商標実務のブログ

日々の商標実務で気付いたことを中心に

「審判で通ってるから、審査も通る」の落とし穴

 

 

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はじめに

今回は商標の調査報告書を書く時の落とし穴の話です。僕の失敗談を交えながら、「登録可能性が高い」「拒絶される可能性がある」などと報告するときに気をつけるべきことを解説しています。

 

僕の失敗談

商標調査のときに、ちょっと判断に迷った案件があれば審決を調べにいきますよね。

そのときに、過去の審決で全て登録になっていたらクライアントに何て伝えるでしょうか?

 

「過去の審決でこれだけ通っているから、今回の審査も通りますよ!!」

 

僕は当初そう言っていました。だって、審決で通っているんですよ?審判官が過去に登録と判断したんだから、もちろん審査官も同じように判断しますよね。

 

しますよね・・・?

 

・・・・

 

しかし、どうゆうことでしょう。 

審判でかなり通りやすい案件なのに、拒絶理由がどんどんきます!!
 
これが、「審判で通ってるから、審査も通る」の落とし穴です。
 
この落とし穴の原因を知らなければ、

「審決とは、過去に特許庁が判断した結果であるのに、審査では何で違う判断するんだ!」

「審査官は、もっと審決のこと勉強しろよ!」

と理不尽さを感じることになります。
 
「審判で通ってるから、審査も通る」の何が間違っているのでしょうか。
 
そもそも、審決とは何かということから、審査、審判の関係を下記の図で見ていきましょう。

 

審決の正体

 

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上記の図は、審査のパターンを4つに分けて示しています。

  1. 一発登録査定
  2. 拒絶理由が通知される
  3. 拒絶査定になったあと、登録審決
  4. 拒絶査定になったあと、拒絶審決

上記の図を見てもらえば、一発でわかると思いますが、審決例はあくまでも「審判官」がOK・NGと判断したものです。
審判官がOK・NGと判断したということは、「審査官」は全てNG(拒絶査定)と判断したということともいえます。

 

つまり、審決例の案件は全て拒絶査定になっていたんです!


審判で争われている案件は、審査官にとっては、パッと見た瞬間「拒絶してぇなー・・・」と思われがちな案件であるということです。
拒絶査定にならなくても、少なくとも拒絶理由は通知される可能性があると判断すべきです。

そのため、似たような審決例が多数見つかった案件については、調査報告書では、

  • 拒絶理由が通知される可能性がある。
  • その際、意見書にて反論できる可能性はある。
  • また、反論できない場合は、審判では認められる可能性がある。

などと、拒絶理由が通知される可能性があると報告しましょう。

決して「登録可能性が高い」と報告してはいけません。

「登録可能性が高い」と報告すると、通常「(拒絶理由が通知されずに一発で)登録査定になる」と認識されることがあるからです。

 

審決例を勉強するとはどういうことか

「審決例」を勉強するということは、「審判の傾向」を知るということです。
審査の傾向」を知るということではありません。

「審査の傾向」を知りたければ、「審査例」を勉強する必要があります。

つまり、どういう商標に対して拒絶理由が通知されたかを調べなければなりません。

 

 

審査例の勉強の仕方

審査例を調べることは、通常大変です。

商標の場合、特許と違ってJ-PlatPatから拒絶理由通知などの包袋は見る事はできません。

見る事はできるのは、拒絶理由の条文番号だけです(4条1項11号など)。

また、拒絶査定が確定したものは検索対象から外されますので、過去に拒絶査定が確定した案件は有料のデータベース等を使わないと見る事ができません。

 

そういった状況で、審査例を勉強する方法は下記のものが考えられます。

  • たくさん商標案件をこなす
  • 包袋を取得して、拒絶理由通知をひたすら見る
  • 審決例を見て、全て拒絶査定の案件として勉強する

この中では、商標案件をたくさんこなすことが一番の勉強方法だと思います。実践に勝る勉強方法は今のところない気がします。

 

まとめ

審決例の案件は全て拒絶査定!!

なので、過去に審判で通っても審査で通るとは限らない!

 

 

 

 

 

■番外編 ~審査例を勉強するためのチャレンジ~

商標案件をたくさんこなすことが、審査傾向をつかむ上で最も有効だと思いますが、最初のうちは案件をたくさんまわしてもらえなかったり、依頼が思ったよりこなかったりで経験を積むことが難しい場合もあると思います。

 

そこで、こんな企画をやってみようかと思っています!

 

「審査結果を予想しよう!審査100本ノック!!」

 

今出願されている商標を100コ選んでFA(登録査定か拒絶理由通知か)を当てるゲームです。

 

【ルール1】商標100件の審査をする

【ルール2】登録査定or拒絶理由通知を当てる

【ルール3】拒絶理由通知の場合は、条文番号も当てる

【ルール4】制限時間は3時間とする

【ルール5】類似群コードが全部で20を超えるものは除外してもOK(J-PlatPatで一度に検索できないので)

【ルール6】図形商標は除外する

 

正答率は7~8割いけたらいいですね~。

 

もし、この方法が商標調査の能力を上げる方法として有効であれば、今後もガンガンやっていきたいですね。

あと、事前に簡単なシステム作っておいて、極力調査を自動化していきます。

1件当たり約2分で判断しなければなりませんので、識別力調査で1分、類否判断で1分で頑張ります。

区分を飛び越える!?「他類間類似」「備考類似」を使いこなそう!

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商品・役務の類否判断をするとき、通常、商品・役務の区分が異なれば、非類似になることがほとんどです。しかし、区分を飛び越えて、商品・役務が類似することがあります

 

類似群コードは同じだが、区分が異なる場合を「他類間類似」といいます。

類似群コードが異なるが、個別的に商品・役務が類似するとした場合を「備考類似」といいます。

この記事では、「他類間類似」「備考類似」が実務上どのように役に立つのかを見ていきます。

 

事例

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クライアント「今度、バスケットボールチームのTーシャツを発売することになったんで、そのチームのロゴで商標取りたいと思ってるんですよ〜」

 

クライアント「 そして、将来的には、チームロゴがついたバスケットボールも販売したいなと思っているんですよ〜」

 

僕「じゃあ、25類「ティーシャツ」と28類「バスケットボール」の2区分が必要ですね!」

 

クライアント「いやいや、今回は予算なくて1区分しか無理なんですよ〜。25類を優先してください。でも28類を他社に取られるのも嫌なんですよ〜。なんとかいい感じにお願いしますよ〜。」

 

僕「・・・・」


と、いうようなワガママを言われることは結構あります。

このような場合は、「無理っス!」と突っぱねることもできますが、

「他類間類似」というテクニックを知っていれば、クライアントの要望を少し汲み取れることができます。

 

他類間類似とは

商標法2条6項

この法律において、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする。

商標法6条3項

前項の商品及び役務の区分は、商品又は役務の類似の範囲を定めるものではない。

 「他類間類似」とは、商品・役務の類否において、区分が異なるにもかかわらず商品・役務が類似することをいいます。

区分は異なるが、類似群コードが同じときに「これは他類間類似だね〜」と言ったりします。

 

例えば、以下のようなものがあります。

類似群コード 19B33 

上記の商品は全て類似群コード19B33が付されています

ペットの服やペットのおもちゃなどはそれぞれ異なる区分ですが、どれも愛玩動物用(ペット製品)の商品ということで類似と推定されています。

上記の商品はいずれも他類間類似の関係にあるといえます。

 

そのため、第18類「愛玩動物用被服類」(19B33)を指定すれば、もれなく、

第20類 愛玩動物用ベッド 犬小屋 小鳥用巣箱←19B33
第21類 愛玩動物用食器 愛玩動物用ブラシ 小鳥かご 小鳥用水盤←19B33
第28類 愛玩動物用おもちゃ←19B33

まで、先願を確保することができます!

(厳密にいうと、後願の他社が類似商標を出願したときに、商標類似&商品類似としてその出願は拒絶される)

 

この他類間類似を使えば、ある区分の1つの商品しか指定していないのに、他の区分の重要な商品まで権利範囲に含むことができるのです!

 

なお、その他の他類間類似の関係は、「類似商品・役務審査基準」の「他類間類似商品・役務一覧表 」で見ることができます。

【参考URL】他類間類似商品・役務一覧表

https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/ruiji_kijun10-2016/all.pdf#page=255

 

先ほどの事例

クライアント「今回は予算なくて25類の1区分しか無理なんですよ〜。でも28類「バスケットボール」を他社に取られるのも嫌なんですよ〜。なんとかいい感じにお願いしますよ〜。」

 

僕「では25類「運動用特殊衣服」(類似群コード:24C01・24C04 )もあわせて指定しておきますので、これが登録されれば28類「バスケットボール」(類似群コード:24C01)が他社に取られることはないはずです。

しかし、不使用取消審判がありますので3年以内には28類「バスケットボール」の出願をしておいた方がいいですよ!

 

クライアント「了解で〜っす!」

 

 

上記のように25類「運動用特殊衣服」を指定することにより類似群コード24C01の先願を確保することができました。そのため、28類「バスケットボール」(類似群コード:24C01)が他社に取られるというリスクがなくなりました。

 

こうして、25類の1区分しか指定しないのに、将来権利が欲しくなるであろう28類「バスケットボール」を他社に取られないようにしたいというクライアントの要望を汲み取ることができました。

 

ただし、注意事項は、そうして指定した商品(事例では「運動用特殊衣服」)は使用しない場合がほとんどのため、不使用取消審判で取り消される可能性があります。そのため、必ず何年か後には本当に欲しい商品(事例では「バスケットボール」)を出願するようにクライアントに言っておきましょう。

最初は予算が取れなくても、事業が拡大してきたらポンポン予算が出ることがありますので、その時はこちらから積極的に提案していきましょう。

 

また、他類間類似と似たようなものに、備考類似というようなものがあります

 

備考類似とは

「備考類似」とは、「類似商品・役務審査基準」において、(備考)という項目で他の類似商品・役務を掲げ「〇〇は△△と類似と推定する」と表記されたものをいいます。

 

例えば、「電子出版物」と「電子出版物の提供」の関係があります。

  • 9類「電子出版物」(類似群コード:26A01・26D01 )
  • 41類「電子出版物の提供」(類似群コード:41C02)

これらは類似群コードが共通していないため、通常は非類似であると思われます。

しかし、「類似商品・役務審査基準」の(備考)の欄には、

(備考)「電子出版物」は、第41類「電子出版物の提供」に類似と推定する。

と、ありますので、例外的に 「電子出版物」と「電子出版物の提供」は類似と推定されます。

 

備考類似の弱点

備考類似は他類間類似と同じような使い方ができると思われますが、実は、「備考類似」は、審査では原則考慮されません

そのため、備考類似でもって、他類間類似のように審査段階で他社の登録を排除することは難しいのが現状です。 

しかし、「情報提供 」「異議申立」「無効審判」において、奥の手として他社の出願を拒絶、登録を取消・無効にすることができるメリットがあります!

 

例えば、9類「電子出版物」を指定しておけば、他社が41類「電子出版物の提供」を指定して出願したときには、情報提供などで拒絶にさせることができます。

情報提供や無効審判などは費用がかかるので、あまり多くは依頼されませんが、万が一本当にやばい出願があった場合は、このように備考類似が役に立つときがあります。

 

僕は、このように備考類似は何かあった時のお守り的な使い方をしています。

 

なお、備考類似が審査で考慮されない理由ですが、指定商品・役務をキーに検索することは現状の特許庁のデータベースでは大変なため、審査の正確性よりも審査効率を優先し、特許庁が「文句あるんなら言うてきたったら(情報提供で)考慮してもええで」というスタンスを取っているからだと思います。

ある意味仕方のないことだと思いますが、今後特許庁システムが改善されれば備考類似も考慮されるようになるかもしれません。

 

 

まとめ

  • 他類間類似は、ある区分の商品を指定することで他の区分の商品まで権利範囲に含むことができる
  • 備考類似は、審査では考慮されないが、情報提供などで使うことができる 

「他類間類似」と「備考類似」を使いこなしてさらに、レベルの高い商品・役務の指定の仕方を覚えましょう!

 

4条1項11号の審査基準を実務で役立つところだけまとめたよ~Part3~

 

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4条1項11号の審査基準の第3回目です。

前回までは、結合商標の類否判断についてでした。

今回は1音相違などの音声上の類否を見ていきましょう。

 

8.商標の称呼の類否を称呼に内在する音声上の判断要素及び判断方法のみによって判断するときには、例えば、次の( I )及び( II )のようにするものとする。

 

( I )では、類否判断するときの考え方を示しています。

( II )では、具体的な商標を例示して解説しています。

 

 音声上の類否判断の考え方

( I )商標の称呼類否判断にあたっては、比較される両称呼の音質、音量及び音調並 びに音節に関する判断要素(〔注1〕ないし〔注4〕)のそれぞれにおいて、共 通し、近似するところがあるか否かを比較するとともに両商標が特定の観念のない造語であるか否か(例えば、明らかな観念の違いによってその音調を異にしたり、その称呼に対する注意力が異なることがある。)を考慮し、時と所を異にし て、両商標が称呼され、聴覚されるときに聴者に与える称呼の全体的印象(音感) から、互いに相紛れるおそれがあるか否かによって判断するものとする。

両商標が下記(II)の(1)ないし(8)の基準〔注5〕のいずれかに該当〔注6〕するときは、原則として、〔注7〕称呼上類似するものとする。

ここで、「音」がつく単語がたくさん出てきました・・・これらは何を意味しているのでしょう。下記にまとめました。

  • 音質:母音、子音の質的きまりから生じる音の性質
  • 音量:音の長短 
  • 音調:音の強弱及びアクセントの位置
  • 音節:語の切れ方、分かれ方 
  • 音感:称呼の全体的印象 

 

称呼の音声上の類否判断をざっくりいうと

この項目を端的にいえば、下記のことになります。

 

相違する1音が 

 母音が共通している

 子音が共通している

 長音(ー)の有無である

 長音(ー)促音(ッ)の違いである

 弱音「ん」など)の違いである

 中間音又は語尾音の違いである

ということであれば、類似に近くなります。

また、全体の称呼が少数音(3音以下など)であれば非類似に近くなります。

 

意見書などで非類似であることを主張する場合は、

  • 少数音であること (3音以下など)
  • 相違する1音が語頭であること

が特に有効です。

あとは、併存登録審決例などの証拠をとにかく多くを持ってきて、説得することが多いです。

それでは、一つずつ詳しく見てみましょう。

 

母音・子音が共通しているか(音質)

〔注1〕 音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素としては、

(イ) 相違する音の母音を共通にしているか、母音が近似していか・・・・

(ロ) 相違する音の子音を共通にしているか、子音が近似していか・・・・

等が挙げられる。

・・・(ii)相違す る音が濁音(ガ、ザ、ダ、バ行音)の半濁音(パ行音)、清音(カ、サ、 タ、ハ行音)の違いにすぎないとき等においては、全体の音感が近似して 聴覚されることが多い。 ・・・・

ここは脱字あります

(誤)

「〔注1〕 音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素としては、」 

(正)

「〔注1〕音質(母音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素としては、」

 

ここは脱字がありますので注意してください!特許庁に連絡しておきます!

 

相違する1音が母音または子音が共通している場合は類似に近くなります

特に、相違音が、中間音または語尾音であれば類似と判定されやすいです。語頭音は音の印象に大きな影響を与えますので、母音、子音が共通していても非類似となりやすいです。

しかし、濁点、半濁点、清音の違いであれば音の印象はかなり近くなってきますので、語頭音でも類似と判定されやすいです。

 

※濁点(ガ、ザ、バなど)、半濁点(パピプペポ)、清音(カ、サ、ハなど)

 

下記の具体例は全て類似と判断されます。

母音が共通

「スッパー」  「SKiPPER」(スッパーの称呼)

 

「VANCOCIN 」  「BUNCOMIN

 バンコン」   バンコン」 

 

「ミオン」    「ミオン」

子音が共通

「アス」    「アス

 

「アミン    「ATAMIN 

 A tomin」     アミン」

 

「VULKENE」   「VALCAN」

(バルンの称呼)   (バルンの称呼)

濁点、半濁点、清音の違い

「HETRON」   「PETRON 
(トロンの称呼)  トロン 」

 

「KUREKA    「GLECA 

 レカ」      レカ」

「サンール」  「SANZEEL

          サンール」

 

 

 長音・促音の違いか(音量)

〔注2〕 音量(音の長短)に関する判断要素としては、

(イ) 相違する音がその前母音の長音であるか(長音の有無にすぎないか)

(ロ) 相違する音がその後子音の長音であるか(促音の有無にすぎないか) 等が挙げられる。

 

長音(ー)促音(ッ)の違いだけであれば、その部分は比較的弱く聞こえますので、類似する可能性が上がります。

 

「レマン」    「Léman

          レ マ ン」

 

「コロネト」   「CORONET」

          (コロネトの称呼)

 

「たからと」   「タカラト」

 

 

 弱音の違いか(音調)

〔注3〕 音調(音の強弱及びアクセントの位置)に関する判断要素としては、 

・・・・

(イ) 相違する音がともに弱音(聴覚上、ひびきの弱い音)であるか、弱音の 有無にすぎないか、長音と促音の差にすぎないか(弱音は通常、前音に吸収されて聴覚されにくい。)

(ロ) 相違する音がともに中間又は語尾に位置しているか(中間音、語尾音は比較的弱く聴覚されることが多い。)

(ハ) 語頭若しくは語尾において、共通する音が同一の強音(聴覚上、ひびきの強い音)であるか(これが強音であるときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。)

・・・

「弱音」とは、聴覚上響きの弱い音をいいます。

具体的には「イ」「ウ」「ム」「ン」「フ」「ス」をいいます。

特に語尾の「ス」はかなり弱く発音するので、これだけの有無であれば類似する可能性が高くなります。

また、相違する1音が語頭音の場合は、音の印象の影響が大きいので類似になりにくく中間音又は語尾音の場合は、影響が小さいので類似になりやすいです。

 

「DANNEL」    「DYNEL」
(ダネルの称呼)   (ダネルの称呼) 

「山清       「ヤマセ」

やませ

「VINYLA」     「Binilus」

(ビニラの称呼)    (ビニラの称呼)

 

 

音数が比較的少ないか(音節)

〔注4〕 音節に関する判断要素としては、
(イ) 音節数(音数。仮名文字1字が1音節をなし、拗音は2文字で1音節をなす。長音(符)、促音、撥音もそれぞれ1音節をなす。)の比較において、ともに多数音であるか(1音の相違があっても、音数が比較的多いときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。)

・・・・ 

 音数が全体で3音のときは、1音が相違していれば単純に計算すると33%の違いがありますが、音数が10音のときは、1音相違していても10%の違いしかなく影響は小さいといえます。

少数音の場合は、非類似になりやすく、多数音の場合は類似になりやすいです。

ここで、多数音とは、だいたい6〜8音のことをいいます。

実務上では自分の都合の良いように主張しますので、6音でも音数が多いと言ったり、少ないと言ったりそのときの立場によってコロコロ変わることがあります。

このあたりは、多少矛盾を含みますが、クライアントの要望にあわせてなんとかする仕事の弁理士である限り仕方のないことだと思います。

 

 

商品・役務の類否について 

11.商品の類否を判断するに際しては、次の基準を総合的に考慮するものとする。この場合には、原則として、類似商品・役務審査基準によるものとする。

商品・役務の類否は、原則「類似商品・役務審査基準」に書かれている「類似群コード」によります。審査段階ではこれを覆すのはほぼ不可能です。

ただし、類似群コードは商品・役務の類否を推定するものですので、訴訟などではちょくちょく覆されています。

そうは言っても、類似群コードを常に検証しつつ実務をすることはかなり難しいですので、ある程度信用するしかありません。

審判や訴訟などの裏技として、類似群コードを覆す主張をしましょう。

 

 

まとめ

音声上の類否

 相違する1音が 

  母音が共通しているか

  子音が共通しているか

  長音(ー)の有無か

  長音(ー)促音(ッ)の違いであるか

  弱音「ん」など)の違いか

  中間音又は語尾音の違いか

 全体の称呼が少数音か(3音以下など)

商品・役務の類否

 「類似群コード」で決まる

 

やっと終わった〜〜!!長かった。お疲れ様です。

4条1項11号の審査基準を実務で役立つところだけまとめたよ~Part2~

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前回の記事は商標の類否判断における基礎知識を解説しました。

今回は結合商標の類否判断を解説します。

 

結合商標の称呼の発生方法

6.結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、例えば、次のように判断する ものとする。ただし、著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかなときは、この限りでない。

 

2単語以上の結合商標の類否判断をする場合は、一連一体にのみ称呼するのか、一部の単語も称呼する(要部抽出する)のかを判断する必要があります。

 

典型例としては、商標「A」と商標「A+B」の類否判断をするときに、商標「A+B」の「A」部分のみを抜き出して判断するかどうかなどです。

 

考え方は様々ありますが、識別力の強弱によって結合の強弱が決まることがあります。

商標「A+B」の「A」部分の識別力と、商標「A+B」のB」部分の識別力強弱の組み合わせを考えたときに、商標「A+B」の「A」部分と「B」部分の結合の強弱以下のようになります。(文字にするとややこしい・・・)

 

識別力の強弱   結合の強弱

弱 + 弱 → (分離しない) (例)SUPER GRIP

 + 弱 → 弱(分離する)  (例)レデイグリーン

弱 +  → 弱(分離する)  (例)スーパーライオン

 +  → ケースバイケース

 

片方が識別力が強く、片方が弱い場合は、原則、要部を抜き出して判断します。どちらも識別力が弱い場合は、結合が強くなり要部を抜き出して判断することは少なくなります(平成14年(行ケ)266号東京高裁平成15年1月21日 「SUPER GRIP事件」)。

特に、識別力弱+識別力弱の結合商標は、「一連一体に読むから非類似ですよね!」と意見書などで反論しやすいので重宝します。

 

実務では

結合商標の各単語の識別力を調べ、その強弱で要部を抽出して判断するか考える。

識別力弱+識別力弱の場合は、一連一体に称呼する可能性あり。

 

 

【参考判決】

「リラ宝塚事件」(昭和38年12月5日 最高裁昭和37年(オ)第953号)

原判決が本願商標の構成部分から「宝塚」なる文字の部分だけを抽出し、 これと引用商標「宝塚」とを対照して、本願商標は右引用商標と称呼、観念において類似すると判断したのは、商標類否判定の法則、実験則に違背するものである、 という。

・・・・

いま本件についてこれをみるのに、本願商標は、第四類石鹸を指定商品とするものであるが、古代ギリシヤで用いられていたというリラと称する抱琴の図形と「宝塚」なる文字との結合からなり、しかも、これに「リラタカラズカ」、「LYRATAKARAZUKA」の文字が添記されているのである。従つて、この商標よりリラ宝塚印なる称呼、観念の生ずることは明らかであり、上告人会社の本願商標作成の企図もここにあつたものと推認するのに十分である。

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「SEIKO EYE事件」(平成5年9月10日 最高裁平成3年 (行ツ) 103号)

「SEIKO」の文字と「EYE」の文字の結合から成る審決引用商標が指定商品である眼鏡に使用された場合には、「SEIKO」の部分が取引者、需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それとの対比において、眼鏡と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「EYE」の部分のみからは、具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「SEIKOEYE」全体として若しくは「SEIKO」の部分としてのみ称呼、観念が生じるというべきである。

本願商標

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引用商標

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形容詞的文字(品質表示部分)は識別力が弱い

(1) 形容詞的文字(商品の品質原材料等を表示する文字、又は役務の提供の場所等を表示する文字)を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されてい ない商標と類似する。


(例) 類似する場合
「 スーパーライオン」と「ライオン」
「銀座小判」 と「小 判」
「レデイグリーン」 と「レデイ」

 

ここは、実務上超重要な項目です。

3条1項3号に該当するような品質表示の単語を含む結合商標の場合は、原則としてその部分は識別力が弱く他の部分が要部として抜き出して判断します。

 

では、品質表示とはどのようなものがあったでしょうか。3条1項3号が参考になります。

 

品質表示の例

  • 品質(スーパー、グリーン)
  • 地名(銀座)
  • 原材料
  • 用途
  • 数量

これらのものは原則、識別力が弱いとして判断しましょう。特に原材料などは、商品・役務によって識別力が変わりますので、注意が必要です。

地名については、販売実績がある地域ほど識別力が弱くなってきます。(商品「茶」について「宇治」部分など)

また、英語1文字部分(商標「L-ron」の「L」部分など)は商品の記号として認識されることもあります。

 

実務では

審査・・・品質表示部分は原則識別力なし!と判断する。

審判・・・品質表示部分は原則識別力なし!だが、総合的に判断してくれるので、品質表示部分があっても一連一体として判断してくれることも。

 

文字の大きさが違えば、それぞれから要部抽出

(2) 大小のある文字からなる商標は、原則として、大きさの相違するそれぞれの部分からなる商標と類似する。

(例) 類似する場合

富士白鳥」と「富士」又は「白鳥」

サンムーン」と「サン」又は「ムーン」

 

結合商標が分離しない条件としては、同書同大同間隔があげられます。

 

同書同大同間隔

 同書・・・同じフォント

 同大・・・同じ大きさの文字

 同間隔・・同じ間隔の文字

 

今回は、そのうち、文字の大きさに関するものです。文字の大きさに一体性がないと、それぞれの部分から分離して判断されます。

そのため、例示された商標から下記のような称呼が発生します。

富士白鳥」  → 「フジハクチョウ」「フジ」「ハクチョウ

サンムーン」 → 「サンムーン」「サン」「ムーン

 

実務では

審査では・・・文字の大きさが違えば、原則要部抽出。

審判では・・・文字の大きさが違っても、全体で一体的であるとすれば一連一体に見てくれることも。

 

間隔が著しくあいていれば、それぞれから要部抽出

(3) 著しく離れた文字の部分からなる商標は、原則として、離れたそれぞれの部分のみからなる商標と類似する。

(例) 類似する場合
「鶴亀  万寿」と「鶴亀」又は「万寿」

 

この項目は、文字の間隔に関するものです。結合商標の文字同士が離れていれば、より分離しやすくなります。これは直感的に理解しやすい項目ですね。

そのため、一連一体にしたい場合は空白がないようにするか、空白があってもその間隔をつめるようにします。なお、間隔をつめるのは画像で出願する場合だけにできるテクニックです。

実際に分離されたくないけど、空白を入れたい場合は「もうちょい空白部分を小さくして、文字の間隔つめれませんか?」と提案するこもあります。

なお、標準文字の場合は、空白1文字程度であれば「著しく離れた文字」としては認定されず、その理由で分離されることはほぼありません。

 

 

実務では

審査・・・著しく離れた文字は、それぞれ要部抽出。標準文字の場合は、空白1文字程度であれば「著しく離れた文字」とはならない。

審判・・・同上

 

 

慣用文字部分は識別力弱い

(5) 指定商品又は指定役務について慣用される文字と他の文字とを結合した商標は、 慣用される文字を除いた部分からなる商標と類似する。

(例) 類似する場合
清酒について「男山富士」と「富士」

清酒について「菊正宗」と「菊」

興行場の座席の手配について「プレイガイドシャトル」と「シャトル」

宿泊施設の提供について「黒潮観光ホテル」と「黒潮

 

3条1項 2号に該当するような慣用文字については、識別力が弱いと判断されます

慣用されるか否かは、その業界でなければわからないことも多いですので、結合商標の各文字部分の意味をしっかり調べることが大事です。

 

なお、慣用されている文字に似ていますが、業界でよく使用されている店舗名なども識別力は弱いとされます。(役務「飲食物の提供」における商標「わっしょい」など)

 

周知商標を含む場合は、原則類似する

(6) 指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と 他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表さ れているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする

ただし、その他人の登録商標の部分が既成の語の一部となっているもの等を除 く

(例) 類似する例
テープレコーダについて

SONYLINE」、「SONY LINE」又は「SONY/LINE」と「SONY

化粧品について「ラブロレアル」と「L‘OREAL」「ロレアル

かばん類について「PAOLOGUCCI」と「GUCCI

航空機による輸送について「JALFLOWER」と「JAL

映画の制作について「東宝白梅」と「東宝

 

(例) 類似しない例

金属加工機械器具について「TOSHIHIKO」と「IHI

時計について「アルバイト」と「ALBA/アルバ

遊戯用機械器具について「せがれ」と「セガ

周知商標が含まれる商標は、原則その周知商標と類似します。 通常は、商標「A+B」が一連一体に読める場合は、商標「A」とは非類似になることが多いですが、「A」部分が周知商標の場合は、「B」部分に何が来ても類似と判断する方が安全です。

ただし、「アルバイト」と「アルバ」のように既成語の一部となっているものは除きます。

 

実務では

周知商標が含まれる場合は、類似と判断。

 

 

商号商標はケースバイケース

(7) 商号商標(商号の略称からなる商標を含む。以下同じ。)については、商号の 一部分として通常使用される「株式会社」「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」等の文字が出願に係る商標の要部である文字の語尾又は語頭のいずれかにあるかを問わず、原則として、これらの文字を除外して商標の類否を判断するものとする

 

商標「ABC株式会社」などいわゆる商号商標の取り扱いについて規定しています。通常は「株式会社」部分は識別力がありませんので、商標「ABC株式会社」と商標「ABC」は類似します。審査基準で示されている「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」も同様の取り扱いです。

 

ただし、商号商標でも一連一体にのみ称呼するものもあります!

以前、審査官に尋ねると「商号商標は一連一体に称呼しますよ〜」と審査基準とは異なる謎の運用があることを聞きました

また、「実例で見る 商標審査基準の解説」でも下記のように書かれています。

 

なお、本(7)では、商号商標について普通に使用されている業種を表す「化学工業」「機械産業」「商事」「繊維工業」等については言及していないが、業種を表す文字を含む商号商標の類否判断に当たっては、当該業種に係る商品を指定商品とするものについては、前期「株式会社」等と同様に業種を表す文字を除外して商号商標の類否判断を行う実務例と、名称は常に一体的なものとしてみるべきで、前期「株式会社」等のみの文字を除外して類否判断を行う実務例がみられる。

引用:「実例で見る 商標審査基準の解説 第八版」p310

 

 上記の引用している文章はちょっとわかりにくいですが、

「商号商標の中には一連一体にのみ称呼する場合と、株式会社等を省略する場合とどっちもあるよ」

というようなことが書かれています。

 

商号商標を見た場合は、一連一体に読むかどうかは過去の登録例・審決を見て、特許庁が過去にどのように判断したかを追っていくしかありません

ただし、審査基準で示されている「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」については高確率で省略してもOKです。

 

この項目は審査基準と実際の運用が異なるので、要注意です!

  

実務では

商号商標の場合は、株式会社等の部分が本当に省略するかどうかを併存登録&審決を入念に調べてから類否を判断する!

ただし、審査基準で示されている「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」などは省略してもOK。

 

商標の中の小さい文字も見逃し厳禁!! 

7.(1) 商標の構成部分中識別力のある部分が識別力のない部分に比較して著しく小さ く表示された場合であっても、識別力のある部分から称呼又は観念を生ずるもの とする。

商標の一部にとても小さく文字が書かれていれば、「まあ文字小さいから考えなくても大丈夫かな〜?」と思いがちです。

しかし、例えば、その文字が「SONY」と書かれていればどうでしょうか。小さく書かれていても需要者は「SONYの商品なんだ、これ」と思うでしょう。

 

つまり、文字が小さくてもその部分が要部になり得るということです。

そのため、文字部分が複数あるような図形商標を依頼された場合は、複数ある全ての文字について類否判断をした方が安全です。

 

実務では

どんな小さな文字でも読めれば要部になり得る!ので、その部分も類否判断しよう。

 

 

色彩の部分から称呼・観念が生じる可能性あり

(2) 商標が色彩を有するときは、その部分から称呼又は観念を生ずることがあるものとする。

上記のように審査基準では書いていますが、こんなことで類似になるのは見たことないんですけど・・・
最近、これで拒絶された人っています??

 

 

識別力ない部分でも、そこが周知商標なら原則類似

(3) 商標の要部が、それ自体は自他商品の識別力を有しないものであっても、使用 により識別力を有するに至った場合は、その部分から称呼を生ずるものとする。

例えば、3条2項に該当の商標や地域団体商標などは、もともとは識別力ありませんでしたが、使用したことにより識別力を有することになりました。そのため、その部分は周知商標と同じように取り扱われます。

 

実務では

3条2項該当の商標又は地域団体商標を含む商標は、その周知商標と原則類似

 

まとめ

  • 識別力弱+識別力弱の場合は、一連一体に称呼する可能性
  • 形容詞的文字(品質表示部分)は識別力が弱い
  • 文字の大きさが違えば、それぞれから要部抽出
  • 間隔が著しくあいていれば、それぞれから要部抽出
  • 周知商標を含む場合は、原則類似する
  • 商号商標はケースバイケース
  • 色彩の部分から称呼・観念が生じる可能性あり
  • 識別力ない部分でも、そこが周知商標なら原則類似

今回は商標「A+B」と商標「A」の類否判断について見ていきました。

結構覚えること多いですよねー。実務やっていると、これらのパターンに当たることがありますので、 その時は審査基準を即座に思い出すと精度の高い類否判断ができます!

 

Part3に続く

4条1項11号の審査基準を実務で役立つところだけまとめたよ~Part1~

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はじめに

【4条1項11号】

当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する 商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十 八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。 以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

 

4条1項11号は、商標の拒絶理由通知の中で頻出する最重要の条文です。

この記事では、類否判断をするにあたって、審査基準4条1項11号の実務上役に立つところだけをピックアップして解説しています。

感覚ではなく、できるだけ審査基準の根拠をもって判断できるようになれば、審査官との意見の相違が少なくなり、より精度の高い判断ができるようになります。

 

資料

  • 商標審査基準
  • 実例で見る商標審査基準の解説 第8版

「実例で見る商標審査基準の解説 第8版」(2015年9月発売)を参考にして解説していきます。

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商標の審査基準を勉強するにはこの本が最もオススメです。

新しいタイプの商標については、まだまだ事例や資料が少ないため今回は割愛します。


4条1項11号の審査基準の全体的の流れ

まずは、4条1項11号の審査基準のざっくりした流れを確認しましょう。


はじめに類否判断の基本的な考え方を学びます。その後、結合商標の類否、一音相違など音声上の類否について触れており、後半は、商品・役務の類否について触れています。

  • 類否判断の基本的な考え方
  • 称呼の発生の判断(AとA+Bの類否など)
  • 音声上の相違する場合の類否判断(1音相違など)
  • 商品・役務の類否判断
  • 新しいタイプの商標の類否判断(今回は割愛)

それでは一つずつ見ていきましょう。

 

類否判断の基本的な考え

まずは、類否判断についての基本的な考えを見ていきます。

 

外観・称呼・観念を総合的に観察する

1.商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない。

引用:商標審査基準


商標の類否判断は、原則、外観・称呼・観念で総合的に観察します。
「総合的に」とありますので、外観・称呼・観念の中から一つだけを見て類似かどうかは判断してはいけません。あくまでも全ての要素を検討した後に「総合的に」結論を出すことが必要です。

しかし、現在の審査ではこれは建前になりつつあります。つまり、称呼を最重視しており、外観と觀念がどれだけ非類似であっても、称呼が類似なら商標全体で類似と判断されがちです。称呼だけであれば、より簡単な判断基準で済むので審査官もぱっぱと処理しやすいのでしょうか。

審判になると商標全体を総合的に観察して判断されます。そのため、審判では、称呼同一のものであっても非類似と判断される場合があります。

 

【参考判例

この考えで有名な判例氷山印事件です。

【昭和43年2月27日最高裁昭和39年(行ツ)第110号】

商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標 がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。  

 

実務上のポイント

審査では・・・称呼重視。外観と觀念がどれだけ非類似でも、称呼が類似なら商標全体で類似と判断されがち。
審判では・・・総合的に観察。称呼同一のものであっても非類似と判断される場合がある。

 

需要者の立場で考える

2.商標の類否の判断は、商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層(例えば、 専門家、老人、子供、婦人等の違い)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。

 

次に、類否判断するときには誰の立場になって判断するのかを考えます。
類否判断は「需要者の立場」で考えます。


商品又は役務の主たる需要者層を考慮する

商標法には「需要者の利益を保護する」という趣旨があります。そのため、必ずその「需要者は誰か」という基本に立ち戻って考えることが重要です。
「需要者は誰か」とは、ある特定の業界の需要者はどのような性質があり、どのような考え方をするのかを検討する必要があるということです。

 

例えば、アパレル業界の人は、英語以外にもフランス語も日常的に触れています。フランス語は日本人にとってオシャレに感じますし、アパレルブランドの名前によくフランス語が使われていますよね。

そのため、アパレル業界の人はローマ字を見たときは英語以外にもフランス語読みもしやすいと思われます。
そうすると、25類「被服」を指定したときは、商標が「VENT VERT」であれば、フランス語読みである「バンベール」の称呼が発生します(平成11年6月1日 東京高平成10年(行ケ)第163号 )。なお、英語読みの「ベントバート」も発生する可能性はあります。

同じように、商標「BARREAUX」はフランス語読み「バロー」と読めると認定されます。(平成 8 年1月30日 東京高平成7年(行ケ)第128号 )

 

化粧品業界もフランス語に親しんでいますので、ローマ字を『英語読みorフランス語読み』し、薬品業界では、ドイツ語に親しんでいますので、ローマ字を『英語読みorドイツ語読み』されます。

このように「需要者は誰か?」と考えることで、称呼の発生パターンが変わるため、需要者を意識することは類否判断には超重要です。

 

実務上のポイント

審査・審判では・・・需要者はどのような性質があるか考えよう。それにより、称呼等の認定結果が変わる。

 

引用商標の商標権の存続期間切れた場合

4.引用商標の商標権の存続期間経過後であっても、第20条第3項又は第21条第1項の 規定に基づく更新登録の申請があったとき又は国際登録に基づく商標権の場合は、議 定書第7条(4)の規定に基づく国際登録の存続期間の更新があったときは、引用商 標の商標権の存続期間が更新されることに十分留意して、本号を適用するものとする。
ただし、引用商標の商標権者が引用商標の商標権の存続期間の更新申請をしない旨 の意思表示をし、存続期間の更新がないことが明らかになった場合は、この限りでな い。

 

 こちらの記事の「(1)先行登録の存続期間が切れてるよ!」を参照してください。

 

結合商標の称呼の発生の判断

結合商標の類否判断をするときは、結合商標のどの部分から称呼が発生するのか要部はどこか)を認定する必要があります。


この項目では、主に2つ以上の単語の組み合わせによる結合商標の称呼発生の判断方法について見ていきます。

 

二段併記の商標の称呼

5.振り仮名を付した文字商標の称呼については、次の例によるものとする。
(イ) 例えば、「紅梅」のような文字については、「ベニウメ」と振り仮名した場合で
あっても、なお「コウバイ」の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ロ) 例えば、「白梅」における「ハクバイ」及び「シラウメ」のように2以上の自然 の称呼を有する文字商標は、その一方を振り仮名として付した場合であっても、他の一方の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ハ) 例えば、商標「竜田川」に「タツタガワ」のような自然の称呼を振り仮名として
付したときは、「リュウデンセン」のような不自然な称呼は、生じないものとする。

 

 

二段併記にする目的の一つに「称呼を固定すること」があげられます。
様々な読み方ができる造語の商標であれば、ある読み方のとき先行登録の商標と類似になってしまう場合があり、その際に「漢字+フリガナ」や「英語+フリガナ」などの表記にして先行登録の商標と類似になることを避けるテクニックがあります。

この項目では、二段併記の商標からどういう称呼が発生するのかを説明しています。

なお、自然に読める読み方のことを「自然称呼」といいます。

 

【パターン1】漢字の部分に自然称呼がある場合、その自然称呼は発生する


 ベ ニ ウ メ
   紅 梅

 

という商標の場合は、称呼はどうなるでしょうか。

「紅梅」はもともと「コウバイ」と読めますので、そのことを知っていたら、パッと見たときはどうしても最初に「コウバイ」と読んでしまいます。
そうすると、「紅梅」にフリガナ「ベニウメ」をつけたからといって、「コウバイ」の読み方が消えてしまうことはありません。

そのため上記の商標の称呼は「ベニウメ」及び「コウバイ」になります。

 

【パターン2】漢字の部分に自然称呼が二つある場合は、その二つの称呼が発生する


 シ ラ ウ メ
   白 梅

 

 ハ ク バ イ
   白 梅

 

「白梅」はもともと「シラウメ」とも「ハクバイ」とも読めますので、そのことを知っていたら、パと見たときは最初に「シラウメ」及び「ハクバイ」と読んでしまいます。
そうすると、「白梅」にフリガナ「シラウメ」をつけたからといって、「ハクバイ」の読み方が消えてしまうことはありません。
同様に、「白梅」にフリガナ「ハクバイ」をつけたからといって、「シラウメ」の読み方が消えてしまうこともありません。

そのため上記二つの商標の称呼はどちらも「シラウメ」及び「ハクバイ」になります。

 

【パターン3】漢字部分から、不自然な称呼は発生しない

 

 タツタガワ
 竜 田 川

 


竜田川」の自然な称呼は「タツタガワ」です。上記の商標のように自然な称呼のフリガナを付した場合は、不自然な称呼「リュウデンセン」の読み方は発生しません。

なお、「タツタガワ」とフリガナを振らない「竜田川」のみの商標であっても、不自然な読みの「リュウデンセン」は生じません。

そのため、上記の商標の称呼は「タツタガワ」のみになります。

 

 

【参考判決】

この考えは、「一葉事件」が参考になります。

 

【平成 19年5月31日 知財高平成19年(行ケ)第10560号】

原告は、本願商標中に「KAZUHA」の文字が併記されていることから、「一葉」の文字 の称呼は「カズハ」と特定され、「イチヨウ」の称呼は生じない旨主張する。確かに、一枚の 葉の図形及び「一葉」の文字に着目するとともに、「KAZUHA」の文字にも着目すること がないとまではいえず、したがって、本願商標から、「KAZUHA」の文字の構成に相応し て「カズハ」の称呼が生じることも否定し得ないが、当該「KAZUHA」の文字は、一枚の 葉の図形の下端部に小さく白抜きの細線により描かれたものであり、その文字の長さも、「一 葉」の文字よりはるかに短く、前後の端部が「一葉」の文字と揃えられているものでもないか ら、「KAZUHA」の文字が「一葉」の文字の読みを示していると理解することは、必ずしも容易であるとはいえず、そうとすると、たとえ、需要者、取引者が、本願商標から「カズハ」 の称呼を得た場合であっても、併せて「イチヨウ」の称呼が生ずることを妨げるものではない。

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ここまでのまとめ

  • 商標は外観・称呼・観念を総合的に観察する
  • 商標は需要者の立場で考える
  • 二段併記の商標の場合は、自然に読める称呼は発生する

 

 

Part2に続きます。

このブログの趣旨について

この「商標実務のブログ」は、
主に実務初心者の商標弁理士、商標担当者を対象に書いています。

弁理士の世界は職人の世界と同じく、「見て覚えろ!」という風潮があり、実務をどう勉強していけば良いかのカリキュラムはネットはもちろん本にも書いていません。

僕は弁理士試験に受かったときは実務未経験でしたので、最初は依頼された商標に対して実際にどう類否判断すればよいのか、どう意見書を書けばよいのかわからず相当困りました。

本を見たり特許庁に聞きまくったり、多くの拒絶理由通知により(今でも拒絶理由は死ぬほど悩みます)徐々に「生きた」知識を得ることができました。

商標は特許と違って、書類の行数も少なく一案件当たりにかける時間も少ないので、一見簡単なように見えます。
また、こなす件数が少ないと問題になる件数も少なく「楽勝じゃん!」という気持ちになりがちです。

ですが、ある程度の件数をこなすと、様々な問題が出てきてます。

指定商品がわからない場合どうするの?
指定商品「コーヒー」と指定商品「コーヒー豆」の違いって?
3条2項がギリギリ無理な場合は?
4条1項11号の意見書でどんな克服方法あるの?
もっと業務を効率化するには?


まだまだ未熟ではありますが、年間数百件以上の案件を扱っており、それなりに経験も蓄積してきました。

業務は様々なパターンがありますが、共通してよく使うノウハウは決まっています。このブログでは、できるだけわかりやすく実務上役に立つノウハウを全て公開する予定です。

またITについては得意ですので(自分でプログラム書いて業務効率化しています)、業務をどう効率化していけば良いのかということも積極的に書くつもりです。


このブログを通して、皆さまの商標実務がもっと楽になることを願っています!


特許事務所向け「ショートカットキー」勉強会を開催しました。その内容と結果

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ショートカットキー勉強会を開催しました

皆様はショートカットキーを使用していますか?
僕もちょいちょいショートカットキーを使っていましたが、
「Ctrl + C」 コピー
とかメジャーなものしか知りませんでした。


しかし、特許事務所の業務の多くがWord・ExcelChromeですので、これらのショートカットキーを極めればもっと効率良く業務をこなせるんじゃない?と思い、昨年所内でショートカットキー勉強会を開催しました。

このショートカットキー勉強会は2ヶ月くらい毎週15分行いました。

 

勉強会の内容

毎週テーマを決めて(例えば、Wordとか)、使えそうなショートカットキーを持ち寄り、これこういう場面で超便利だよとか情報を共有しました。

ショートカットキーはググればたくさん出てきますが、全部を覚えることはできません。
このショートカットキー勉強会では「特許事務所で働いている人が本当に使えるショートカットキー」に限定して情報を共有しました。

 

勉強会の結果

めちゃくちゃ大好評でした。
全員最低5個くらいは新たに習得できて業務スピードが上がっています。
僕も10個くらい増えました。

この勉強会は対象が特許事務所向けの便利なショートカットキーが厳選されているので、覚えることもさほど苦痛ではありませんでした。

 


勉強会の学び

ショートカットキーを覚えるときは、欲張らずに3日に一つずつ習得するくらいのスピードがちょうどよいと思いました。
最初はマウスで操作した方が楽だと思いますが、なんとか頑張ってショートカットキーを使うようにすると、ある瞬間から意識することなく使えるようになります
また、ほとんど使わないショートカットキーは自然と忘れていきますで、それはあまり必要のないものと判断できます。


ショートカットキーの習得の方法

  • 【ステップ1】ショートカットキーを1つ決める
  • 【ステップ2】3日続ける
  • 【ステップ3】使いやすいか使いにくいか判断する

 

勉強会で出てきたショートカットキー 一覧

勉強会で出てきたショートカットキーの一覧です。Windowsのみです。

 

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まとめ

新しいショートカットキーを使えるようになると楽しいですね!

個人的には、意見書フォルダなど新しくフォルダ作るときに「Ctrl + Shift+N」(フォルダ作成)が便利で重宝しています。