商標実務のブログ

日々の商標実務で気付いたことを中心に

商標大量出願の対策について(裏話あり)

大量に商標出願している人(A氏)、会社(B社)はご存知でしょうか。

この商標大量出願の対策を公開します。

本当は3月に下書きしていた記事なんですが、公開すると大量出願者に手の内を明かすことになるので、よくないかなと思って下書きのままにしていました。

しかし、大量出願について昨日(2016年5月17日)、特許庁からは異例の通達があったため、僕もこの機に記事を公開することにしました。

 

特許庁からの異例の通達 

昨日(2016年5月17日)特許庁からの通知で、商標大量出願についての異例の通達がされました。

 

自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)

 

最近、一部の出願人の方から他人の商標の先取りとなるような出願などの商標登録出願が大量に行われています。しかも、これらのほとんどが出願手数料の支払いのない手続上の瑕疵のある出願となっています。

特許庁では、このような出願については、出願の日から一定の期間は要するものの、出願の却下処分※1を行っています。

また、仮に出願手数料の支払いがあった場合でも、出願された商標が、出願人の業務に係る商品・役務について使用するものでない場合(商標法第3条第1項柱書)※2や、他人の著名な商標の先取りとなるような出願や第三者の公益的なマークの出願である等の場合(同法第4条第1項各号)※3には、商標登録されることはありません。

したがいまして、仮にご自身の商標について、このような出願が他人からなされていたとしても、ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください。

なお、これらの出願についても、出願公開公報やJ-PlatPat※4にて公表されますが、当該情報はあくまでも商標登録出願がなされたという情報の提供であり、これらの出願に係る商標が商標登録されたことを示すものではありません。

 

引用:https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/tanin_shutsugan.htm

 

特許庁の通達の要約

商標の大量出願者(以下、A氏)は、出願しているにもかかわらず、お金(印紙代)を払ってないですよ。

そのため、ほとんどは出願却下になってますよ。

また、仮にお金払っても、3条1項柱書きや4条などで拒絶できますので、心配しないでください。

だから、その商標大量出願のせいで自分の出願を諦めるなんてことしないでください!

 

 

 

審査官との余談話

 

実は僕は、3月にA氏の出願により拒絶理由を受けていて、そのことで審査官とごにょごにょ話していました。

今回の通達に関係があったかはわかりませんが、文言がそっくりだったので紹介します。

 

2016年3月頃

 

時系列

・A氏出願X

 

・僕のクライアント出願

 

・A氏出願Y(出願Xの分割出願)

 

・僕のクライアント拒絶理由通知(A氏出願Xが引用例

 

・僕、ちょっと審査官に電話←ココの話

 

 

僕「この拒絶理由の引用例の出願XはA氏のものなんだけど、分割出願の方(出願Y)は適法に行われてないから出願日は遡求してないんですよね?」

審査官「そうですよ!」

僕「ってことは、引用例は出願Xだけでいいってことですか?」

審査官「はい。しかもその出願は料金未納でもうすぐ出願却下になりそうなんで、それが却下になれば登録できますよ!」

僕「お、まじっすかーよかったー。」

審査官「そのことは拒絶理由にも書きましたよ。」

 

拒絶理由通知には、かなり珍しく、A氏の出願が登録にならなければ本願商標は登録できる旨をアンダーライン付きで記載されていました。

通常は4条1項11号は出願番号しか書いていない質素なものなんですが、めちゃくちゃ例外的にA氏の出願却下を匂わすような文言がありました。

一目見ただけでは気づかなかったです。

 

 

僕「ここから一般論の話なんですけど、A氏の分割出願が適法に行われていないことってよくあるんですか?」

 

審査官「めちゃくちゃありますよ!今のところ、A氏の出願はほとんどが却下になっていますよ!」

 

僕「まじっすかー知らなかったー。調査時に結構出てくるから、その時は拒絶される可能性があるとクライアントに伝えていたんですよねー。」

 

審査官「ここからは私も一般論としてお聞かせ願いたいんですが、A氏の出願でクライアントが出願を断念することってよくありますか?」

 

僕「え、結構、ありますよ。」

 

審査官「本当ですか??A氏を理由に出願を断念するなんて非常にもったいないですよ!ほとんど出願却下になるのに!」

 

僕「いや〜そうはいっても、A氏にお金払われたら登録される可能性あるので、代理人の立場からは中々「登録できますよ」とは言えませんよ〜」 

 

審査官「そうですか〜。もったいない〜。」

 

僕「今日は良い情報をありがとうございました。」

 

審査官「こちらこそありがとうございました。」

 

そうして電話を切りました。

審査官が「もったいない」と繰り返し言っていたことが非常に印象的でした。

 

 

商標大量出願の対策について

A氏の戦略は出願料(印紙代)を払わずに出願して、とりあえず出願日を確保して、印紙代を払わないとして出願却下になりそうならば、分割出願を繰り返すというものと思われていました。

 

最初に出願した指定商品を多く書けば、分割出願は半永久的に行えるので、一見無敵に見えるこの戦法ですが、弱点がありました。

 

その弱点とは、原出願を適切に補正ができていなくて、分割出願が遡及できていない案件があることです。

 

分割出願が適法にできていなければ、何も怖いことはありません。

あとは、原出願が出願料未納による却下処分になるときを待つだけです。

 

そのため、僕の現在の対策としては、A氏の出願の経過情報を注意深く見て、分割出願が適法に行われているかを見るようにしています。

 

また、仮に出願料を払われた場合は、特許庁の最終兵器「公序良俗違反」(4条1項7号)を基に反論しようかと思っていました。

 

特許庁の通達についての感想

今回は、「あきらめずに出願しちゃえよ!」という趣旨の通達です。

知識がない素人の人が見れば、A氏と関係ない引用例が発見されても、特許庁が「あきらめるな」って言っているから出願した!という方が出てきてもおかしくありません。そのため、多少なりのクレームが入るかもしれません。

 

それにもかかわらず、中小企業や個人のために特許庁の運用状況を開示してくれました。

 

この通達は、A氏の出願で困っている中小企業、個人に向けての特許庁からの愛のあるメッセージであり、代理人の僕にとってもめちゃくちゃ有難い通達です。

 

これにより、クライアントも説得しやすくなりますし、商標業務も円滑になります。

 

ただ、A氏がこの件を見て色々対策してくる可能性がありますので、安心はまだまだできません。今後も逐一行動を監視していく必要はあります。

商標の検索式の作り方とコツ

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商標検索するとき検索式はどうやって作れば良いのでしょうか。

僕は1000件以上商標調査をしてきて、ある時、商標の検索式の作り方にはパターンがあることに気がつきました。

この記事で紹介するパターンを使えば、ほとんど考えることなく網羅的な検索式を作ることができます。

正直、商標の検索式を作るのは特許と違ってめちゃくちゃ簡単です。

それでは、手順をみていきましょう。なお、使用するデータベースはJ-PlatPatです。


【手順1】商標の称呼の候補を出す

検索式を作る前に、最初に商標の称呼の候補を全て洗い出しましょう。


今回は、「Chrysanthemum Sky」という商標を例にします。

まずは、「Chrysanthemum」部分と「Sky」部分の称呼を確定させます。

「Chrysanthemum」部分 は何と読めばよいでしょうか?

 

読み方を調べる方法は大きく2つあります。

(1)Googleで読み方を調べる

読み方を調べるために「Chrysanthemum」「Chrysanthemum 読み方」などでググってみましょう。

 

そうすると、wikipediaが見つかりました。

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引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/キク属

 

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引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/クリサンシマム

 

 

wikipediaによると「クリサンセマム」または「クリサンシマム」と読むことがわかりました。

 

しかし、これだけでは、まだ不安です。他にも読み方があるかもしれませんので、今度は過去の登録例ではどのように読んでいたかを調べます。

 

(2) J-PlatPatで読み方を調べる

J-PlatPatの「商標(検索用)」で「Chrysanthemum 」を検索します。

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そうすると、先行登録から

  • 「クリサンズマム」
  • 「クリサンサマム」
  • 「クリサンセマム」

という称呼(参考情報)が見つかりました。

 

「Chrysanthemum 」部分の読み方

「Chrysanthemum 」部分の読み方は、下記の4つがあることがわかりました。

  1. 「クリサンシマム」
  2. 「クリサンズマム」
  3. 「クリサンサマム」
  4. 「クリサンセマム」

 

「Sky」部分の読み方

なお、「Sky」部分の読み方は「スカイ」のみで大丈夫です。

  1. 「スカイ」

※Skyの読み方について

ローマ字3文字のときは、「エスケーワイ」などローマ字読みをさせることもありますが、「SKY」の場合は、先行登録を調べると全て「スカイ」の称呼が付されていたので、「エスケーワイ」の称呼を考えなくても「スカイ」だけで網羅的な検索ができます。

 

 

【手順2】「称呼検索」の検索式を作る

結合商標「A+B」で称呼検索をする場合は、検索式は、下記の3パターンに限られます。

  1. 「A」
  2. 「B」
  3. 「A+B」

 しかし、「A」や「B」に入る称呼が複数考えられる場合は、それらの組み合わせ全パターンを考えなければなりません。

今回の「Chrysanthemum Sky」の例で考えてみましょう。先ほど調べた各部分の称呼を考慮すると下記のようになります。

1.「Chrysanthemum」

「クリサンシマム」
「クリサンズマム」
「クリサンサマム」
「クリサンセマム」

2.「Sky」

「スカイ」

3.「Chrysanthemum Sky」

「クリサンシマムスカイ」
「クリサンズマムスカイ」
「クリサンサマムスカイ」
「クリサンセマムスカイ」

 

また、J-PlatPatの「称呼検索」は一度の検索で2つの称呼を同時に調べることができます(これは時間短縮のコツです!)ので、実際には、下記の5パターンが称呼検索の検索式になります。

  • 「クリサンシマムスカイ」「クリサンズマムスカイ」
  • 「クリサンサマムスカイ」「クリサンセマムスカイ」
  • 「クリサンシマム」「クリサンズマム」
  • 「クリサンサマム」「クリサンセマム」
  • 「スカイ」

これで「称呼検索」の検索式が完成しました!

 

【手順3】「商標(検索用)」の検索式を作る

「称呼検索」で90%以上先行登録は発見できますが、たまにそれだけでは発見できない場合があります。
その場合は、「商標(検索用)」で検索する必要があります。

結合商標「A+B」を「商標(検索用)」で検索をする場合は、検索式は、下記の3パターンになります。

  1. 「A?」
  2. 「?B」
  3. 「?A+B?」

なお、「?◯◯」は前方一致、「◯◯?」は後方一致、「?◯◯?」は前方後方一致を表します。

 

今回の「Chrysanthemum Sky」の例で考えてみましょう。先ほど調べた各部分の称呼も考慮すると下記のようになります。

1.「Chrysanthemum」

「Chrysanthemum?」

「クリサンシマム?」

「クリサンズマム?」

「クリサンサマム?」

「クリサンセマム?」

2.「Sky」

「?Sky」

「?スカイ」

3.「Chrysanthemum Sky」

「?ChrysanthemumSky?」

「?クリサンシマムスカイ?」

「?クリサンズマムスカイ?」

「?クリサンサマムスカイ?」

「?クリサンセマムスカイ?」

 

ローマ字だけではなく、念のためカタカナも検索しています。案件によってはひらがなや漢字で調べた方が良い場合もあります。

また、J-PlatPatの「商標(検索用)」は一度の検索で多くの文字を同時に調べることができます(これは時間短縮のコツです!)ので、実際には、下記の3パターンが商標(検索用)の検索式になります。

  • Chrysanthemum? クリサンシマム? クリサンズマム? クリサンサマム? クリサンセマム?
  • ?Sky ?スカイ
  • ?ChrysanthemumSky? ?クリサンシマムスカイ? ?クリサンズマムスカイ? ?クリサンサマムスカイ? ?クリサンセマムスカイ?

これで「商標(検索用)」の検索式が完成しました!

 

 

まとめ

いかがでしょうか。以上の手順に沿って検索式を作るだけで、速くモレのない検索式を作成することができます!しかもパターン化しているので、楽チンです!

今すぐできる!商標の意見書力を上げる5つの方法

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商標の意見書を書いてみたものの、イマイチこの書き方で良いのか迷っている。

ってか、そもそもどう書けば正解なの・・・。

という経験はありませんか?
この記事では、意見書の力をすぐに上げることができる5つの方法を紹介します。

 


(1)名著「商標登録制度の解説と意見書24例」を読む

これを超える商標の意見書に関する実践的な本って他にあんの?っていうくらい良書です。
意見書について何から勉強していいか全くわからない場合は、まずはここから始めてみましょう。

例えば、「京都の花」(商品:茶)という商標が識別力なしとして拒絶されたときに、なぜ識別力があると主張できるのかその理由、書き方はとても参考になります。

 

www.amazon.co.jp

 

(2)他の人の意見書を読む

他の人の意見書は、ノウハウの宝庫ですね。

簡潔に短く書くタイプの人や、物量(証拠量)で押し切るタイプの人、独自の感性で書く人など、様々な書き方があります。

めちゃくちゃ参考になりますので、他の人の意見書を読む方法は最もオススメです。

それでは、他の人の意見書はどこで見ることができるのでしょう。

 

意見書の取得方法

  1. インターネット上から取得する
  2. 電子出願ソフトから包袋を取得する

 

有難いことにインターネット上に意見書をあげてくれている先生がいます。「商標 意見書」などでググるとでてきます。まずは、それらの意見書を見てみましょう。

 

しかし、ネットで上がっている意見書は、数も限られていますし、実際の意見書ではない可能性もあります。

 

そのため、やはり実際の意見書を電子出願ソフトから取得することがいいと思います。

一通当たり600円かかりますが(縦覧期間なら無料!!)、その価値は十分にあります。

 

僕も定期的に他の人の意見書を勉強しています。これはいつまでもずっと続けていきたい方法ですね。

 

【参考ブログ】縦覧について

brevaxen.blog.jp

 

 

(3)研修に行く

商標の意見書に関する研修はとても少ないですが、年にいくつかあるようです。

その中でも商標実務者養成講座(初級)はオススメです。

オススメの理由は、実際に自分で書いてみるタイプの研修だからです。意見書は、講義で聞くだけでは、絶対に身に付きません!
また、添削付きなのも嬉しいですね。

厳しい講師に当たった場合は、もしかしたら自分の意見書をボロクソに言われるかもしれませんが、それは成長の機会だと前向きに捉えましょう。

他の人の意見を聞くことは、自分の視野を広げる意味で重要です。

研修に行って実際にいくつか意見書を書いてみましょう!

 

【参考ブログ】商標実務者養成講座(初級)について

弁理士oTToのBlog(ブログ)::商標実務者養成講座(初級) - 2009年弁理士登録しました!!

 


(4)商標調査報告時に克服方法まで書く

実は、商標調査時にも意見書力を上げる方法があります。

それは、調査時に「拒絶理由が通知されることがある」などと判断した場合に克服方法まで書くことです。

調査時に想定される拒絶理由の克服方法を考えるということは、意見書の主張内容を考えることと似ています。

 

例えば、想定される拒絶理由が4条1項11号であれば、併存登録や審決例などの証拠、さらに非類似の主張ができる根拠を調査報告書に簡単に書いておくと良いと思います。

 

ただし、所属している事務所によっては調査時に克服方法まで書いてはいけないところもあるかもしれませんので、注意してください。その場合は、自分メモとしてどこかに克服方法を書いておけば、同じ効果が得られます。

 

調査時に克服方法まで考えるということは、調査する度に毎回意見書の主張内容まで考えることになるので、飛躍的に経験値が上がります。

 

 

(5)拒絶理由通知をもらっても、あきらめないと誓う

 

「あきらめたらそこで試合終了ですよ。」

 

という名言は意見書にもいえます。

 

審査官からの指摘を見ると「確かに〜!」と納得してしまうことが多いです。しかし、そこで屈してしまうと意見書で覆す気力が失せてしまいます。そうなると、審査官を説得することは絶対にできません。

 

「絶対にあきらめない!」と誓うことが、意見書を書く上では結構重要だったりします。

実際に僕は40日の応答期間で30日目以降に解決策を思い付いたことが何度もありました。どう考えてもきつい案件は確かにあります。しかし、多くの案件は何かしら突破口があるものです。頭が爆発しそうなくらい考えた案件は、自分の血肉となり今後の糧になります。

 

あきらめそうなときは、いま一度「何か突破口はないか?」と自問してみるといいと思います!

 

 

まとめ

この記事で紹介した意見書力をすぐに上げることができる5つの方法です!

  1. 名著「商標登録制度の解説と意見書24例」を読む
  2. 他の人の意見書を読む
  3. 研修に行く
  4. 商標調査報告時に克服方法まで書く
  5. 拒絶理由通知をもらっても、あきらめないと誓う

 

「審判で通ってるから、審査も通る」の落とし穴

 

 

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はじめに

今回は商標の調査報告書を書く時の落とし穴の話です。僕の失敗談を交えながら、「登録可能性が高い」「拒絶される可能性がある」などと報告するときに気をつけるべきことを解説しています。

 

僕の失敗談

商標調査のときに、ちょっと判断に迷った案件があれば審決を調べにいきますよね。

そのときに、過去の審決で全て登録になっていたらクライアントに何て伝えるでしょうか?

 

「過去の審決でこれだけ通っているから、今回の審査も通りますよ!!」

 

僕は当初そう言っていました。だって、審決で通っているんですよ?審判官が過去に登録と判断したんだから、もちろん審査官も同じように判断しますよね。

 

しますよね・・・?

 

・・・・

 

しかし、どうゆうことでしょう。 

審判でかなり通りやすい案件なのに、拒絶理由がどんどんきます!!
 
これが、「審判で通ってるから、審査も通る」の落とし穴です。
 
この落とし穴の原因を知らなければ、

「審決とは、過去に特許庁が判断した結果であるのに、審査では何で違う判断するんだ!」

「審査官は、もっと審決のこと勉強しろよ!」

と理不尽さを感じることになります。
 
「審判で通ってるから、審査も通る」の何が間違っているのでしょうか。
 
そもそも、審決とは何かということから、審査、審判の関係を下記の図で見ていきましょう。

 

審決の正体

 

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上記の図は、審査のパターンを4つに分けて示しています。

  1. 一発登録査定
  2. 拒絶理由が通知される
  3. 拒絶査定になったあと、登録審決
  4. 拒絶査定になったあと、拒絶審決

上記の図を見てもらえば、一発でわかると思いますが、審決例はあくまでも「審判官」がOK・NGと判断したものです。
審判官がOK・NGと判断したということは、「審査官」は全てNG(拒絶査定)と判断したということともいえます。

 

つまり、審決例の案件は全て拒絶査定になっていたんです!


審判で争われている案件は、審査官にとっては、パッと見た瞬間「拒絶してぇなー・・・」と思われがちな案件であるということです。
拒絶査定にならなくても、少なくとも拒絶理由は通知される可能性があると判断すべきです。

そのため、似たような審決例が多数見つかった案件については、調査報告書では、

  • 拒絶理由が通知される可能性がある。
  • その際、意見書にて反論できる可能性はある。
  • また、反論できない場合は、審判では認められる可能性がある。

などと、拒絶理由が通知される可能性があると報告しましょう。

決して「登録可能性が高い」と報告してはいけません。

「登録可能性が高い」と報告すると、通常「(拒絶理由が通知されずに一発で)登録査定になる」と認識されることがあるからです。

 

審決例を勉強するとはどういうことか

「審決例」を勉強するということは、「審判の傾向」を知るということです。
審査の傾向」を知るということではありません。

「審査の傾向」を知りたければ、「審査例」を勉強する必要があります。

つまり、どういう商標に対して拒絶理由が通知されたかを調べなければなりません。

 

 

審査例の勉強の仕方

審査例を調べることは、通常大変です。

商標の場合、特許と違ってJ-PlatPatから拒絶理由通知などの包袋は見る事はできません。

見る事はできるのは、拒絶理由の条文番号だけです(4条1項11号など)。

また、拒絶査定が確定したものは検索対象から外されますので、過去に拒絶査定が確定した案件は有料のデータベース等を使わないと見る事ができません。

 

そういった状況で、審査例を勉強する方法は下記のものが考えられます。

  • たくさん商標案件をこなす
  • 包袋を取得して、拒絶理由通知をひたすら見る
  • 審決例を見て、全て拒絶査定の案件として勉強する

この中では、商標案件をたくさんこなすことが一番の勉強方法だと思います。実践に勝る勉強方法は今のところない気がします。

 

まとめ

審決例の案件は全て拒絶査定!!

なので、過去に審判で通っても審査で通るとは限らない!

 

 

 

 

 

■番外編 ~審査例を勉強するためのチャレンジ~

商標案件をたくさんこなすことが、審査傾向をつかむ上で最も有効だと思いますが、最初のうちは案件をたくさんまわしてもらえなかったり、依頼が思ったよりこなかったりで経験を積むことが難しい場合もあると思います。

 

そこで、こんな企画をやってみようかと思っています!

 

「審査結果を予想しよう!審査100本ノック!!」

 

今出願されている商標を100コ選んでFA(登録査定か拒絶理由通知か)を当てるゲームです。

 

【ルール1】商標100件の審査をする

【ルール2】登録査定or拒絶理由通知を当てる

【ルール3】拒絶理由通知の場合は、条文番号も当てる

【ルール4】制限時間は3時間とする

【ルール5】類似群コードが全部で20を超えるものは除外してもOK(J-PlatPatで一度に検索できないので)

【ルール6】図形商標は除外する

 

正答率は7~8割いけたらいいですね~。

 

もし、この方法が商標調査の能力を上げる方法として有効であれば、今後もガンガンやっていきたいですね。

あと、事前に簡単なシステム作っておいて、極力調査を自動化していきます。

1件当たり約2分で判断しなければなりませんので、識別力調査で1分、類否判断で1分で頑張ります。

区分を飛び越える!?「他類間類似」「備考類似」を使いこなそう!

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商品・役務の類否判断をするとき、通常、商品・役務の区分が異なれば、非類似になることがほとんどです。しかし、区分を飛び越えて、商品・役務が類似することがあります

 

類似群コードは同じだが、区分が異なる場合を「他類間類似」といいます。

類似群コードが異なるが、個別的に商品・役務が類似するとした場合を「備考類似」といいます。

この記事では、「他類間類似」「備考類似」が実務上どのように役に立つのかを見ていきます。

 

事例

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クライアント「今度、バスケットボールチームのTーシャツを発売することになったんで、そのチームのロゴで商標取りたいと思ってるんですよ〜」

 

クライアント「 そして、将来的には、チームロゴがついたバスケットボールも販売したいなと思っているんですよ〜」

 

僕「じゃあ、25類「ティーシャツ」と28類「バスケットボール」の2区分が必要ですね!」

 

クライアント「いやいや、今回は予算なくて1区分しか無理なんですよ〜。25類を優先してください。でも28類を他社に取られるのも嫌なんですよ〜。なんとかいい感じにお願いしますよ〜。」

 

僕「・・・・」


と、いうようなワガママを言われることは結構あります。

このような場合は、「無理っス!」と突っぱねることもできますが、

「他類間類似」というテクニックを知っていれば、クライアントの要望を少し汲み取れることができます。

 

他類間類似とは

商標法2条6項

この法律において、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする。

商標法6条3項

前項の商品及び役務の区分は、商品又は役務の類似の範囲を定めるものではない。

 「他類間類似」とは、商品・役務の類否において、区分が異なるにもかかわらず商品・役務が類似することをいいます。

区分は異なるが、類似群コードが同じときに「これは他類間類似だね〜」と言ったりします。

 

例えば、以下のようなものがあります。

類似群コード 19B33 

上記の商品は全て類似群コード19B33が付されています

ペットの服やペットのおもちゃなどはそれぞれ異なる区分ですが、どれも愛玩動物用(ペット製品)の商品ということで類似と推定されています。

上記の商品はいずれも他類間類似の関係にあるといえます。

 

そのため、第18類「愛玩動物用被服類」(19B33)を指定すれば、もれなく、

第20類 愛玩動物用ベッド 犬小屋 小鳥用巣箱←19B33
第21類 愛玩動物用食器 愛玩動物用ブラシ 小鳥かご 小鳥用水盤←19B33
第28類 愛玩動物用おもちゃ←19B33

まで、先願を確保することができます!

(厳密にいうと、後願の他社が類似商標を出願したときに、商標類似&商品類似としてその出願は拒絶される)

 

この他類間類似を使えば、ある区分の1つの商品しか指定していないのに、他の区分の重要な商品まで権利範囲に含むことができるのです!

 

なお、その他の他類間類似の関係は、「類似商品・役務審査基準」の「他類間類似商品・役務一覧表 」で見ることができます。

【参考URL】他類間類似商品・役務一覧表

https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/ruiji_kijun10-2016/all.pdf#page=255

 

先ほどの事例

クライアント「今回は予算なくて25類の1区分しか無理なんですよ〜。でも28類「バスケットボール」を他社に取られるのも嫌なんですよ〜。なんとかいい感じにお願いしますよ〜。」

 

僕「では25類「運動用特殊衣服」(類似群コード:24C01・24C04 )もあわせて指定しておきますので、これが登録されれば28類「バスケットボール」(類似群コード:24C01)が他社に取られることはないはずです。

しかし、不使用取消審判がありますので3年以内には28類「バスケットボール」の出願をしておいた方がいいですよ!

 

クライアント「了解で〜っす!」

 

 

上記のように25類「運動用特殊衣服」を指定することにより類似群コード24C01の先願を確保することができました。そのため、28類「バスケットボール」(類似群コード:24C01)が他社に取られるというリスクがなくなりました。

 

こうして、25類の1区分しか指定しないのに、将来権利が欲しくなるであろう28類「バスケットボール」を他社に取られないようにしたいというクライアントの要望を汲み取ることができました。

 

ただし、注意事項は、そうして指定した商品(事例では「運動用特殊衣服」)は使用しない場合がほとんどのため、不使用取消審判で取り消される可能性があります。そのため、必ず何年か後には本当に欲しい商品(事例では「バスケットボール」)を出願するようにクライアントに言っておきましょう。

最初は予算が取れなくても、事業が拡大してきたらポンポン予算が出ることがありますので、その時はこちらから積極的に提案していきましょう。

 

また、他類間類似と似たようなものに、備考類似というようなものがあります

 

備考類似とは

「備考類似」とは、「類似商品・役務審査基準」において、(備考)という項目で他の類似商品・役務を掲げ「〇〇は△△と類似と推定する」と表記されたものをいいます。

 

例えば、「電子出版物」と「電子出版物の提供」の関係があります。

  • 9類「電子出版物」(類似群コード:26A01・26D01 )
  • 41類「電子出版物の提供」(類似群コード:41C02)

これらは類似群コードが共通していないため、通常は非類似であると思われます。

しかし、「類似商品・役務審査基準」の(備考)の欄には、

(備考)「電子出版物」は、第41類「電子出版物の提供」に類似と推定する。

と、ありますので、例外的に 「電子出版物」と「電子出版物の提供」は類似と推定されます。

 

備考類似の弱点

備考類似は他類間類似と同じような使い方ができると思われますが、実は、「備考類似」は、審査では原則考慮されません

そのため、備考類似でもって、他類間類似のように審査段階で他社の登録を排除することは難しいのが現状です。 

しかし、「情報提供 」「異議申立」「無効審判」において、奥の手として他社の出願を拒絶、登録を取消・無効にすることができるメリットがあります!

 

例えば、9類「電子出版物」を指定しておけば、他社が41類「電子出版物の提供」を指定して出願したときには、情報提供などで拒絶にさせることができます。

情報提供や無効審判などは費用がかかるので、あまり多くは依頼されませんが、万が一本当にやばい出願があった場合は、このように備考類似が役に立つときがあります。

 

僕は、このように備考類似は何かあった時のお守り的な使い方をしています。

 

なお、備考類似が審査で考慮されない理由ですが、指定商品・役務をキーに検索することは現状の特許庁のデータベースでは大変なため、審査の正確性よりも審査効率を優先し、特許庁が「文句あるんなら言うてきたったら(情報提供で)考慮してもええで」というスタンスを取っているからだと思います。

ある意味仕方のないことだと思いますが、今後特許庁システムが改善されれば備考類似も考慮されるようになるかもしれません。

 

 

まとめ

  • 他類間類似は、ある区分の商品を指定することで他の区分の商品まで権利範囲に含むことができる
  • 備考類似は、審査では考慮されないが、情報提供などで使うことができる 

「他類間類似」と「備考類似」を使いこなしてさらに、レベルの高い商品・役務の指定の仕方を覚えましょう!

 

4条1項11号の審査基準を実務で役立つところだけまとめたよ~Part3~

 

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4条1項11号の審査基準の第3回目です。

前回までは、結合商標の類否判断についてでした。

今回は1音相違などの音声上の類否を見ていきましょう。

 

8.商標の称呼の類否を称呼に内在する音声上の判断要素及び判断方法のみによって判断するときには、例えば、次の( I )及び( II )のようにするものとする。

 

( I )では、類否判断するときの考え方を示しています。

( II )では、具体的な商標を例示して解説しています。

 

 音声上の類否判断の考え方

( I )商標の称呼類否判断にあたっては、比較される両称呼の音質、音量及び音調並 びに音節に関する判断要素(〔注1〕ないし〔注4〕)のそれぞれにおいて、共 通し、近似するところがあるか否かを比較するとともに両商標が特定の観念のない造語であるか否か(例えば、明らかな観念の違いによってその音調を異にしたり、その称呼に対する注意力が異なることがある。)を考慮し、時と所を異にし て、両商標が称呼され、聴覚されるときに聴者に与える称呼の全体的印象(音感) から、互いに相紛れるおそれがあるか否かによって判断するものとする。

両商標が下記(II)の(1)ないし(8)の基準〔注5〕のいずれかに該当〔注6〕するときは、原則として、〔注7〕称呼上類似するものとする。

ここで、「音」がつく単語がたくさん出てきました・・・これらは何を意味しているのでしょう。下記にまとめました。

  • 音質:母音、子音の質的きまりから生じる音の性質
  • 音量:音の長短 
  • 音調:音の強弱及びアクセントの位置
  • 音節:語の切れ方、分かれ方 
  • 音感:称呼の全体的印象 

 

称呼の音声上の類否判断をざっくりいうと

この項目を端的にいえば、下記のことになります。

 

相違する1音が 

 母音が共通している

 子音が共通している

 長音(ー)の有無である

 長音(ー)促音(ッ)の違いである

 弱音「ん」など)の違いである

 中間音又は語尾音の違いである

ということであれば、類似に近くなります。

また、全体の称呼が少数音(3音以下など)であれば非類似に近くなります。

 

意見書などで非類似であることを主張する場合は、

  • 少数音であること (3音以下など)
  • 相違する1音が語頭であること

が特に有効です。

あとは、併存登録審決例などの証拠をとにかく多くを持ってきて、説得することが多いです。

それでは、一つずつ詳しく見てみましょう。

 

母音・子音が共通しているか(音質)

〔注1〕 音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素としては、

(イ) 相違する音の母音を共通にしているか、母音が近似していか・・・・

(ロ) 相違する音の子音を共通にしているか、子音が近似していか・・・・

等が挙げられる。

・・・(ii)相違す る音が濁音(ガ、ザ、ダ、バ行音)の半濁音(パ行音)、清音(カ、サ、 タ、ハ行音)の違いにすぎないとき等においては、全体の音感が近似して 聴覚されることが多い。 ・・・・

ここは脱字あります

(誤)

「〔注1〕 音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素としては、」 

(正)

「〔注1〕音質(母音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素としては、」

 

ここは脱字がありますので注意してください!特許庁に連絡しておきます!

 

相違する1音が母音または子音が共通している場合は類似に近くなります

特に、相違音が、中間音または語尾音であれば類似と判定されやすいです。語頭音は音の印象に大きな影響を与えますので、母音、子音が共通していても非類似となりやすいです。

しかし、濁点、半濁点、清音の違いであれば音の印象はかなり近くなってきますので、語頭音でも類似と判定されやすいです。

 

※濁点(ガ、ザ、バなど)、半濁点(パピプペポ)、清音(カ、サ、ハなど)

 

下記の具体例は全て類似と判断されます。

母音が共通

「スッパー」  「SKiPPER」(スッパーの称呼)

 

「VANCOCIN 」  「BUNCOMIN

 バンコン」   バンコン」 

 

「ミオン」    「ミオン」

子音が共通

「アス」    「アス

 

「アミン    「ATAMIN 

 A tomin」     アミン」

 

「VULKENE」   「VALCAN」

(バルンの称呼)   (バルンの称呼)

濁点、半濁点、清音の違い

「HETRON」   「PETRON 
(トロンの称呼)  トロン 」

 

「KUREKA    「GLECA 

 レカ」      レカ」

「サンール」  「SANZEEL

          サンール」

 

 

 長音・促音の違いか(音量)

〔注2〕 音量(音の長短)に関する判断要素としては、

(イ) 相違する音がその前母音の長音であるか(長音の有無にすぎないか)

(ロ) 相違する音がその後子音の長音であるか(促音の有無にすぎないか) 等が挙げられる。

 

長音(ー)促音(ッ)の違いだけであれば、その部分は比較的弱く聞こえますので、類似する可能性が上がります。

 

「レマン」    「Léman

          レ マ ン」

 

「コロネト」   「CORONET」

          (コロネトの称呼)

 

「たからと」   「タカラト」

 

 

 弱音の違いか(音調)

〔注3〕 音調(音の強弱及びアクセントの位置)に関する判断要素としては、 

・・・・

(イ) 相違する音がともに弱音(聴覚上、ひびきの弱い音)であるか、弱音の 有無にすぎないか、長音と促音の差にすぎないか(弱音は通常、前音に吸収されて聴覚されにくい。)

(ロ) 相違する音がともに中間又は語尾に位置しているか(中間音、語尾音は比較的弱く聴覚されることが多い。)

(ハ) 語頭若しくは語尾において、共通する音が同一の強音(聴覚上、ひびきの強い音)であるか(これが強音であるときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。)

・・・

「弱音」とは、聴覚上響きの弱い音をいいます。

具体的には「イ」「ウ」「ム」「ン」「フ」「ス」をいいます。

特に語尾の「ス」はかなり弱く発音するので、これだけの有無であれば類似する可能性が高くなります。

また、相違する1音が語頭音の場合は、音の印象の影響が大きいので類似になりにくく中間音又は語尾音の場合は、影響が小さいので類似になりやすいです。

 

「DANNEL」    「DYNEL」
(ダネルの称呼)   (ダネルの称呼) 

「山清       「ヤマセ」

やませ

「VINYLA」     「Binilus」

(ビニラの称呼)    (ビニラの称呼)

 

 

音数が比較的少ないか(音節)

〔注4〕 音節に関する判断要素としては、
(イ) 音節数(音数。仮名文字1字が1音節をなし、拗音は2文字で1音節をなす。長音(符)、促音、撥音もそれぞれ1音節をなす。)の比較において、ともに多数音であるか(1音の相違があっても、音数が比較的多いときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。)

・・・・ 

 音数が全体で3音のときは、1音が相違していれば単純に計算すると33%の違いがありますが、音数が10音のときは、1音相違していても10%の違いしかなく影響は小さいといえます。

少数音の場合は、非類似になりやすく、多数音の場合は類似になりやすいです。

ここで、多数音とは、だいたい6〜8音のことをいいます。

実務上では自分の都合の良いように主張しますので、6音でも音数が多いと言ったり、少ないと言ったりそのときの立場によってコロコロ変わることがあります。

このあたりは、多少矛盾を含みますが、クライアントの要望にあわせてなんとかする仕事の弁理士である限り仕方のないことだと思います。

 

 

商品・役務の類否について 

11.商品の類否を判断するに際しては、次の基準を総合的に考慮するものとする。この場合には、原則として、類似商品・役務審査基準によるものとする。

商品・役務の類否は、原則「類似商品・役務審査基準」に書かれている「類似群コード」によります。審査段階ではこれを覆すのはほぼ不可能です。

ただし、類似群コードは商品・役務の類否を推定するものですので、訴訟などではちょくちょく覆されています。

そうは言っても、類似群コードを常に検証しつつ実務をすることはかなり難しいですので、ある程度信用するしかありません。

審判や訴訟などの裏技として、類似群コードを覆す主張をしましょう。

 

 

まとめ

音声上の類否

 相違する1音が 

  母音が共通しているか

  子音が共通しているか

  長音(ー)の有無か

  長音(ー)促音(ッ)の違いであるか

  弱音「ん」など)の違いか

  中間音又は語尾音の違いか

 全体の称呼が少数音か(3音以下など)

商品・役務の類否

 「類似群コード」で決まる

 

やっと終わった〜〜!!長かった。お疲れ様です。

4条1項11号の審査基準を実務で役立つところだけまとめたよ~Part2~

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前回の記事は商標の類否判断における基礎知識を解説しました。

今回は結合商標の類否判断を解説します。

 

結合商標の称呼の発生方法

6.結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、例えば、次のように判断する ものとする。ただし、著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかなときは、この限りでない。

 

2単語以上の結合商標の類否判断をする場合は、一連一体にのみ称呼するのか、一部の単語も称呼する(要部抽出する)のかを判断する必要があります。

 

典型例としては、商標「A」と商標「A+B」の類否判断をするときに、商標「A+B」の「A」部分のみを抜き出して判断するかどうかなどです。

 

考え方は様々ありますが、識別力の強弱によって結合の強弱が決まることがあります。

商標「A+B」の「A」部分の識別力と、商標「A+B」のB」部分の識別力強弱の組み合わせを考えたときに、商標「A+B」の「A」部分と「B」部分の結合の強弱以下のようになります。(文字にするとややこしい・・・)

 

識別力の強弱   結合の強弱

弱 + 弱 → (分離しない) (例)SUPER GRIP

 + 弱 → 弱(分離する)  (例)レデイグリーン

弱 +  → 弱(分離する)  (例)スーパーライオン

 +  → ケースバイケース

 

片方が識別力が強く、片方が弱い場合は、原則、要部を抜き出して判断します。どちらも識別力が弱い場合は、結合が強くなり要部を抜き出して判断することは少なくなります(平成14年(行ケ)266号東京高裁平成15年1月21日 「SUPER GRIP事件」)。

特に、識別力弱+識別力弱の結合商標は、「一連一体に読むから非類似ですよね!」と意見書などで反論しやすいので重宝します。

 

実務では

結合商標の各単語の識別力を調べ、その強弱で要部を抽出して判断するか考える。

識別力弱+識別力弱の場合は、一連一体に称呼する可能性あり。

 

 

【参考判決】

「リラ宝塚事件」(昭和38年12月5日 最高裁昭和37年(オ)第953号)

原判決が本願商標の構成部分から「宝塚」なる文字の部分だけを抽出し、 これと引用商標「宝塚」とを対照して、本願商標は右引用商標と称呼、観念において類似すると判断したのは、商標類否判定の法則、実験則に違背するものである、 という。

・・・・

いま本件についてこれをみるのに、本願商標は、第四類石鹸を指定商品とするものであるが、古代ギリシヤで用いられていたというリラと称する抱琴の図形と「宝塚」なる文字との結合からなり、しかも、これに「リラタカラズカ」、「LYRATAKARAZUKA」の文字が添記されているのである。従つて、この商標よりリラ宝塚印なる称呼、観念の生ずることは明らかであり、上告人会社の本願商標作成の企図もここにあつたものと推認するのに十分である。

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「SEIKO EYE事件」(平成5年9月10日 最高裁平成3年 (行ツ) 103号)

「SEIKO」の文字と「EYE」の文字の結合から成る審決引用商標が指定商品である眼鏡に使用された場合には、「SEIKO」の部分が取引者、需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それとの対比において、眼鏡と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「EYE」の部分のみからは、具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「SEIKOEYE」全体として若しくは「SEIKO」の部分としてのみ称呼、観念が生じるというべきである。

本願商標

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引用商標

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形容詞的文字(品質表示部分)は識別力が弱い

(1) 形容詞的文字(商品の品質原材料等を表示する文字、又は役務の提供の場所等を表示する文字)を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されてい ない商標と類似する。


(例) 類似する場合
「 スーパーライオン」と「ライオン」
「銀座小判」 と「小 判」
「レデイグリーン」 と「レデイ」

 

ここは、実務上超重要な項目です。

3条1項3号に該当するような品質表示の単語を含む結合商標の場合は、原則としてその部分は識別力が弱く他の部分が要部として抜き出して判断します。

 

では、品質表示とはどのようなものがあったでしょうか。3条1項3号が参考になります。

 

品質表示の例

  • 品質(スーパー、グリーン)
  • 地名(銀座)
  • 原材料
  • 用途
  • 数量

これらのものは原則、識別力が弱いとして判断しましょう。特に原材料などは、商品・役務によって識別力が変わりますので、注意が必要です。

地名については、販売実績がある地域ほど識別力が弱くなってきます。(商品「茶」について「宇治」部分など)

また、英語1文字部分(商標「L-ron」の「L」部分など)は商品の記号として認識されることもあります。

 

実務では

審査・・・品質表示部分は原則識別力なし!と判断する。

審判・・・品質表示部分は原則識別力なし!だが、総合的に判断してくれるので、品質表示部分があっても一連一体として判断してくれることも。

 

文字の大きさが違えば、それぞれから要部抽出

(2) 大小のある文字からなる商標は、原則として、大きさの相違するそれぞれの部分からなる商標と類似する。

(例) 類似する場合

富士白鳥」と「富士」又は「白鳥」

サンムーン」と「サン」又は「ムーン」

 

結合商標が分離しない条件としては、同書同大同間隔があげられます。

 

同書同大同間隔

 同書・・・同じフォント

 同大・・・同じ大きさの文字

 同間隔・・同じ間隔の文字

 

今回は、そのうち、文字の大きさに関するものです。文字の大きさに一体性がないと、それぞれの部分から分離して判断されます。

そのため、例示された商標から下記のような称呼が発生します。

富士白鳥」  → 「フジハクチョウ」「フジ」「ハクチョウ

サンムーン」 → 「サンムーン」「サン」「ムーン

 

実務では

審査では・・・文字の大きさが違えば、原則要部抽出。

審判では・・・文字の大きさが違っても、全体で一体的であるとすれば一連一体に見てくれることも。

 

間隔が著しくあいていれば、それぞれから要部抽出

(3) 著しく離れた文字の部分からなる商標は、原則として、離れたそれぞれの部分のみからなる商標と類似する。

(例) 類似する場合
「鶴亀  万寿」と「鶴亀」又は「万寿」

 

この項目は、文字の間隔に関するものです。結合商標の文字同士が離れていれば、より分離しやすくなります。これは直感的に理解しやすい項目ですね。

そのため、一連一体にしたい場合は空白がないようにするか、空白があってもその間隔をつめるようにします。なお、間隔をつめるのは画像で出願する場合だけにできるテクニックです。

実際に分離されたくないけど、空白を入れたい場合は「もうちょい空白部分を小さくして、文字の間隔つめれませんか?」と提案するこもあります。

なお、標準文字の場合は、空白1文字程度であれば「著しく離れた文字」としては認定されず、その理由で分離されることはほぼありません。

 

 

実務では

審査・・・著しく離れた文字は、それぞれ要部抽出。標準文字の場合は、空白1文字程度であれば「著しく離れた文字」とはならない。

審判・・・同上

 

 

慣用文字部分は識別力弱い

(5) 指定商品又は指定役務について慣用される文字と他の文字とを結合した商標は、 慣用される文字を除いた部分からなる商標と類似する。

(例) 類似する場合
清酒について「男山富士」と「富士」

清酒について「菊正宗」と「菊」

興行場の座席の手配について「プレイガイドシャトル」と「シャトル」

宿泊施設の提供について「黒潮観光ホテル」と「黒潮

 

3条1項 2号に該当するような慣用文字については、識別力が弱いと判断されます

慣用されるか否かは、その業界でなければわからないことも多いですので、結合商標の各文字部分の意味をしっかり調べることが大事です。

 

なお、慣用されている文字に似ていますが、業界でよく使用されている店舗名なども識別力は弱いとされます。(役務「飲食物の提供」における商標「わっしょい」など)

 

周知商標を含む場合は、原則類似する

(6) 指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と 他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表さ れているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする

ただし、その他人の登録商標の部分が既成の語の一部となっているもの等を除 く

(例) 類似する例
テープレコーダについて

SONYLINE」、「SONY LINE」又は「SONY/LINE」と「SONY

化粧品について「ラブロレアル」と「L‘OREAL」「ロレアル

かばん類について「PAOLOGUCCI」と「GUCCI

航空機による輸送について「JALFLOWER」と「JAL

映画の制作について「東宝白梅」と「東宝

 

(例) 類似しない例

金属加工機械器具について「TOSHIHIKO」と「IHI

時計について「アルバイト」と「ALBA/アルバ

遊戯用機械器具について「せがれ」と「セガ

周知商標が含まれる商標は、原則その周知商標と類似します。 通常は、商標「A+B」が一連一体に読める場合は、商標「A」とは非類似になることが多いですが、「A」部分が周知商標の場合は、「B」部分に何が来ても類似と判断する方が安全です。

ただし、「アルバイト」と「アルバ」のように既成語の一部となっているものは除きます。

 

実務では

周知商標が含まれる場合は、類似と判断。

 

 

商号商標はケースバイケース

(7) 商号商標(商号の略称からなる商標を含む。以下同じ。)については、商号の 一部分として通常使用される「株式会社」「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」等の文字が出願に係る商標の要部である文字の語尾又は語頭のいずれかにあるかを問わず、原則として、これらの文字を除外して商標の類否を判断するものとする

 

商標「ABC株式会社」などいわゆる商号商標の取り扱いについて規定しています。通常は「株式会社」部分は識別力がありませんので、商標「ABC株式会社」と商標「ABC」は類似します。審査基準で示されている「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」も同様の取り扱いです。

 

ただし、商号商標でも一連一体にのみ称呼するものもあります!

以前、審査官に尋ねると「商号商標は一連一体に称呼しますよ〜」と審査基準とは異なる謎の運用があることを聞きました

また、「実例で見る 商標審査基準の解説」でも下記のように書かれています。

 

なお、本(7)では、商号商標について普通に使用されている業種を表す「化学工業」「機械産業」「商事」「繊維工業」等については言及していないが、業種を表す文字を含む商号商標の類否判断に当たっては、当該業種に係る商品を指定商品とするものについては、前期「株式会社」等と同様に業種を表す文字を除外して商号商標の類否判断を行う実務例と、名称は常に一体的なものとしてみるべきで、前期「株式会社」等のみの文字を除外して類否判断を行う実務例がみられる。

引用:「実例で見る 商標審査基準の解説 第八版」p310

 

 上記の引用している文章はちょっとわかりにくいですが、

「商号商標の中には一連一体にのみ称呼する場合と、株式会社等を省略する場合とどっちもあるよ」

というようなことが書かれています。

 

商号商標を見た場合は、一連一体に読むかどうかは過去の登録例・審決を見て、特許庁が過去にどのように判断したかを追っていくしかありません

ただし、審査基準で示されている「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」については高確率で省略してもOKです。

 

この項目は審査基準と実際の運用が異なるので、要注意です!

  

実務では

商号商標の場合は、株式会社等の部分が本当に省略するかどうかを併存登録&審決を入念に調べてから類否を判断する!

ただし、審査基準で示されている「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」などは省略してもOK。

 

商標の中の小さい文字も見逃し厳禁!! 

7.(1) 商標の構成部分中識別力のある部分が識別力のない部分に比較して著しく小さ く表示された場合であっても、識別力のある部分から称呼又は観念を生ずるもの とする。

商標の一部にとても小さく文字が書かれていれば、「まあ文字小さいから考えなくても大丈夫かな〜?」と思いがちです。

しかし、例えば、その文字が「SONY」と書かれていればどうでしょうか。小さく書かれていても需要者は「SONYの商品なんだ、これ」と思うでしょう。

 

つまり、文字が小さくてもその部分が要部になり得るということです。

そのため、文字部分が複数あるような図形商標を依頼された場合は、複数ある全ての文字について類否判断をした方が安全です。

 

実務では

どんな小さな文字でも読めれば要部になり得る!ので、その部分も類否判断しよう。

 

 

色彩の部分から称呼・観念が生じる可能性あり

(2) 商標が色彩を有するときは、その部分から称呼又は観念を生ずることがあるものとする。

上記のように審査基準では書いていますが、こんなことで類似になるのは見たことないんですけど・・・
最近、これで拒絶された人っています??

 

 

識別力ない部分でも、そこが周知商標なら原則類似

(3) 商標の要部が、それ自体は自他商品の識別力を有しないものであっても、使用 により識別力を有するに至った場合は、その部分から称呼を生ずるものとする。

例えば、3条2項に該当の商標や地域団体商標などは、もともとは識別力ありませんでしたが、使用したことにより識別力を有することになりました。そのため、その部分は周知商標と同じように取り扱われます。

 

実務では

3条2項該当の商標又は地域団体商標を含む商標は、その周知商標と原則類似

 

まとめ

  • 識別力弱+識別力弱の場合は、一連一体に称呼する可能性
  • 形容詞的文字(品質表示部分)は識別力が弱い
  • 文字の大きさが違えば、それぞれから要部抽出
  • 間隔が著しくあいていれば、それぞれから要部抽出
  • 周知商標を含む場合は、原則類似する
  • 商号商標はケースバイケース
  • 色彩の部分から称呼・観念が生じる可能性あり
  • 識別力ない部分でも、そこが周知商標なら原則類似

今回は商標「A+B」と商標「A」の類否判断について見ていきました。

結構覚えること多いですよねー。実務やっていると、これらのパターンに当たることがありますので、 その時は審査基準を即座に思い出すと精度の高い類否判断ができます!

 

Part3に続く