4条1項11号の審査基準を実務で役立つところだけまとめたよ~Part2~
前回の記事は商標の類否判断における基礎知識を解説しました。
今回は結合商標の類否判断を解説します。
結合商標の称呼の発生方法
6.結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、例えば、次のように判断する ものとする。ただし、著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかなときは、この限りでない。
2単語以上の結合商標の類否判断をする場合は、一連一体にのみ称呼するのか、一部の単語も称呼する(要部抽出する)のかを判断する必要があります。
典型例としては、商標「A」と商標「A+B」の類否判断をするときに、商標「A+B」の「A」部分のみを抜き出して判断するかどうかなどです。
考え方は様々ありますが、識別力の強弱によって結合の強弱が決まることがあります。
商標「A+B」の「A」部分の識別力と、商標「A+B」の「B」部分の識別力の強弱の組み合わせを考えたときに、商標「A+B」の「A」部分と「B」部分の結合の強弱は以下のようになります。(文字にするとややこしい・・・)
識別力の強弱 結合の強弱
弱 + 弱 → 強(分離しない) (例)SUPER GRIP
強 + 弱 → 弱(分離する) (例)レデイグリーン
弱 + 強 → 弱(分離する) (例)スーパーライオン
強 + 強 → ケースバイケース
片方が識別力が強く、片方が弱い場合は、原則、要部を抜き出して判断します。どちらも識別力が弱い場合は、結合が強くなり要部を抜き出して判断することは少なくなります(平成14年(行ケ)266号東京高裁平成15年1月21日 「SUPER GRIP事件」)。
特に、識別力弱+識別力弱の結合商標は、「一連一体に読むから非類似ですよね!」と意見書などで反論しやすいので重宝します。
実務では
結合商標の各単語の識別力を調べ、その強弱で要部を抽出して判断するか考える。
識別力弱+識別力弱の場合は、一連一体に称呼する可能性あり。
【参考判決】
「リラ宝塚事件」(昭和38年12月5日 最高裁昭和37年(オ)第953号)
原判決が本願商標の構成部分から「宝塚」なる文字の部分だけを抽出し、 これと引用商標「宝塚」とを対照して、本願商標は右引用商標と称呼、観念において類似すると判断したのは、商標類否判定の法則、実験則に違背するものである、 という。
・・・・
いま本件についてこれをみるのに、本願商標は、第四類石鹸を指定商品とするものであるが、古代ギリシヤで用いられていたというリラと称する抱琴の図形と「宝塚」なる文字との結合からなり、しかも、これに「リラタカラズカ」、「LYRATAKARAZUKA」の文字が添記されているのである。従つて、この商標よりリラ宝塚印なる称呼、観念の生ずることは明らかであり、上告人会社の本願商標作成の企図もここにあつたものと推認するのに十分である。
「SEIKO EYE事件」(平成5年9月10日 最高裁平成3年 (行ツ) 103号)
「SEIKO」の文字と「EYE」の文字の結合から成る審決引用商標が指定商品である眼鏡に使用された場合には、「SEIKO」の部分が取引者、需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それとの対比において、眼鏡と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「EYE」の部分のみからは、具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「SEIKOEYE」全体として若しくは「SEIKO」の部分としてのみ称呼、観念が生じるというべきである。
本願商標
引用商標
形容詞的文字(品質表示部分)は識別力が弱い
(1) 形容詞的文字(商品の品質、原材料等を表示する文字、又は役務の提供の場所、質等を表示する文字)を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されてい ない商標と類似する。
(例) 類似する場合
「 スーパーライオン」と「ライオン」
「銀座小判」 と「小 判」
「レデイグリーン」 と「レデイ」
ここは、実務上超重要な項目です。
3条1項3号に該当するような品質表示の単語を含む結合商標の場合は、原則としてその部分は識別力が弱く、他の部分が要部として抜き出して判断します。
では、品質表示とはどのようなものがあったでしょうか。3条1項3号が参考になります。
品質表示の例
- 品質(スーパー、グリーン)
- 地名(銀座)
- 原材料
- 用途
- 数量
これらのものは原則、識別力が弱いとして判断しましょう。特に原材料などは、商品・役務によって識別力が変わりますので、注意が必要です。
地名については、販売実績がある地域ほど識別力が弱くなってきます。(商品「茶」について「宇治」部分など)
また、英語1文字部分(商標「L-ron」の「L」部分など)は商品の記号として認識されることもあります。
実務では
審査・・・品質表示部分は原則識別力なし!と判断する。
審判・・・品質表示部分は原則識別力なし!だが、総合的に判断してくれるので、品質表示部分があっても一連一体として判断してくれることも。
文字の大きさが違えば、それぞれから要部抽出
(2) 大小のある文字からなる商標は、原則として、大きさの相違するそれぞれの部分からなる商標と類似する。
(例) 類似する場合
「富士白鳥」と「富士」又は「白鳥」
「サンムーン」と「サン」又は「ムーン」
結合商標が分離しない条件としては、同書同大同間隔があげられます。
同書同大同間隔
同書・・・同じフォント
同大・・・同じ大きさの文字
同間隔・・同じ間隔の文字
今回は、そのうち、文字の大きさに関するものです。文字の大きさに一体性がないと、それぞれの部分から分離して判断されます。
そのため、例示された商標から下記のような称呼が発生します。
「富士白鳥」 → 「フジハクチョウ」「フジ」「ハクチョウ」
「サンムーン」 → 「サンムーン」「サン」「ムーン」
実務では
審査では・・・文字の大きさが違えば、原則要部抽出。
審判では・・・文字の大きさが違っても、全体で一体的であるとすれば一連一体に見てくれることも。
間隔が著しくあいていれば、それぞれから要部抽出
(3) 著しく離れた文字の部分からなる商標は、原則として、離れたそれぞれの部分のみからなる商標と類似する。
(例) 類似する場合
「鶴亀 万寿」と「鶴亀」又は「万寿」
この項目は、文字の間隔に関するものです。結合商標の文字同士が離れていれば、より分離しやすくなります。これは直感的に理解しやすい項目ですね。
そのため、一連一体にしたい場合は空白がないようにするか、空白があってもその間隔をつめるようにします。なお、間隔をつめるのは画像で出願する場合だけにできるテクニックです。
実際に分離されたくないけど、空白を入れたい場合は「もうちょい空白部分を小さくして、文字の間隔つめれませんか?」と提案するこもあります。
なお、標準文字の場合は、空白1文字程度であれば「著しく離れた文字」としては認定されず、その理由で分離されることはほぼありません。
実務では
審査・・・著しく離れた文字は、それぞれ要部抽出。標準文字の場合は、空白1文字程度であれば「著しく離れた文字」とはならない。
審判・・・同上
慣用文字部分は識別力弱い
(5) 指定商品又は指定役務について慣用される文字と他の文字とを結合した商標は、 慣用される文字を除いた部分からなる商標と類似する。
(例) 類似する場合
清酒について「男山富士」と「富士」清酒について「菊正宗」と「菊」
興行場の座席の手配について「プレイガイドシャトル」と「シャトル」
3条1項 2号に該当するような慣用文字については、識別力が弱いと判断されます。
慣用されるか否かは、その業界でなければわからないことも多いですので、結合商標の各文字部分の意味をしっかり調べることが大事です。
なお、慣用されている文字に似ていますが、業界でよく使用されている店舗名なども識別力は弱いとされます。(役務「飲食物の提供」における商標「わっしょい」など)
周知商標を含む場合は、原則類似する
(6) 指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と 他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表さ れているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする。
ただし、その他人の登録商標の部分が既成の語の一部となっているもの等を除 く。
(例) 類似する例
テープレコーダについて「SONYLINE」、「SONY LINE」又は「SONY/LINE」と「SONY」
化粧品について「ラブロレアル」と「L‘OREAL」「ロレアル」
かばん類について「PAOLOGUCCI」と「GUCCI」
航空機による輸送について「JALFLOWER」と「JAL」
(例) 類似しない例
金属加工機械器具について「TOSHIHIKO」と「IHI」
時計について「アルバイト」と「ALBA/アルバ」
遊戯用機械器具について「せがれ」と「セガ」
周知商標が含まれる商標は、原則その周知商標と類似します。 通常は、商標「A+B」が一連一体に読める場合は、商標「A」とは非類似になることが多いですが、「A」部分が周知商標の場合は、「B」部分に何が来ても類似と判断する方が安全です。
ただし、「アルバイト」と「アルバ」のように既成語の一部となっているものは除きます。
実務では
周知商標が含まれる場合は、類似と判断。
商号商標はケースバイケース
(7) 商号商標(商号の略称からなる商標を含む。以下同じ。)については、商号の 一部分として通常使用される「株式会社」「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」等の文字が出願に係る商標の要部である文字の語尾又は語頭のいずれかにあるかを問わず、原則として、これらの文字を除外して商標の類否を判断するものとする。
商標「ABC株式会社」などいわゆる商号商標の取り扱いについて規定しています。通常は「株式会社」部分は識別力がありませんので、商標「ABC株式会社」と商標「ABC」は類似します。審査基準で示されている「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」も同様の取り扱いです。
ただし、商号商標でも一連一体にのみ称呼するものもあります!
以前、審査官に尋ねると「商号商標は一連一体に称呼しますよ〜」と審査基準とは異なる謎の運用があることを聞きました。
また、「実例で見る 商標審査基準の解説」でも下記のように書かれています。
なお、本(7)では、商号商標について普通に使用されている業種を表す「化学工業」「機械産業」「商事」「繊維工業」等については言及していないが、業種を表す文字を含む商号商標の類否判断に当たっては、当該業種に係る商品を指定商品とするものについては、前期「株式会社」等と同様に業種を表す文字を除外して商号商標の類否判断を行う実務例と、名称は常に一体的なものとしてみるべきで、前期「株式会社」等のみの文字を除外して類否判断を行う実務例がみられる。
引用:「実例で見る 商標審査基準の解説 第八版」p310
上記の引用している文章はちょっとわかりにくいですが、
「商号商標の中には一連一体にのみ称呼する場合と、株式会社等を省略する場合とどっちもあるよ」
というようなことが書かれています。
商号商標を見た場合は、一連一体に読むかどうかは過去の登録例・審決を見て、特許庁が過去にどのように判断したかを追っていくしかありません!
ただし、審査基準で示されている「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」については高確率で省略してもOKです。
この項目は審査基準と実際の運用が異なるので、要注意です!
実務では
商号商標の場合は、株式会社等の部分が本当に省略するかどうかを併存登録&審決を入念に調べてから類否を判断する!
ただし、審査基準で示されている「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」 「協同組合」などは省略してもOK。
商標の中の小さい文字も見逃し厳禁!!
7.(1) 商標の構成部分中識別力のある部分が識別力のない部分に比較して著しく小さ く表示された場合であっても、識別力のある部分から称呼又は観念を生ずるもの とする。
商標の一部にとても小さく文字が書かれていれば、「まあ文字小さいから考えなくても大丈夫かな〜?」と思いがちです。
しかし、例えば、その文字が「SONY」と書かれていればどうでしょうか。小さく書かれていても需要者は「SONYの商品なんだ、これ」と思うでしょう。
つまり、文字が小さくてもその部分が要部になり得るということです。
そのため、文字部分が複数あるような図形商標を依頼された場合は、複数ある全ての文字について類否判断をした方が安全です。
実務では
どんな小さな文字でも読めれば要部になり得る!ので、その部分も類否判断しよう。
色彩の部分から称呼・観念が生じる可能性あり
(2) 商標が色彩を有するときは、その部分から称呼又は観念を生ずることがあるものとする。
上記のように審査基準では書いていますが、こんなことで類似になるのは見たことないんですけど・・・
最近、これで拒絶された人っています??
識別力ない部分でも、そこが周知商標なら原則類似
(3) 商標の要部が、それ自体は自他商品の識別力を有しないものであっても、使用 により識別力を有するに至った場合は、その部分から称呼を生ずるものとする。
例えば、3条2項に該当の商標や地域団体商標などは、もともとは識別力ありませんでしたが、使用したことにより識別力を有することになりました。そのため、その部分は周知商標と同じように取り扱われます。
実務では
3条2項該当の商標又は地域団体商標を含む商標は、その周知商標と原則類似
まとめ
- 識別力弱+識別力弱の場合は、一連一体に称呼する可能性
- 形容詞的文字(品質表示部分)は識別力が弱い
- 文字の大きさが違えば、それぞれから要部抽出
- 間隔が著しくあいていれば、それぞれから要部抽出
- 周知商標を含む場合は、原則類似する
- 商号商標はケースバイケース
- 色彩の部分から称呼・観念が生じる可能性あり
- 識別力ない部分でも、そこが周知商標なら原則類似
今回は商標「A+B」と商標「A」の類否判断について見ていきました。
結構覚えること多いですよねー。実務やっていると、これらのパターンに当たることがありますので、 その時は審査基準を即座に思い出すと精度の高い類否判断ができます!
Part3に続く
4条1項11号の審査基準を実務で役立つところだけまとめたよ~Part1~
はじめに
【4条1項11号】
当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する 商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十 八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。 以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
4条1項11号は、商標の拒絶理由通知の中で頻出する最重要の条文です。
この記事では、類否判断をするにあたって、審査基準4条1項11号の実務上役に立つところだけをピックアップして解説しています。
感覚ではなく、できるだけ審査基準の根拠をもって判断できるようになれば、審査官との意見の相違が少なくなり、より精度の高い判断ができるようになります。
資料
- 商標審査基準
- 実例で見る商標審査基準の解説 第8版
「実例で見る商標審査基準の解説 第8版」(2015年9月発売)を参考にして解説していきます。
商標の審査基準を勉強するにはこの本が最もオススメです。
新しいタイプの商標については、まだまだ事例や資料が少ないため今回は割愛します。
4条1項11号の審査基準の全体的の流れ
まずは、4条1項11号の審査基準のざっくりした流れを確認しましょう。
はじめに類否判断の基本的な考え方を学びます。その後、結合商標の類否、一音相違など音声上の類否について触れており、後半は、商品・役務の類否について触れています。
- 類否判断の基本的な考え方
- 称呼の発生の判断(AとA+Bの類否など)
- 音声上の相違する場合の類否判断(1音相違など)
- 商品・役務の類否判断
- 新しいタイプの商標の類否判断(今回は割愛)
それでは一つずつ見ていきましょう。
類否判断の基本的な考え
まずは、類否判断についての基本的な考えを見ていきます。
外観・称呼・観念を総合的に観察する
1.商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない。
引用:商標審査基準
商標の類否判断は、原則、外観・称呼・観念で総合的に観察します。
「総合的に」とありますので、外観・称呼・観念の中から一つだけを見て類似かどうかは判断してはいけません。あくまでも全ての要素を検討した後に「総合的に」結論を出すことが必要です。
しかし、現在の審査ではこれは建前になりつつあります。つまり、称呼を最重視しており、外観と觀念がどれだけ非類似であっても、称呼が類似なら商標全体で類似と判断されがちです。称呼だけであれば、より簡単な判断基準で済むので審査官もぱっぱと処理しやすいのでしょうか。
審判になると商標全体を総合的に観察して判断されます。そのため、審判では、称呼同一のものであっても非類似と判断される場合があります。
【参考判例】
【昭和43年2月27日最高裁昭和39年(行ツ)第110号】
商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標 がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。
実務上のポイント
審査では・・・称呼重視。外観と觀念がどれだけ非類似でも、称呼が類似なら商標全体で類似と判断されがち。
審判では・・・総合的に観察。称呼同一のものであっても非類似と判断される場合がある。
需要者の立場で考える
2.商標の類否の判断は、商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層(例えば、 専門家、老人、子供、婦人等の違い)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。
次に、類否判断するときには誰の立場になって判断するのかを考えます。
類否判断は「需要者の立場」で考えます。
商品又は役務の主たる需要者層を考慮する
商標法には「需要者の利益を保護する」という趣旨があります。そのため、必ずその「需要者は誰か」という基本に立ち戻って考えることが重要です。
「需要者は誰か」とは、ある特定の業界の需要者はどのような性質があり、どのような考え方をするのかを検討する必要があるということです。
例えば、アパレル業界の人は、英語以外にもフランス語も日常的に触れています。フランス語は日本人にとってオシャレに感じますし、アパレルブランドの名前によくフランス語が使われていますよね。
そのため、アパレル業界の人はローマ字を見たときは英語以外にもフランス語読みもしやすいと思われます。
そうすると、25類「被服」を指定したときは、商標が「VENT VERT」であれば、フランス語読みである「バンベール」の称呼が発生します(平成11年6月1日 東京高平成10年(行ケ)第163号 )。なお、英語読みの「ベントバート」も発生する可能性はあります。
同じように、商標「BARREAUX」はフランス語読み「バロー」と読めると認定されます。(平成 8 年1月30日 東京高平成7年(行ケ)第128号 )
化粧品業界もフランス語に親しんでいますので、ローマ字を『英語読みorフランス語読み』し、薬品業界では、ドイツ語に親しんでいますので、ローマ字を『英語読みorドイツ語読み』されます。
このように「需要者は誰か?」と考えることで、称呼の発生パターンが変わるため、需要者を意識することは類否判断には超重要です。
実務上のポイント
審査・審判では・・・需要者はどのような性質があるか考えよう。それにより、称呼等の認定結果が変わる。
引用商標の商標権の存続期間切れた場合
4.引用商標の商標権の存続期間経過後であっても、第20条第3項又は第21条第1項の 規定に基づく更新登録の申請があったとき又は国際登録に基づく商標権の場合は、議 定書第7条(4)の規定に基づく国際登録の存続期間の更新があったときは、引用商 標の商標権の存続期間が更新されることに十分留意して、本号を適用するものとする。
ただし、引用商標の商標権者が引用商標の商標権の存続期間の更新申請をしない旨 の意思表示をし、存続期間の更新がないことが明らかになった場合は、この限りでな い。
こちらの記事の「(1)先行登録の存続期間が切れてるよ!」を参照してください。
結合商標の称呼の発生の判断
結合商標の類否判断をするときは、結合商標のどの部分から称呼が発生するのか(要部はどこか)を認定する必要があります。
この項目では、主に2つ以上の単語の組み合わせによる結合商標の称呼発生の判断方法について見ていきます。
二段併記の商標の称呼
5.振り仮名を付した文字商標の称呼については、次の例によるものとする。
(イ) 例えば、「紅梅」のような文字については、「ベニウメ」と振り仮名した場合で
あっても、なお「コウバイ」の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ロ) 例えば、「白梅」における「ハクバイ」及び「シラウメ」のように2以上の自然 の称呼を有する文字商標は、その一方を振り仮名として付した場合であっても、他の一方の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ハ) 例えば、商標「竜田川」に「タツタガワ」のような自然の称呼を振り仮名として
付したときは、「リュウデンセン」のような不自然な称呼は、生じないものとする。
二段併記にする目的の一つに「称呼を固定すること」があげられます。
様々な読み方ができる造語の商標であれば、ある読み方のとき先行登録の商標と類似になってしまう場合があり、その際に「漢字+フリガナ」や「英語+フリガナ」などの表記にして先行登録の商標と類似になることを避けるテクニックがあります。
この項目では、二段併記の商標からどういう称呼が発生するのかを説明しています。
なお、自然に読める読み方のことを「自然称呼」といいます。
【パターン1】漢字の部分に自然称呼がある場合、その自然称呼は発生する
ベ ニ ウ メ
紅 梅
という商標の場合は、称呼はどうなるでしょうか。
「紅梅」はもともと「コウバイ」と読めますので、そのことを知っていたら、パッと見たときはどうしても最初に「コウバイ」と読んでしまいます。
そうすると、「紅梅」にフリガナ「ベニウメ」をつけたからといって、「コウバイ」の読み方が消えてしまうことはありません。
そのため上記の商標の称呼は「ベニウメ」及び「コウバイ」になります。
【パターン2】漢字の部分に自然称呼が二つある場合は、その二つの称呼が発生する
シ ラ ウ メ
白 梅
ハ ク バ イ
白 梅
「白梅」はもともと「シラウメ」とも「ハクバイ」とも読めますので、そのことを知っていたら、パと見たときは最初に「シラウメ」及び「ハクバイ」と読んでしまいます。
そうすると、「白梅」にフリガナ「シラウメ」をつけたからといって、「ハクバイ」の読み方が消えてしまうことはありません。
同様に、「白梅」にフリガナ「ハクバイ」をつけたからといって、「シラウメ」の読み方が消えてしまうこともありません。
そのため上記二つの商標の称呼はどちらも「シラウメ」及び「ハクバイ」になります。
【パターン3】漢字部分から、不自然な称呼は発生しない
タツタガワ
竜 田 川
「竜田川」の自然な称呼は「タツタガワ」です。上記の商標のように自然な称呼のフリガナを付した場合は、不自然な称呼「リュウデンセン」の読み方は発生しません。
なお、「タツタガワ」とフリガナを振らない「竜田川」のみの商標であっても、不自然な読みの「リュウデンセン」は生じません。
そのため、上記の商標の称呼は「タツタガワ」のみになります。
【参考判決】
この考えは、「一葉事件」が参考になります。
【平成 19年5月31日 知財高平成19年(行ケ)第10560号】
原告は、本願商標中に「KAZUHA」の文字が併記されていることから、「一葉」の文字 の称呼は「カズハ」と特定され、「イチヨウ」の称呼は生じない旨主張する。確かに、一枚の 葉の図形及び「一葉」の文字に着目するとともに、「KAZUHA」の文字にも着目すること がないとまではいえず、したがって、本願商標から、「KAZUHA」の文字の構成に相応し て「カズハ」の称呼が生じることも否定し得ないが、当該「KAZUHA」の文字は、一枚の 葉の図形の下端部に小さく白抜きの細線により描かれたものであり、その文字の長さも、「一 葉」の文字よりはるかに短く、前後の端部が「一葉」の文字と揃えられているものでもないか ら、「KAZUHA」の文字が「一葉」の文字の読みを示していると理解することは、必ずしも容易であるとはいえず、そうとすると、たとえ、需要者、取引者が、本願商標から「カズハ」 の称呼を得た場合であっても、併せて「イチヨウ」の称呼が生ずることを妨げるものではない。
ここまでのまとめ
- 商標は外観・称呼・観念を総合的に観察する
- 商標は需要者の立場で考える
- 二段併記の商標の場合は、自然に読める称呼は発生する
Part2に続きます。
このブログの趣旨について
特許事務所向け「ショートカットキー」勉強会を開催しました。その内容と結果
ショートカットキー勉強会を開催しました
皆様はショートカットキーを使用していますか?
僕もちょいちょいショートカットキーを使っていましたが、
「Ctrl + C」 コピー
とかメジャーなものしか知りませんでした。
しかし、特許事務所の業務の多くがWord・Excel・Chromeですので、これらのショートカットキーを極めればもっと効率良く業務をこなせるんじゃない?と思い、昨年所内でショートカットキー勉強会を開催しました。
このショートカットキー勉強会は2ヶ月くらい毎週15分行いました。
勉強会の内容
毎週テーマを決めて(例えば、Wordとか)、使えそうなショートカットキーを持ち寄り、これこういう場面で超便利だよとか情報を共有しました。
ショートカットキーはググればたくさん出てきますが、全部を覚えることはできません。
このショートカットキー勉強会では「特許事務所で働いている人が本当に使えるショートカットキー」に限定して情報を共有しました。
勉強会の結果
めちゃくちゃ大好評でした。
全員最低5個くらいは新たに習得できて業務スピードが上がっています。
僕も10個くらい増えました。
この勉強会は対象が特許事務所向けの便利なショートカットキーが厳選されているので、覚えることもさほど苦痛ではありませんでした。
勉強会の学び
ショートカットキーを覚えるときは、欲張らずに3日に一つずつ習得するくらいのスピードがちょうどよいと思いました。
最初はマウスで操作した方が楽だと思いますが、なんとか頑張ってショートカットキーを使うようにすると、ある瞬間から意識することなく使えるようになります。
また、ほとんど使わないショートカットキーは自然と忘れていきますで、それはあまり必要のないものと判断できます。
ショートカットキーの習得の方法
- 【ステップ1】ショートカットキーを1つ決める
- 【ステップ2】3日続ける
- 【ステップ3】使いやすいか使いにくいか判断する
勉強会で出てきたショートカットキー 一覧
勉強会で出てきたショートカットキーの一覧です。Windowsのみです。
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(入力文字の変換時に)全角カナ |
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(入力文字の変換時に)半角カナ |
F9 |
(入力文字の変換時に)全角英数 |
F10 |
(入力文字の変換時に)半角英数 |
Ctrl + B |
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Ctrl + I |
文字を斜体に |
Ctrl + U |
文字に下線 |
Ctrl + Shift + > |
文字を大きくする |
Ctrl + Shift + < |
文字を小さくする |
キー操作 |
目的 |
F2 |
セル編集時に、セルの内容の末尾にカーソルを移動する。 |
Ctrl + + |
行を選択しているとき:行の挿入 セルを選択しているとき:セルの挿入 |
Ctrl + - |
行を選択しているとき:行の削除 セルを選択しているとき:セルの削除 |
Ctrl + c(コピー)+Ctrl + + |
行をコピーしてから、挿入する。(Ctrl + c(コピー)+Ctrl + +(行挿入)+Ctrl + v(貼り付け)) |
Ctrl + V ⇒ Ctrl ⇒ V |
値だけ貼り付け |
Ctrl + V ⇒ Ctrl ⇒ R |
書式のみを貼り付け |
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まとめ
新しいショートカットキーを使えるようになると楽しいですね!
個人的には、意見書フォルダなど新しくフォルダ作るときに「Ctrl + Shift+N」(フォルダ作成)が便利で重宝しています。
一瞬で図形商標を検索しよう!WIPOの「Global Brand Database」基本的な使い方
図形商標の検索には、ウィーン図形分類を使って、J-PlatPatなどで検索することが一般的だと思います。
しかし、「とりあえずざっくり見たいんだけどなぁ」とか、「この図形商標のウィーン図形分類の取っ掛かりすらわからん!」といったときには、WIPOの『Global Brand Database』が便利です。
(下記の各画像は「Global Brand Database」http://www.wipo.int/branddb/en/を引用しています。)
この記事では、「Global Brand Database」の図形商標検索の基本的な使い方を説明します。
はじめに
Global Brand Databaseは「類似画像検索」という技術が使用されています。
「類似画像検索」とは、画像で画像を検索する方法です。これまでに様々な手法が提案されており、形状に着目する手法や、色に着目する手法などがあります。
最近では、意匠の類似画像検索もリリースされたり、ウェブではGoogleが画像検索を提供しています。
「Global Brand Database」を使う目的
「Global Brand Database」は試してみるとわかりますが、類似の商標を全て拾ってくることはできず、これで図形商標の調査を完結させることはできません。
しかし、そうであっても、ワンクリックで類似っぽい商標を検索できるというメリットはとても大きく、これまでの調査の方法を変えます。
このシステムを使う目的は大きく3つあります。
【目的1】同一の商標を見つけるために使う
ウィーン図形分類で検索する場合は、類似順に並べてくれていませんので、検索結果の途中にポンっと同一の商標があったりします。
同一の商標は決して見逃せませんが、例えば1万件の図形商標を調査していれば、見逃しが発生することも考えられます。
「Global Brand Database」は同一の商標であれば、かなりの確率で見つけ出してくれますので、同一の商標の見逃しを事前に防ぐことができます。
実際に、僕はこのシステムのおかげで同一の商標を見つけたことが3〜4回あり、助かりました・・・
【目的2】ウィーン図形分類の候補を得るために使う
「Global Brand Database」が出した検索結果を200〜300件程見れば、1つくらいは似たような商標を見つけてくれますので、その商標のウィーン図形分類を調べます。
そうすると、その商標から調査予定の商標のウィーン図形分類の候補を得ることができます。
馬や子供など、キャラクターを描いている画像商標であれば、まだウィーン図形分類は見つけやすいですが、抽象的な図形、幾何学的な図形などはウィーン図形分類を探し出すことは難しいです。
そんなときは、このシステムを使うことでウィーン図形分類を見つける時間が短縮できるという大きなメリットがあります。
【目的3】ざっと見るために使う
商標をウィーン図形分類でいきなり調査する前に、とりあえずどんな感じかな〜と見ることできます。
しかし、似ている商標を見つけることができる場合もありますが、99%は似ていません。
あまり結果を期待せずに、100件中1件あればラッキーくらいの気持ちで検索するとよいと思います。
「Global Brand Database」の使い方
下記の4つのステップで検索することができます。
(1)国を指定する
(2)検索画像を入力する
(3)どの特徴に着目して検索するか決める
(4)文字商標・図形商標の種類を選ぶ
(1)国を指定する(Source)
Global Brand Databaseは、世界の商標を検索することができますが、今回は日本の商標について調べてみましょう。
「Source」タブから「JP TM」を選択しましょう。
(2)検索画像を入力する(Pick an image)
次に「Image」タブをクリックします。
「Pick an image」の場所に検索したい画像のファイルの場所を指定するか、画像をドラッグして入力します。
今回は、この犬のイラストで検索してみます。
そうすると、このように反映されます。
(3)どの特徴に着目して検索するか決める(Pick a strategy)
画像のどの特徴に着目して検索するかを選びます。着目する特徴によって、検索結果が大きく異なります。
以下の4種類から選ぶことができます。
- Shape:形状の特徴
- Color:色の特徴
- Texture:線のタイプ(the types of lines)の特徴
- Composite:形状と色の組み合わせの特徴
この中ではShapeが最もオススメで、検索結果が一番良好です。(体感的に)
Textureはよくわからないですが、Shapeと似ているようです。詳しくはヘルプで確認してください。
今回は、Shapeを選択します。
(4)文字商標・図形商標の種類を選ぶ(Pick an image type)
最後に文字商標か図形商標かを下記4つのタイプから選びます。
- Verbal:文字商標
- Nonverbal:図形商標(文字部分なし)
- Combined:文字+図形の結合商標
- Unknown:不明
今回は、Nonverbalを選択します。ウィーン図形分類を探すだけなら、Nonverbalだけでもよいかもしれません。
この後に、検索(filter)ボタンを押します。
検索結果
1ページ目
2ページ目
3ページ目
ご覧の通り、全然似てない商標ばかりです。
しかし、3ページ目の中ごろにこんな商標がありました。
この商標のウィーン図形分類を見てみると・・・
下記のウィーン図形分類の候補を取得できました!
- 3.1.8 イヌ、オオカミ、キツネ
- A3.1.17 立っているシリーズⅠの動物
「立っているシリーズⅠの動物」という分類があることを知れたおかげで、J-PlatPatで「3.1.19 座っているシリーズⅠの動物 」という分類も見つけることができました。この方法ならウィーン図形分類の候補がすぐに見つけることができます。
この後は、J-PlatPatの図形検索でいつも通り検索しましょう。
まとめ
いかがでしょうか。これまでは、いきなりウィーン図形分類のみの検索しかできなかったのですが、Global Brand Databaseを使うことによって、ウィーン図形分類の候補や同一の商標を検索できたりと、ぐっと調査の方法が広がります。ぜひ、一度試してみてください。
J-PlatPatをブックマークするときは、「サイトマップ」ページが超オススメ
今回はJ-PlatPatを利用するときのちょっとしたテクニックです。
J-PlatPatをブックマークするとき
J-PlatPatは弁理士であれば、かなり使いますよね。
ってことは当然にお気に入り(ブックマーク)に入れていると思うんですが、
そのお気に入りのURLはトップページですか?
【J-PlatPatのトップページ 】
実は、トップページをお気に入りにしていると非常にモッタイナーイ!!です。
なぜなら、この初心者用のトップページをプロである弁理士が使うことは非常に少ないからです!!
絶対どこかのページに移動します!
商標弁理士であれば、「商標出願・登録情報」ページとか「称呼検索」ページとか「商品・役務名検索」ページとかに移動します。
そうすると、トップページであれば、まずページ上部にある青色の「商標」というところにマウスを上に乗せて、
【J-PlatPatのナビゲーション 】
にょろにょろとページ一覧を出してから、そのリンク先をクリックして移動しますよね。
【J-PlatPatのにょろにょろ 】
このにょろにょろ待つ間、約1秒!!
これが無駄です!!
なぜ、にょろにょろさせるのに、1秒も待たなくてはいけないのか!
安心してください。
そんなときは、「サイトマップ」ページがありますよ。
【サイトマップページ】
ここであれば、既に全てのページが表示されているので、にょろにょろの1秒間を節約できます。
いきなり好きなページに飛んでください!
小さいことですが、1秒の積み重ねが効率化には非常に大事です。
まとめ
では、下記から早速「サイトマップ」ページをお気に入りにどうぞ。
商標調査のヒアリングで重要な5つのポイント
商標調査前にヒアリングを行いますが、このヒアリングが正確にできていないと、商標や商品・役務を正確に特定することができません。
そうすると、その後の出願にも影響が出て、全く意味のない権利になったり抜けや漏れがある権利になる可能性があります。
そのため、ヒアリングは商標業務の中で最重要な業務といえます。
この記事では、ヒアリングで重要な5つのポイントをまとめています。
(1)商標を口頭だけで聞かない
商標調査の依頼を受けるときには、事前に、書面やメールなど、文字や図形がわかる形で教えてもらいましょう。
もし口頭だけで商標調査の依頼を受けると、クライアントと自分で思っている商標が異なり調査結果が変わってしまうこともあり、調査をやり直しする場合もあります。
例えば、「アマゾンという商標で調査して」と言われた場合は、下記のように様々な態様が考えられます。
- Amazon
- アマゾン
- アマ・ゾン
- ロゴのアマゾン
どの商標を望んでいるのかを明確にするためにも、できるだけ紙かメールの形でもらいましょう。
(2)他に使用している者がいるかを聞く
他社が商標を使用しているかどうかの情報は重要です。それによって、3つの判断が大きく変わります。
- 商標出願を急ぐかどうかの判断
- 識別力の判断
- 早期審査時に商品を減縮せずに済むかの判断
以下に説明していきます。
(2−1)商標出願を急ぐかどうかの判断が変わる
クライアントによって調査報告などの納期をバラバラにするべきではないですが、唯一他社が使用している場合は、超特急で調査・出願すべきです。
僕は実際に1日違いの出願を経験しました。クライアントはタッチの差で負けました。
「たった1日頑張って早く調査していれば・・・出願していれば・・・」と後悔があります。
他社が使用している場合は、その会社も商標出願を検討している可能性が高いです。
そのため、1日の違いが商標登録ができるかを分ける重要な違いになり得ます。
後悔しないためにも、他社が使用していれば、超特急で調査・出願しましょう。
(2−2)識別力の判断が変わる
他社が使用していれば、その商標は識別力を失います。
例えば、飲食店で商標「わっしょい」は識別力はあると思うでしょうか?
普通は識別力あるように感じますが、審決例では「わっしょい」は皆が使っているから識別力なしと判断されています。
識別力を適切に判断するためにも、他社が商標を使用しているかどうかの情報を得ることは重要です。
【参考審決例】不服2014-25553
・・・・飲食物の提供に係る分野においては、店舗の名称に多数用いられているから、本願商標の構成中の「わっしょい」の文字部分は、その指定役務との関係において、自他役務を識別する機能を果たし得ないか、又は弱いものというべきである。
引用:不服2014-25553
(2−3)早期審査時に「商品を減縮せずに済むか」の判断が変わる
早期審査の条件としては、通常は現在使用している商品のみで出願する必要がありますが、第三者が使用している場合は、使用している商品のみに限らなくてよいとされています。(「権利化について緊急性を要する出願」と言います)
そうすると、早期審査で審査期間が短くなるのに、通常の出願と同様に権利範囲を広く取得することができ、とても有利になります。
このように他に使用している者がいるかどうかによって、様々な判断が変わります。
(3)主力商品・サービスを聞く
販売している商品が多岐にわたる場合は、どの商品・サービスを優先して権利を確保するのか検討する必要があります。
主力商品の権利が既に他社に取得されている場合は、不使用取消審判や商標変更が必要になりますが、あまり重要ではない商品であれば、その部分を削って出願することによって一定の権利を得ることができます。
他社に先に取られた商品は販売しないようにすれば、基本的には問題になりません。
主力商品・サービスが何であるかによって、調査後のアドバイスが変わるため、主力商品・サービスを聞いておくことは重要です。
(4)他にこういう商品・サービスやってませんか?と聞く
ここは商標弁理士の腕の見せ所です。
クライアントが気付いていないが、実は取得しておくべき商品・サービスがあります。
例えば、クライアントが次のように説明してきた場合は、どの区分が最適でしょうか?
「アプリ作ってます!」
この場合は、9類「電子計算機用プログラム」、42類「電子計算機用プログラムの提供」などが想定されます。
「カレーの飲食店しています!」
この場合は、43類「飲食物の提供」が想定されます。
しかし、本当にこの区分だけで、クライアントのビジネスが十分に守れるでしょうか?
不安な場合は、そのビジネスと関連が深い商品・サービスの権利が必要かをヒアリングしましょう。
「アプリ作ってます!」
→広告収入も目指しますか?
広告収入もあれば、35類「インターネット上の広告スペースの貸与」など
「カレーの飲食店しています!」
→カレーのテイクアウトもありますか?
テイクアウトがあれば、30類「調理済カレーライス」など
商標の場合は、ビジネスモデルに興味を持つことが非常に重要です。このビジネスはどういう風に儲けてるのかな〜と考えることにより商品・サービスの提案力が変わってきます。
(5)何か疑問点はありませんか?と聞く
積極的なクライアントであれば、ヒアリング中に質問をガンガンしてきますが、そこまで積極的でないクライアントの場合はまだ不明な点が残っていることがあります。
そんなときは、
「何か疑問点はありませんか?」
と聞いてあげましょう。
もしかしたら、何か引っかかっていることがあり、それが重要なことかもしれません。また、疑問点を解消することで顧客満足度を上げることにもつながります。
まとめ
商標調査のヒアリングでは下記の5つのポイントが重要です。
- 商標を口頭だけで聞かない
- 他に使用している者がいるかを聞く
- 主力商品・サービスを聞く
- 他にこういう商品・サービスやってませんか?と聞く
- 何か疑問点はありませんか?と聞く
全て網羅できなくても、このうちの少しでも意識することにより、よりレベルの高いヒアリングをすることができます。