商標実務のブログ

日々の商標実務で気付いたことを中心に

4条1項11号の審査基準を実務で役立つところだけまとめたよ~Part1~

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はじめに

【4条1項11号】

当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する 商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十 八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。 以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

 

4条1項11号は、商標の拒絶理由通知の中で頻出する最重要の条文です。

この記事では、類否判断をするにあたって、審査基準4条1項11号の実務上役に立つところだけをピックアップして解説しています。

感覚ではなく、できるだけ審査基準の根拠をもって判断できるようになれば、審査官との意見の相違が少なくなり、より精度の高い判断ができるようになります。

 

資料

  • 商標審査基準
  • 実例で見る商標審査基準の解説 第8版

「実例で見る商標審査基準の解説 第8版」(2015年9月発売)を参考にして解説していきます。

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商標の審査基準を勉強するにはこの本が最もオススメです。

新しいタイプの商標については、まだまだ事例や資料が少ないため今回は割愛します。


4条1項11号の審査基準の全体的の流れ

まずは、4条1項11号の審査基準のざっくりした流れを確認しましょう。


はじめに類否判断の基本的な考え方を学びます。その後、結合商標の類否、一音相違など音声上の類否について触れており、後半は、商品・役務の類否について触れています。

  • 類否判断の基本的な考え方
  • 称呼の発生の判断(AとA+Bの類否など)
  • 音声上の相違する場合の類否判断(1音相違など)
  • 商品・役務の類否判断
  • 新しいタイプの商標の類否判断(今回は割愛)

それでは一つずつ見ていきましょう。

 

類否判断の基本的な考え

まずは、類否判断についての基本的な考えを見ていきます。

 

外観・称呼・観念を総合的に観察する

1.商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない。

引用:商標審査基準


商標の類否判断は、原則、外観・称呼・観念で総合的に観察します。
「総合的に」とありますので、外観・称呼・観念の中から一つだけを見て類似かどうかは判断してはいけません。あくまでも全ての要素を検討した後に「総合的に」結論を出すことが必要です。

しかし、現在の審査ではこれは建前になりつつあります。つまり、称呼を最重視しており、外観と觀念がどれだけ非類似であっても、称呼が類似なら商標全体で類似と判断されがちです。称呼だけであれば、より簡単な判断基準で済むので審査官もぱっぱと処理しやすいのでしょうか。

審判になると商標全体を総合的に観察して判断されます。そのため、審判では、称呼同一のものであっても非類似と判断される場合があります。

 

【参考判例

この考えで有名な判例氷山印事件です。

【昭和43年2月27日最高裁昭和39年(行ツ)第110号】

商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標 がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。  

 

実務上のポイント

審査では・・・称呼重視。外観と觀念がどれだけ非類似でも、称呼が類似なら商標全体で類似と判断されがち。
審判では・・・総合的に観察。称呼同一のものであっても非類似と判断される場合がある。

 

需要者の立場で考える

2.商標の類否の判断は、商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層(例えば、 専門家、老人、子供、婦人等の違い)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。

 

次に、類否判断するときには誰の立場になって判断するのかを考えます。
類否判断は「需要者の立場」で考えます。


商品又は役務の主たる需要者層を考慮する

商標法には「需要者の利益を保護する」という趣旨があります。そのため、必ずその「需要者は誰か」という基本に立ち戻って考えることが重要です。
「需要者は誰か」とは、ある特定の業界の需要者はどのような性質があり、どのような考え方をするのかを検討する必要があるということです。

 

例えば、アパレル業界の人は、英語以外にもフランス語も日常的に触れています。フランス語は日本人にとってオシャレに感じますし、アパレルブランドの名前によくフランス語が使われていますよね。

そのため、アパレル業界の人はローマ字を見たときは英語以外にもフランス語読みもしやすいと思われます。
そうすると、25類「被服」を指定したときは、商標が「VENT VERT」であれば、フランス語読みである「バンベール」の称呼が発生します(平成11年6月1日 東京高平成10年(行ケ)第163号 )。なお、英語読みの「ベントバート」も発生する可能性はあります。

同じように、商標「BARREAUX」はフランス語読み「バロー」と読めると認定されます。(平成 8 年1月30日 東京高平成7年(行ケ)第128号 )

 

化粧品業界もフランス語に親しんでいますので、ローマ字を『英語読みorフランス語読み』し、薬品業界では、ドイツ語に親しんでいますので、ローマ字を『英語読みorドイツ語読み』されます。

このように「需要者は誰か?」と考えることで、称呼の発生パターンが変わるため、需要者を意識することは類否判断には超重要です。

 

実務上のポイント

審査・審判では・・・需要者はどのような性質があるか考えよう。それにより、称呼等の認定結果が変わる。

 

引用商標の商標権の存続期間切れた場合

4.引用商標の商標権の存続期間経過後であっても、第20条第3項又は第21条第1項の 規定に基づく更新登録の申請があったとき又は国際登録に基づく商標権の場合は、議 定書第7条(4)の規定に基づく国際登録の存続期間の更新があったときは、引用商 標の商標権の存続期間が更新されることに十分留意して、本号を適用するものとする。
ただし、引用商標の商標権者が引用商標の商標権の存続期間の更新申請をしない旨 の意思表示をし、存続期間の更新がないことが明らかになった場合は、この限りでな い。

 

 こちらの記事の「(1)先行登録の存続期間が切れてるよ!」を参照してください。

 

結合商標の称呼の発生の判断

結合商標の類否判断をするときは、結合商標のどの部分から称呼が発生するのか要部はどこか)を認定する必要があります。


この項目では、主に2つ以上の単語の組み合わせによる結合商標の称呼発生の判断方法について見ていきます。

 

二段併記の商標の称呼

5.振り仮名を付した文字商標の称呼については、次の例によるものとする。
(イ) 例えば、「紅梅」のような文字については、「ベニウメ」と振り仮名した場合で
あっても、なお「コウバイ」の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ロ) 例えば、「白梅」における「ハクバイ」及び「シラウメ」のように2以上の自然 の称呼を有する文字商標は、その一方を振り仮名として付した場合であっても、他の一方の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ハ) 例えば、商標「竜田川」に「タツタガワ」のような自然の称呼を振り仮名として
付したときは、「リュウデンセン」のような不自然な称呼は、生じないものとする。

 

 

二段併記にする目的の一つに「称呼を固定すること」があげられます。
様々な読み方ができる造語の商標であれば、ある読み方のとき先行登録の商標と類似になってしまう場合があり、その際に「漢字+フリガナ」や「英語+フリガナ」などの表記にして先行登録の商標と類似になることを避けるテクニックがあります。

この項目では、二段併記の商標からどういう称呼が発生するのかを説明しています。

なお、自然に読める読み方のことを「自然称呼」といいます。

 

【パターン1】漢字の部分に自然称呼がある場合、その自然称呼は発生する


 ベ ニ ウ メ
   紅 梅

 

という商標の場合は、称呼はどうなるでしょうか。

「紅梅」はもともと「コウバイ」と読めますので、そのことを知っていたら、パッと見たときはどうしても最初に「コウバイ」と読んでしまいます。
そうすると、「紅梅」にフリガナ「ベニウメ」をつけたからといって、「コウバイ」の読み方が消えてしまうことはありません。

そのため上記の商標の称呼は「ベニウメ」及び「コウバイ」になります。

 

【パターン2】漢字の部分に自然称呼が二つある場合は、その二つの称呼が発生する


 シ ラ ウ メ
   白 梅

 

 ハ ク バ イ
   白 梅

 

「白梅」はもともと「シラウメ」とも「ハクバイ」とも読めますので、そのことを知っていたら、パと見たときは最初に「シラウメ」及び「ハクバイ」と読んでしまいます。
そうすると、「白梅」にフリガナ「シラウメ」をつけたからといって、「ハクバイ」の読み方が消えてしまうことはありません。
同様に、「白梅」にフリガナ「ハクバイ」をつけたからといって、「シラウメ」の読み方が消えてしまうこともありません。

そのため上記二つの商標の称呼はどちらも「シラウメ」及び「ハクバイ」になります。

 

【パターン3】漢字部分から、不自然な称呼は発生しない

 

 タツタガワ
 竜 田 川

 


竜田川」の自然な称呼は「タツタガワ」です。上記の商標のように自然な称呼のフリガナを付した場合は、不自然な称呼「リュウデンセン」の読み方は発生しません。

なお、「タツタガワ」とフリガナを振らない「竜田川」のみの商標であっても、不自然な読みの「リュウデンセン」は生じません。

そのため、上記の商標の称呼は「タツタガワ」のみになります。

 

 

【参考判決】

この考えは、「一葉事件」が参考になります。

 

【平成 19年5月31日 知財高平成19年(行ケ)第10560号】

原告は、本願商標中に「KAZUHA」の文字が併記されていることから、「一葉」の文字 の称呼は「カズハ」と特定され、「イチヨウ」の称呼は生じない旨主張する。確かに、一枚の 葉の図形及び「一葉」の文字に着目するとともに、「KAZUHA」の文字にも着目すること がないとまではいえず、したがって、本願商標から、「KAZUHA」の文字の構成に相応し て「カズハ」の称呼が生じることも否定し得ないが、当該「KAZUHA」の文字は、一枚の 葉の図形の下端部に小さく白抜きの細線により描かれたものであり、その文字の長さも、「一 葉」の文字よりはるかに短く、前後の端部が「一葉」の文字と揃えられているものでもないか ら、「KAZUHA」の文字が「一葉」の文字の読みを示していると理解することは、必ずしも容易であるとはいえず、そうとすると、たとえ、需要者、取引者が、本願商標から「カズハ」 の称呼を得た場合であっても、併せて「イチヨウ」の称呼が生ずることを妨げるものではない。

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ここまでのまとめ

  • 商標は外観・称呼・観念を総合的に観察する
  • 商標は需要者の立場で考える
  • 二段併記の商標の場合は、自然に読める称呼は発生する

 

 

Part2に続きます。

このブログの趣旨について

この「商標実務のブログ」は、
主に実務初心者の商標弁理士、商標担当者を対象に書いています。

弁理士の世界は職人の世界と同じく、「見て覚えろ!」という風潮があり、実務をどう勉強していけば良いかのカリキュラムはネットはもちろん本にも書いていません。

僕は弁理士試験に受かったときは実務未経験でしたので、最初は依頼された商標に対して実際にどう類否判断すればよいのか、どう意見書を書けばよいのかわからず相当困りました。

本を見たり特許庁に聞きまくったり、多くの拒絶理由通知により(今でも拒絶理由は死ぬほど悩みます)徐々に「生きた」知識を得ることができました。

商標は特許と違って、書類の行数も少なく一案件当たりにかける時間も少ないので、一見簡単なように見えます。
また、こなす件数が少ないと問題になる件数も少なく「楽勝じゃん!」という気持ちになりがちです。

ですが、ある程度の件数をこなすと、様々な問題が出てきてます。

指定商品がわからない場合どうするの?
指定商品「コーヒー」と指定商品「コーヒー豆」の違いって?
3条2項がギリギリ無理な場合は?
4条1項11号の意見書でどんな克服方法あるの?
もっと業務を効率化するには?


まだまだ未熟ではありますが、年間数百件以上の案件を扱っており、それなりに経験も蓄積してきました。

業務は様々なパターンがありますが、共通してよく使うノウハウは決まっています。このブログでは、できるだけわかりやすく実務上役に立つノウハウを全て公開する予定です。

またITについては得意ですので(自分でプログラム書いて業務効率化しています)、業務をどう効率化していけば良いのかということも積極的に書くつもりです。


このブログを通して、皆さまの商標実務がもっと楽になることを願っています!


特許事務所向け「ショートカットキー」勉強会を開催しました。その内容と結果

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ショートカットキー勉強会を開催しました

皆様はショートカットキーを使用していますか?
僕もちょいちょいショートカットキーを使っていましたが、
「Ctrl + C」 コピー
とかメジャーなものしか知りませんでした。


しかし、特許事務所の業務の多くがWord・ExcelChromeですので、これらのショートカットキーを極めればもっと効率良く業務をこなせるんじゃない?と思い、昨年所内でショートカットキー勉強会を開催しました。

このショートカットキー勉強会は2ヶ月くらい毎週15分行いました。

 

勉強会の内容

毎週テーマを決めて(例えば、Wordとか)、使えそうなショートカットキーを持ち寄り、これこういう場面で超便利だよとか情報を共有しました。

ショートカットキーはググればたくさん出てきますが、全部を覚えることはできません。
このショートカットキー勉強会では「特許事務所で働いている人が本当に使えるショートカットキー」に限定して情報を共有しました。

 

勉強会の結果

めちゃくちゃ大好評でした。
全員最低5個くらいは新たに習得できて業務スピードが上がっています。
僕も10個くらい増えました。

この勉強会は対象が特許事務所向けの便利なショートカットキーが厳選されているので、覚えることもさほど苦痛ではありませんでした。

 


勉強会の学び

ショートカットキーを覚えるときは、欲張らずに3日に一つずつ習得するくらいのスピードがちょうどよいと思いました。
最初はマウスで操作した方が楽だと思いますが、なんとか頑張ってショートカットキーを使うようにすると、ある瞬間から意識することなく使えるようになります
また、ほとんど使わないショートカットキーは自然と忘れていきますで、それはあまり必要のないものと判断できます。


ショートカットキーの習得の方法

  • 【ステップ1】ショートカットキーを1つ決める
  • 【ステップ2】3日続ける
  • 【ステップ3】使いやすいか使いにくいか判断する

 

勉強会で出てきたショートカットキー 一覧

勉強会で出てきたショートカットキーの一覧です。Windowsのみです。

 

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書式のみを貼り付け

  

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現在のページを再読み込み

 


まとめ

新しいショートカットキーを使えるようになると楽しいですね!

個人的には、意見書フォルダなど新しくフォルダ作るときに「Ctrl + Shift+N」(フォルダ作成)が便利で重宝しています。

一瞬で図形商標を検索しよう!WIPOの「Global Brand Database」基本的な使い方

図形商標の検索には、ウィーン図形分類を使って、J-PlatPatなどで検索することが一般的だと思います。

しかし、「とりあえずざっくり見たいんだけどなぁ」とか、「この図形商標のウィーン図形分類の取っ掛かりすらわからん!」といったときには、WIPOの『Global Brand Database』が便利です。

 (下記の各画像は「Global Brand Database」http://www.wipo.int/branddb/en/を引用しています。)

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この記事では、Global Brand Database」の図形商標検索の基本的な使い方を説明します。

 

はじめに

Global Brand Databaseは「類似画像検索」という技術が使用されています。

「類似画像検索」とは、画像で画像を検索する方法です。これまでに様々な手法が提案されており、形状に着目する手法や、色に着目する手法などがあります。

最近では、意匠の類似画像検索もリリースされたり、ウェブではGoogleが画像検索を提供しています。 


「Global Brand Database」を使う目的

「Global Brand Database」は試してみるとわかりますが、類似の商標を全て拾ってくることはできず、これで図形商標の調査を完結させることはできません。

しかし、そうであっても、ワンクリックで類似っぽい商標を検索できるというメリットはとても大きく、これまでの調査の方法を変えます。

このシステムを使う目的は大きく3つあります。

 

【目的1】同一の商標を見つけるために使う

ウィーン図形分類で検索する場合は、類似順に並べてくれていませんので、検索結果の途中にポンっと同一の商標があったりします。

同一の商標は決して見逃せませんが、例えば1万件の図形商標を調査していれば、見逃しが発生することも考えられます。

「Global Brand Database」は同一の商標であれば、かなりの確率で見つけ出してくれますので、同一の商標の見逃しを事前に防ぐことができます

実際に、僕はこのシステムのおかげで同一の商標を見つけたことが3〜4回あり、助かりました・・・

 

【目的2】ウィーン図形分類の候補を得るために使う

「Global Brand Database」が出した検索結果を200〜300件程見れば、1つくらいは似たような商標を見つけてくれますので、その商標のウィーン図形分類を調べます。

そうすると、その商標から調査予定の商標のウィーン図形分類の候補を得ることができます

馬や子供など、キャラクターを描いている画像商標であれば、まだウィーン図形分類は見つけやすいですが、抽象的な図形、幾何学的な図形などはウィーン図形分類を探し出すことは難しいです。

そんなときは、このシステムを使うことでウィーン図形分類を見つける時間が短縮できるという大きなメリットがあります。

 

【目的3】ざっと見るために使う

商標をウィーン図形分類でいきなり調査する前に、とりあえずどんな感じかな〜と見ることできます。

しかし、似ている商標を見つけることができる場合もありますが、99%は似ていません。

あまり結果を期待せずに、100件中1件あればラッキーくらいの気持ちで検索するとよいと思います。 

 

「Global Brand Database」の使い方

下記の4つのステップで検索することができます。

(1)国を指定する

(2)検索画像を入力する 

(3)どの特徴に着目して検索するか決める

(4)文字商標・図形商標の種類を選ぶ

 

 

(1)国を指定する(Source)

Global Brand Databaseは、世界の商標を検索することができますが、今回は日本の商標について調べてみましょう。

Source」タブから「JP TM」を選択しましょう。

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(2)検索画像を入力する(Pick an image)

次に「Image」タブをクリックします。

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Pick an image」の場所に検索したい画像のファイルの場所を指定するか、画像をドラッグして入力します。

 今回は、この犬のイラストで検索してみます。

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そうすると、このように反映されます。

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(3)どの特徴に着目して検索するか決める(Pick a strategy)

画像のどの特徴に着目して検索するかを選びます。着目する特徴によって、検索結果が大きく異なります

以下の4種類から選ぶことができます。

  • Shape:形状の特徴
  • Color:色の特徴
  • Texture:線のタイプ(the types of lines)の特徴
  • Composite:形状と色の組み合わせの特徴

 この中ではShapeが最もオススメで、検索結果が一番良好です。(体感的に)

Textureはよくわからないですが、Shapeと似ているようです。詳しくはヘルプで確認してください。

今回は、Shapeを選択します。

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(4)文字商標・図形商標の種類を選ぶ(Pick an image type)

 最後に文字商標か図形商標かを下記4つのタイプから選びます。

  • Verbal:文字商標
  • Nonverbal:図形商標(文字部分なし)
  • Combined:文字+図形の結合商標
  • Unknown:不明

 

今回は、Nonverbalを選択します。ウィーン図形分類を探すだけなら、Nonverbalだけでもよいかもしれません。

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この後に、検索(filter)ボタンを押します。

 

検索結果

1ページ目

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2ページ目

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3ページ目

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ご覧の通り、全然似てない商標ばかりです。

 

しかし、3ページ目の中ごろにこんな商標がありました。

 

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この商標のウィーン図形分類を見てみると・・・

 

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下記のウィーン図形分類の候補を取得できました!

  • 3.1.8 イヌ、オオカミ、キツネ
  • A3.1.17 立っているシリーズⅠの動物

「立っているシリーズⅠの動物」という分類があることを知れたおかげで、J-PlatPatで「3.1.19 座っているシリーズⅠの動物 」という分類も見つけることができました。この方法ならウィーン図形分類の候補がすぐに見つけることができます。

 

この後は、J-PlatPatの図形検索でいつも通り検索しましょう。

 

まとめ

いかがでしょうか。これまでは、いきなりウィーン図形分類のみの検索しかできなかったのですが、Global Brand Databaseを使うことによって、ウィーン図形分類の候補や同一の商標を検索できたりと、ぐっと調査の方法が広がります。ぜひ、一度試してみてください。

 

J-PlatPatをブックマークするときは、「サイトマップ」ページが超オススメ

今回はJ-PlatPatを利用するときのちょっとしたテクニックです。

 

J-PlatPatをブックマークするとき

J-PlatPatは弁理士であれば、かなり使いますよね。

ってことは当然にお気に入り(ブックマーク)に入れていると思うんですが、

そのお気に入りのURLはトップページですか

 

【J-PlatPatのトップページ 】

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実は、トップページをお気に入りにしていると非常にモッタイナーイ!!です。

 

 

なぜなら、この初心者用のトップページをプロである弁理士が使うことは非常に少ないからです!!

絶対どこかのページに移動します!

商標弁理士であれば、「商標出願・登録情報」ページとか「称呼検索」ページとか「商品・役務名検索」ページとかに移動します。

 

 

そうすると、トップページであれば、まずページ上部にある青色の「商標」というところにマウスを上に乗せて、

 

J-PlatPatのナビゲーション 】

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にょろにょろとページ一覧を出してから、そのリンク先をクリックして移動しますよね。

 

J-PlatPatのにょろにょろ 】 

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このにょろにょろ待つ間、約1秒!!

 

これが無駄です!!

 

なぜ、にょろにょろさせるのに、1秒も待たなくてはいけないのか!

 

 

安心してください。

そんなときは、サイトマップ」ページがありますよ。

 

サイトマップページ】

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ここであれば、既に全てのページが表示されているので、にょろにょろの1秒間を節約できます

 

いきなり好きなページに飛んでください!

 

小さいことですが、1秒の積み重ねが効率化には非常に大事です。

 

まとめ

では、下記から早速「サイトマップ」ページをお気に入りにどうぞ。

サイトマップ|J-PlatPat

 

商標調査のヒアリングで重要な5つのポイント

商標調査前にヒアリングを行いますが、このヒアリングが正確にできていないと、商標や商品・役務を正確に特定することができません。

そうすると、その後の出願にも影響が出て、全く意味のない権利になったり抜けや漏れがある権利になる可能性があります。

 

そのため、ヒアリングは商標業務の中で最重要な業務といえます。 

この記事では、ヒアリングで重要な5つのポイントをまとめています。

 

(1)商標を口頭だけで聞かない

商標調査の依頼を受けるときには、事前に、書面やメールなど、文字や図形がわかる形で教えてもらいましょう。

もし口頭だけで商標調査の依頼を受けると、クライアントと自分で思っている商標が異なり調査結果が変わってしまうこともあり、調査をやり直しする場合もあります。

例えば、「アマゾンという商標で調査して」と言われた場合は、下記のように様々な態様が考えられます。

  • Amazon
  • アマゾン
  • アマ・ゾン
  • ロゴのアマゾン

 どの商標を望んでいるのかを明確にするためにも、できるだけ紙かメールの形でもらいましょう。

 

 

(2)他に使用している者がいるかを聞く 

他社が商標を使用しているかどうかの情報は重要です。それによって、3つの判断が大きく変わります。

  • 商標出願を急ぐかどうかの判断
  • 識別力の判断
  • 早期審査時に商品を減縮せずに済むかの判断

以下に説明していきます。

 

(2−1)商標出願を急ぐかどうかの判断が変わる

クライアントによって調査報告などの納期をバラバラにするべきではないですが、唯一他社が使用している場合は、超特急で調査・出願すべきです。  

 

僕は実際に1日違いの出願を経験しました。クライアントはタッチの差で負けました。

「たった1日頑張って早く調査していれば・・・出願していれば・・・」と後悔があります。

 

他社が使用している場合は、その会社も商標出願を検討している可能性が高いです。

そのため、1日の違いが商標登録ができるかを分ける重要な違いになり得ます。

後悔しないためにも、他社が使用していれば、超特急で調査・出願しましょう

 

(2−2)識別力の判断が変わる

他社が使用していれば、その商標は識別力を失います。

例えば、飲食店で商標「わっしょい」は識別力はあると思うでしょうか?

普通は識別力あるように感じますが、審決例では「わっしょい」は皆が使っているから識別力なしと判断されています。

識別力を適切に判断するためにも、他社が商標を使用しているかどうかの情報を得ることは重要です。

 

【参考審決例】不服2014-25553 

・・・・飲食物の提供に係る分野においては、店舗の名称に多数用いられているから、本願商標の構成中の「わっしょい」の文字部分は、その指定役務との関係において、自他役務を識別する機能を果たし得ないか、又は弱いものというべきである

引用:不服2014-25553 

shohyo.shinketsu.jp

 

(2−3)早期審査時に「商品を減縮せずに済むか」の判断が変わる

早期審査の条件としては、通常は現在使用している商品のみで出願する必要がありますが、第三者が使用している場合は、使用している商品のみに限らなくてよいとされています。(「権利化について緊急性を要する出願」と言います)

そうすると、早期審査で審査期間が短くなるのに、通常の出願と同様に権利範囲を広く取得することができ、とても有利になります。

 

www.jpo.go.jp

 

 

このように他に使用している者がいるかどうかによって、様々な判断が変わります。

 

 

(3)主力商品・サービスを聞く

販売している商品が多岐にわたる場合は、どの商品・サービスを優先して権利を確保するのか検討する必要があります。

主力商品の権利が既に他社に取得されている場合は、不使用取消審判や商標変更が必要になりますが、あまり重要ではない商品であれば、その部分を削って出願することによって一定の権利を得ることができます。

他社に先に取られた商品は販売しないようにすれば、基本的には問題になりません。

 

主力商品・サービスが何であるかによって、調査後のアドバイスが変わるため、主力商品・サービスを聞いておくことは重要です。

 

 

(4)他にこういう商品・サービスやってませんか?と聞く

ここは商標弁理士腕の見せ所です。

クライアントが気付いていないが、実は取得しておくべき商品・サービスがあります。

例えば、クライアントが次のように説明してきた場合は、どの区分が最適でしょうか?

 

「アプリ作ってます!」

 

この場合は、9類「電子計算機用プログラム」、42類「電子計算機用プログラムの提供」などが想定されます。

 

「カレーの飲食店しています!」

 

この場合は、43類「飲食物の提供」が想定されます。

 

しかし、本当にこの区分だけで、クライアントのビジネスが十分に守れるでしょうか?

 

不安な場合は、そのビジネスと関連が深い商品・サービスの権利が必要かをヒアリングしましょう。

  

「アプリ作ってます!」

→広告収入も目指しますか?

 

広告収入もあれば、35類「インターネット上の広告スペースの貸与」など

 

「カレーの飲食店しています!」

→カレーのテイクアウトもありますか?

 

テイクアウトがあれば、30類「調理済カレーライス」など

  

商標の場合は、ビジネスモデルに興味を持つことが非常に重要です。このビジネスはどういう風に儲けてるのかな〜と考えることにより商品・サービスの提案力が変わってきます。

 

 

(5)何か疑問点はありませんか?と聞く

積極的なクライアントであれば、ヒアリング中に質問をガンガンしてきますが、そこまで積極的でないクライアントの場合はまだ不明な点が残っていることがあります。

そんなときは、

 

「何か疑問点はありませんか?」

 

と聞いてあげましょう。

 

もしかしたら、何か引っかかっていることがあり、それが重要なことかもしれません。また、疑問点を解消することで顧客満足度を上げることにもつながります

 

 

まとめ

商標調査のヒアリングでは下記の5つのポイントが重要です。

  • 商標を口頭だけで聞かない
  • 他に使用している者がいるかを聞く
  • 主力商品・サービスを聞く
  • 他にこういう商品・サービスやってませんか?と聞く
  • 何か疑問点はありませんか?と聞く

全て網羅できなくても、このうちの少しでも意識することにより、よりレベルの高いヒアリングをすることができます。

ヒアリングをもっと有意義にするための下準備5つのポイント

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商標調査をする前には商標と商品・役務を確定させる必要があります。

その際に、どのような権利を確保したいのか「ヒアリング」が非常に重要になります。

この記事ではヒアリングする際の注意事項をまとめています。

 

 

ヒアリング前の下準備

いきなり、電話や面談などであれこれ聞くと無駄に話が長くなってしまったり、重要なところを聞き漏らしてしまう可能性があります。

 

特に商品・役務と区分の関係が全て頭に入っていればいいですが、事前に下調べしないと区分数を少なめに伝えてしまうこともあり、後々の不満にも繋がります。

 

ヒアリングの前にメールなどで、希望の商標と商品をざっくり聞いておきましょう。

そして、その情報を基に下記の5つのポイントを調べることが重要です。

 

(1)商標の使用態様を調べる

実際にホームページなどで商標を使用している場合は必ず見ておきましょう。

それによって、文字、図形、それらの結合と商標のパターンを把握します。

 

(2)商標の読み方・意味を調べる

文字商標の場合は、事前に読み方と意味を把握します。

英語やフランス語の場合は、発音記号やJ-PlatPatなどで一般的な読み方も調べておきます。ヒアリング時には、希望する読み方も聞きましょう。もしかすると、造語的に読ませることを希望するかもしれません。その際は、二段並記がよい場合もあります。

 

(3)区分を把握する

事前にもらった情報で、できる限り想定される区分を把握しておきます。

 

例えば、「アクセサリーを製造・販売しています。」とメールなどで情報をもらっていえば、

 

14類 身飾品(指輪、ネックレスなど)

26類 頭飾品(かんざしなど)

 

などを想定しておいて、ヒアリングでは、頭につけるアクセサリー類があるかどうか聞きます。

なければ、14類のみでOKですが、「かんざし」も中心に販売している場合は2区分の提案になるので、必ずその旨もヒアリング時に伝えておきましょう。

 

もし、事前に区分を把握しておかなければ、ヒアリングのあとにさらにメールなどで聞くことになり二度手間になります。

 

(4)J-PlatPatの「称呼検索」でざっと先行登録を調べる

「称呼検索」で区分指定や類似群コード指定なしで、ざっと先行登録商標を調べておきます。あまりにも一般的な用語ですと、競合がすぐに見つかる可能性があります。

その場合は、ヒアリング時に、不使用取消審判などの方法もあることを伝えておきましょう。

 

(5)クライアント企業のビジネスモデル・登録商標を調べる

新しく付き合う企業であれば、これまでどういう商品を販売していたか、どういう商標を出願していたかを確認します。

途中で社名変更などしていれば、もしかすると自社の登録によって4条1項11号に該当してしまうかもしれません。これまでの商標登録について表示変更を勧めることも必要になります。

また、商標の出願経験がないクライアントの場合は、極力専門用語を使わずに平易な言葉で伝えるように心掛けます。ある程度知識があるクライアントであれば、掘り下げて深いところまで細かく聞くことに徹します。知識のあるクライアントに対して平易な言葉で対応すると、もやもやされますし、少しなめられます。 

ビジネスモデルを調べておけば、顧客が希望する区分と、本当に取得すべき区分が異なる場合などにすぐに対応することができます。

 

なお、慣れてくるとこれらの作業が大体10分〜15分くらいでできます。 

 

まとめ

ヒアリングの際には下準備が結構重要です。これによりポイントを押さえたヒアリングができ、クライアントも自分も効率よく業務が行えます。

 

次回 「ヒアリングの方法」に続く