これらの条件が揃っても更新される可能性はもちろんありますが、一つの目安になると思います。

 


なお、存続期間満了日から1年は、追納&回復の制度があるので、審査待ちになります。

 

【参考】商標審査便覧「40.04 商標権の存続期間が満了した商標を引用する拒絶理由の通知」

https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyoubin/40_04.pdf

 

1.商標法第4条第1項第11号の適用において、引用商標の商標権(国際登 録に基づく商標権を除く。)が存続期間の満了後1年以内のものである場合 には、存続期間の更新登録の申請がされていないときであっても、当該商標 を引用する商標法第4条第1項第11号の拒絶理由を通知するものとする。

・・・・・

4.たたし、本号を理由とする拒絶理由を通知した場合において、引用商標の 商標権存続期間の満了後1年の期間が経過した後に、更新登録の申請がさ れなかったことを確認したときは、当該商標を引用する第4条第1項第11 号には該当しなくなったものとして取り扱う。また、引用商標の商標権者が 更新登録の申請をしない旨の意思を示した書面を提出した場合であって、存 続期間の満了後6月の期間が経過し、第20条第3項の規定による更新登録 の申請がないことを確認したときは、当該商標を引用する第4条第1項第1 1号には該当しなくなったものとして取り扱う。

 

 

 

 

(2)権利者が倒産してるよ!

権利者が法人の場合、倒産している可能性があります。

倒産していれば、出所混同のおそれがなるくなるため、4条1項11号に該当しない可能性があります。

 

【参考判例】平成21年(行ケ)第10396号 審決取消請求事件(商標)

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/479/080479_hanrei.pdf

しかし,引用商標2に係る商標権者については,本願商標の出願登録前に破産手続終結決定が確定しており,当該商標権の存続期間満了日 までの間,引用商標2がその正当な権利者(商標権者又はこれから使用許諾を受けた者)によって現実に使用される可能性は極めて低いものと 認められるのであるから,引用商標2と本願商標との間で商品の出所 についての混同を生ずるおそれはないものといえる。

 

(2−1)倒産しているかを確認する方法

法人が、倒産しているか否かは下記のサイトで確認できます。

www1.touki.or.jp

 

ここで、登記情報を取り寄せましょう。倒産していれば、その旨記載されています。

 

 

(3)その先行登録商標、今は識別力ないよ!

昔は、識別力があったけど、最近になって識別力がなくなった用語というのは結構あります。


商標を見て、ぱっと見でわかる用語なら、審査官も、弁理士も気付きます。

商品「被服」に商標「レディス」なら誰でもわかります。

 

しかしですよ、例えば最新のファッション用語ってご存知ですか・・・?

 

僕は、全くわかりません!!笑

 

ファッション用語って、時代の移り変わりも激しいし、ぱっと見では到底わかりません。例えば、下記のようなものがあるようです。

 

アから始まるファッション用語(出典:ファッションプレス

 

www.fashion-press.net

 

 

アから始まるファッション用語だけでこんなのあるんですから、全体ではどんだけあるんだって話ですよ。

 

しかも、最新の用語がドンドン増えていく。

 

matome.naver.jp

 

 どの業界も新しい用語が出てきますので、それを調べてみると意外と識別力なかったりします。 


ネットで、先行登録商標がどういう使われ方をしているのか調べる。

カタカナ、ローマ字などあらゆる変換をして調べる。

ということが重要です。

 

 

まとめ

下記のパターンで4条1項11号を意見書だけで克服できる可能性があります。 

(1)先行登録の存続期間切れ

(2)権利者の倒産

(3)先行登録商標の識別力なし

 

なお、これらの方法は、僕自身が実際に拒絶理由を克服した方法です。

今後も他の方法があれば随時追加していきます。

「コーヒー」を指定する時の注意事項まとめ

f:id:toreru:20160130152118j:plain

コーヒーは事前知識がないと、かなり難しい商品の一つです。

下記の商品はどの区分に属して、どういう表現をするのでしょうか

 

  • 焙煎したコーヒー豆
  • 焙煎していないコーヒー豆(生豆)
  • 缶コーヒー
  • ペットボトルのコーヒー

 

生豆→「なままめ」と読むらしいです。

 

基本的には30類でカバー

①30類「コーヒー」

30類「コーヒー」には、「焙煎後のコーヒー豆」、「インスタントコーヒー」、「ペットボトル等容器に入ったコーヒー」などが含まれます。

 

②30類「コーヒー豆」

そして注意したいことは、焙煎前のコーヒー豆は、30類「コーヒー」には含まれず、30類「コーヒー豆」に属するということです。農家で取れた摘みたてのコーヒー豆とか入るのかな。

 

ぱっと見、「コーヒー豆」って見たら焙煎した後の黒いコーヒー豆をイメージしますけど。違うんですね。

 

32類も必要に

「コーヒー」と「コーヒー飲料」と「コーヒー入り清涼飲料

 ここが最難関ですが、ペットボトルコーヒーなどは、コーヒー豆がどれくらい使われているかで「コーヒー」「コーヒー飲料コーヒー入り清涼飲料って飲み物の種類が異なるみたいです。

なんと、それに伴い「コーヒー」「コーヒー飲料」と「コーヒー入り清涼飲料」は別の区分になっています!!類似群コードも別!

 

コーヒー豆がどれくらい入っているかを「生豆換算」(なままめかんさん)という言葉で表します。

 

詳しくはこちらで「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約 」

http://www.jfftc.org/rule_kiyaku/pdf_kiyaku_hyouji/010.pdf

 

内容量100 グラム中に生豆換算で、コーヒー豆を下記の量を使用したもの

「コーヒー」       5g以上
コーヒー飲料」     2.5g以上5g未満
コーヒー入り清涼飲料」 1g以上2.5g未満

 

③32類「コーヒー入り清涼飲料

コーヒー入り清涼飲料」は「清涼飲料」と同じ32類です。

 

 つまり、生豆換算で

2.5g以上→30類「コーヒー、コーヒー飲料

2.5g未満→32類「コーヒー入り清涼飲料

 ということです。

 

なので、クライアントに「今度ペットボトルのコーヒーの飲み物発売するんで、コーヒーの区分でよろしく!」って言われたときには、

ちゃんと「生豆換算で2.5g以下のもの販売しますか?」または「コーヒー入り清涼飲料販売しますか?」と聞かなければなりません!

 

正直「コーヒー飲料」と「コーヒー入り清涼飲料」は類似群コード異なるけど、ちゃんと争えば商品類似になりそうですけど。

 

まとめ

コーヒーの指定商品って 難しい。

 

【参考審決例】

コーヒー飲料」と「コーヒー入り清涼飲料」は違うものだよ、という審決。

shohyo.shinketsu.jp

「商品の一般名称」は、本当に識別力ないのか?

f:id:toreru:20150720141846j:plain

 

通常、商品の一般名称は識別力がないといわれています。

しかし、近年そうとも限らない審決がちらほら出てきており、一概に判断できなくなってきています。

今回は、結合商標の中での、商品の一般名称について、4条1項11号での取り扱いを中心に見ていきましょう。

 

原則を見てみよう「4条1項11号の審査基準」

4条1項11号の審査基準には下記の通り記載されています。

6.結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、例えば、次のように判断するものとする。ただし、著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかなときは、この限りでない。

(1)形容詞的文字(商品の品質、原材料等を表示する文字、又は役務の提供の場所、 質等を表示する文字)を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されてい ない商標と類似する。

 

ざっくり要約

つまり、商品の品質等は原則、そこを省略して類否判断しようねって記載されています。

 

疑問

では、「小僧」と「小僧寿し」は類似でOK?

「寿し」って思いっきり商品「寿司」の一般名称ですよね。

 

「小僧」と「小僧寿し」は非類似

最高裁平成 6年 (オ) 1102号

被上告人標章については、一般需要者が「小僧寿し」なる文字を見、あるいは「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」なる称呼を聞いたときには、本件商品の製造販売業者としての小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンを直ちに想起するものというべきである。そして、小僧寿し」は、一般需要者によって一連のものとして称呼されるのが通常であるというのであるから、右によれば、遅くとも昭和五三年以降においては、「小僧寿し」「KOZOSUSHI」「KOZOSUSI」「KOZO ZUSHI」の各標章は、全体が不可分一体のものとして、「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」の称呼を生じ・・・・

 

ざっくり要約

持ち帰り寿司で有名な「小僧寿し」は、普通、一般需要者は「小僧寿し」って読むよね。だから、そういう取引事情を考慮すれば、「小僧」「小僧寿し」は非類似だよね。

という判決が出ました。

 

取引事情を考慮すれば、著名商標は識別力弱い部分があっても一連一体に判断することもあるようです。

 

疑問

じゃあ、「おつかれサワー」と「おつかれ」はどちらも有名でない場合は、類似ですよね?

 

「おつかれサワー」と「おつかれ」は非類似 

 不服2012-24640 

・・・この「サワー」を含む低アルコールリキュールを扱う団体(日本洋酒酒造組合)においては、・・・誤飲防止や、一般消費者の適正な商品選択を保護し不当な顧客の誘引を防止し、公正な競争を確保することを目的とした自主基準を設けている。

その基準によれば、「商品名」について、「清涼飲料等との誤飲を防止するため、『果汁』の用語を使用するときは、例えば、『○○果汁のお酒』、『○○果汁のチューハイ』等のように酒類であることがめいりょうに分かる商品名に果汁の用語を使用する場合に限り行うことができる。この場合、当該商品名の表示は分離することなく一体になっていなければならない・・・」と規定するなど、本願指定商品を取り扱う業界において、商品名の表示方法について、一定の基準が作成され、注意が払われていることが見受けられる。
そのような実情を踏まえると、名称(商標)の一部に「サワー」等の酒類を表す語が含まれている場合においても、他の部分を含めた全体で「○○サワー」のように一体で使用されるのが通常であるといえる。
そうすると、本願商標は、その構成中の「サワー」の文字部分が、本願指定商品の普通名称を表すものであるとしても、上記の実情よりして、常に全体をもって一体不可分のものと認識し、把握されるものとみるのが相当であるから、その構成文字全体に相応して、「オツカレサワー」の称呼のみを生じ、特定の観念は生じないものと判断するのが相当である。

ざっくり要約

酒業界の場合、名称の一部にサワー含まれる商品名は、「○○サワー」と使用することが普通ですよね。

なので、「サワー」つくものは一連一体で読みましょう。

そのため、「おつかれサワー」と「おつかれ」は非類似です。

という、審決例です。

 

 疑問

では、業界内に、商品名の規則ない場合の

「ゲンコツコロッケ」と「ゲンコツ」は類似ですよね?

 

 

「ゲンコツコロッケ」と「ゲンコツ」は非類似

不服2014-24087

そして、本願商標の構成中の「ゲンコツ」の文字は、「げんこつのような形(又は大きさ)」として、形状を暗示させる場合があることは否定できないことから、「ゲンコツ」の文字部分は、識別力がないとまではいえないが、自他商品の識別標識として強力に機能するともいえないものである
そうすると、本願商標は、「ゲンコツ」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能するというよりも、その構成文字全体をもって、取引に資するものというのが相当である
したがって、本願商標は、その構成文字全体で、一種の造語を表したものと認識、把握されるとみるのが自然であるから、その構成文字に相応して、「ゲンコツコロッケ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものといえる。

 ざっくり要約

商品「コロッケ」において、商標「ゲンコツ」は、

識別力がないとまではいえないが、自他商品の識別標識として強力に機能するともいえないものである

のようです。

 

この表現は逸品です。

図にすると下記のような感じです。

識別力ない

この間(識別力ないとも言えないが、強力でもない)

識別力強力に機能する

 

「識別力ない」というと、そもそも3条じゃない?引用商標も否定するの?となってしまうし、

「識別力強力にある」というと、「ゲンコツ」だけ抜き出して判断することになるから、4条1項11号該当になります。

 

そこで、3条でもないんだけど、「ゲンコツ」のみは抜き出して判断しない表現としての、

「識別力がないとまではいえないが、自他商品の識別標識として強力に機能するともいえないものである」

です。

 

この表現は、他の審決にもあります。

 

「radiant fluid foundation」と「RADIANT」

不服2014-10997

本願商標の構成中、「radiant」の文字部分は、「輝く、明るい、光り輝く」等の意味を有する英語であって、その指定商品中の化粧品の分野においては、肌について「輝きのある肌」、「輝くように明るい肌」のように表示する場合があることから、「radiant」の文字部分は、前記のような意味合いを想起させる場合があるものといえ、該文字部分は、自他商品の識別力がないとまではいえないとしても、自他商品の識別標識としての機能を強力に発揮するとはいえないものである。

 

 

まとめ

原則

商品の一般名称が入っていれば、その部分は識別力なし。

 

例外

取引事情を考慮。商品名入ってても一連一体に読む場合もある。

(例)

  • 著名商標で需要者が既に一連一体に読んでいる場合
  • 業界では商品名も一連一体に読むことが普通な場合
  • 識別力がないとまではいえないが、自他商品の識別標識として強力に機能するともいえない場合

 

この他にも理由が色々出てくると思いますので、審決をチェックしていきたいと思います。